★愛欲の施設 - Love Shelter -

□第14話 罪の償い
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《罪の償い》

抱いてくれるなら誰でもいいのか。
その問いかけに、答えられる言葉が何も浮かんでこない。
彼らに初めて犯された日のことは今でも忘れていない。どんどんと心までも犯してくる彼らの優しさや甘さに溺れ、いつの頃からか自分を取り囲む全てが彼らで染まっていた。
彼らなしでは生きていけない。
それなのに、なぜ自分は今ここで他の男に体を許そうとしているのか。
快楽の上塗り?
彼ら以外から与えられる快楽なんて望んでいないはずなのに、もうそれを口にする資格は自分にはない。
なくなってしまった。


「なぜ泣く?」


自分でもわからなかった。
ただ、慰めるようにほほを撫でる彼の手を拒むことが何故か出来ない。


「ッ……あっ」


差し込まれていた枕が取り払われ、ゆっくりと押し倒されていく身体がわずかに硬直する。


「逃げないのか?」

「ッ?!」

「逃がさないけどな。」


至近距離で覗き込まれた瞳に鼓動が鳴く。そのまま唇を重ねた室伏が、着ていた服を脱ぎ始めていた。

"誰でもいいのか"

彼の言葉に対する答えは、優羽の口から出てこなかった。


「誰でもいいわけじゃないの。」


でも誰も選べないことはわかっている。
口から出そうになる言葉は、もれる吐息に流されて消えていく。


「俺を選ばないか?」

「なッん?!」

「俺は優羽にそんな顔はさせない。」


言っている意味が全然わからない。

選択肢が目の前の彼と魅壷の二通りしかないのなら、どちらを選ぶかは決まっている。
ありえない発言に顔をひきつらせた優羽を見下ろしながら、彼は真剣な顔でその最後の一枚を脱ぎ終えた。


「優羽を俺だけのものにしたい。」

「ッ?!」


不覚にも、ときめいてしまったことは誰にも言えない。
直後、腰をつかんできた室伏の肩を優羽は青ざめた顔でたたいていた。


「意味わかんなッイヤッ!?」

「力を抜け、いれるぞ。」

「ッ…ぅアッァ!?」


耳元でささやかれた言葉に気をとられた瞬間、容赦なく差し込まれてくるモノに耐えきれず、優羽は彼を強く抱きしめた。


「そんなに締めるな。」

「ッ…やっだって…はぁッ」


甘い口づけとは違い、強く埋め込んでくる感覚に意識が乱れていく。
交わる全身が熱く溶けていくようで、懐かしい感覚が体中を駆け巡る。


「ヤッ…めっ…〜っくぁ」

「やめると思うか?」

「ッ?!」


もう、どうでもよかった。
激しい律動も優しい愛撫も、何もかもが心地いい。
抜き差しされる質量に圧迫され、奥まで犯してくる男の下で息が上手く続かない。


「優羽───」

「ッ…あっ…っ…ん?」

「───名前、呼んでくれないか?」


やっぱり彼を知っている気がする。
初めて重ねる肌のはずなのに、髪をつかむ手もあわさる額もどこか知っている気がする。
懐かしくて、胸が悲しいほどに苦しい。


「りょ…ぅ…ッ涼ッ!!?」


彼の名前を紡いだ途端、それまでの優しさが嘘のように、荒く動き始めた律動に舌を噛みそうになる。
激しさを増して襲いかかる快楽の波に、溺れて何も見えなくなっていた。


「ンっ…あぁ…ぁ涼ッ〜…ン…──」


誰を求めているのか


「───ッい…ク…りょぅ涼ッ!」


何度も何度も名前を呼んで、求める腕に答えてくれる幸せを知っている。


「優羽───」


強く抱きしめあった身体が、次の瞬間には大きく脈打っていた。
恥じらいも抵抗も捨てて彼のすべてを最奥の部屋で受け入れていた。


「───俺のものになれ。」


その言葉を最後に、優羽は涼を抱き締める力を緩める。
涼もまた解放するように優羽から自分を引き起こした。


「……っ…あッ」


抱きしめあった温もりが離れていく。
引き抜かれた下肢が淫乱な蜜を吐き出したが、なぜか離れがたいような錯覚に意識は混乱していた。
名残惜しいような感覚に驚かされる。
けれど、欲情の落ち着いた意識には焦りの念が再来していた。

一言にいえば「どうしよう」だ。


「帰れ。」


言うが早いか、テキパキと下着から始まり、服を着せてくる彼の行動に優羽は戸惑う。
訳がわからないまま、服を着せられ靴まで履かせられ、玄関まで体を引っ張られたとなっては帰らないわけにもいかなかった。


「りょ涼?!」


あまりにも突然の仕打ちに理解が追い付かない。
なぜ、急に帰れというのか。
情事後に、これだけ淡々と追い返されると思ってなかっただけに、困惑と混乱で変な感覚が心に渦巻く。


「迎えなら来てる。」

「え?」


彼は優羽を連れて自宅前のエレベーターのボタンを押したあと、さも当然のように優羽を振り返った。


「そのネックレスはGPS付きだからな。」


トンっと、指で示されたネックレスに備わっているものの正体に驚きを隠せない。
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