★愛欲の施設 - Love Shelter -
□第17話 見慣れた街角
1ページ/8ページ
《見馴れた街角》
深緑だった庭の木々もすっかり赤や黄色にその色を変え、肌寒い冷気を運ぶ秋の朝は布団にくるまっていてもまだ熱を求めようとする。
そうしてモゾモゾとシーツを身体に巻き付けようとしたところで、優羽は体の違和感に気付いた。
ずっしりと腰が重たい。
「───ッ!?」
瞬間。覆われた口に叫び声を飲み込んだ優羽は、その手の持ち主を確認して目を大きく瞬かせた。
「ふぇるッ?!」
どうしてここに?と、聞きたくても声はくぐもるだけで、その名前をもつ人物はどこかイタズラな笑みを浮かべて優羽を見下ろしている。
自分の部屋に用もなく訪れる人物に何人か心当たりはあるが、嬉しそうに笑みを落としてくる輝の姿に、優羽は嫌な予感を巡らせた。
「おっと、暴れんなよ?」
予感は的中。
寝起き間近にどうしてここの連中たちは、おかしな機械を持って現れるのだろうか。
せめて起きてから、心の準備をさせてくれてからでもいいのに、まったくそのつもりはないらしい。
「ヒゥッ?!」
「こら、優羽。竜が起きても知らねぇぜ?」
卵形の小さな機械を膣に埋め込もうとしてくる輝から逃れようとした腰は、硬直した優羽にならって素直にそれを受け入れていく。
状況がよくわからないが、輝の言葉通り竜が隣で寝ていることを確認した優羽は、昨日の夜を思い出して顔を赤く染めた。
「ほら、力入れんな。」
「〜ッ…ンッ」
そうして竜に向けられていた視線は、秘部に埋めこまれていくもののせいでまた輝に戻る。
「よっしゃ、ちゃんと入ったな。」
ずるりと指を引き抜いた輝は、確認するようにポンポンと下腹部辺りを愛しそうに撫でて、優羽の奥に置いてきた卵を確認する。
「竜に渡すんじゃねぇぞ?」
そうして入れるものだけ入れて輝は行ってしまった。
ポカンとその背中を見送っていた優羽は、たしかに下腹部に埋め込まれたものを感じて顔を赤から青へと変えていく。
「ちょっ、輝?!」
嘘でしょと、去っていく背中に小声で訴えてみても、その人物は笑顔で手を振って部屋から出ていってしまった。
昨夜家族の一員になったばかりの竜の腕の中で目覚める朝にしては、あまりにも衝撃的な朝すぎる。
「も、やだぁ。」
消え入りそうな声だったにも関わらず、優羽の声に反応したらしい竜が眠そうに身体を動かしてきた。
「ん、優羽?」
どうやらまだ、完全には起きていないみたいだった。
「どないしたん、寒いからこっちおいで。」
「ッ?」
丁寧にシーツを引っ張って一緒にくるむように腕を回してきた竜に優羽の肩がわずかに震える。
捕まる前にベッドから抜け出そうとしたのに、優しく抱き締められた腕の中でそれはさすがに不可能だった。
「おはよ。」
そのまま至近距離で笑う竜にキスを求められて逃げられるほどの力は持っていない。
「んっ〜ッおっおはよう。」
何度か甘い舌をはわせて、朝の挨拶が終わる。
「朝から優羽が横におるんて、なんかええな。」
無邪気な竜の笑顔にまた胸が苦しくなってきた。
ドキドキと異常な心拍はこの場合、輝のイタズラのせいだと思えなくもないが、普段怖そうに見える人が見せる笑顔ほど不意打ちなものはない。
おまけに朝日がカーテンの隙間からこぼれおち、真新しいシーツの白さが彼のすべてを引き立たせていた。
「優羽、調子でも悪いんか?」
「えっ!?」
まさか、見惚れていたとも言えずに優羽は口ごもる。
ドキッと高鳴った心臓が、優羽をより不審に見せていた。
「もしかして、身体ダルいんか?」
「えっ?」
「昨日、えらいムチャさせてしもたからなぁ。」
すまんかったなと謝る竜に、ますます優羽の顔は赤くなる。
「優羽がえらい可愛かったから、ついついな。」
「可愛いって…ッ…そんな」
「アホいえ。優羽は可愛いで。」
真顔で言い寄ってくる竜に、優羽はゴクリと喉をならした。
なんなんだこの人は!?と一瞬身構えたが、ドキドキと鳴りやまない鼓動が彼に好意を寄せているため意味をなさない。
「なぁ、優羽。俺のことまだ怖い?」
ギシッと音をたててベットがきしんだ。
覆い被さるように上をとった竜に、優羽の心も軽くはずむ。
「うっううん。」
小さく首を横にふった優羽に、一瞬停止したように見えた竜が次の瞬間、勢いよく抱きついてくる。
「ほんまか、よかった。」
「ちょっ、竜ちゃンッ?!」
「うわっ!?」
深い口付けを交わそうとした竜が、しまったという風に身体をはなした。
「せっかく優羽が名前読んでくれたん聞き逃した!もっかい言ってくれへん?」
「ッ?!」
一体何事かと驚いたように竜を見上げていた優羽は、惜しみ無く恥ずかしいことを伝えてくる竜に言葉を失った。