★愛欲の施設 - Love Shelter -

□第12話 過保護な男たち
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《過保護な男たち》

嵐も無事に過ぎ去り、まだ暑さが残る秋の入り口。
無駄に広いリビングのソファーに埋もれながら、手渡されたばかりの小さな機械相手に優羽はひとり奮闘していた。


「あれ?」


説明書を読んでいるうちに、何故か音をたてて真っ黒になってしまった画面に焦る。


「こ…こわしちゃった……かも?」


どのボタンを押しても動こうとしない平らな機械に、優羽の焦りはますます募っていく。
今朝、出掛け間際に幸彦がくれた携帯は、半日たった今になっても使い方がよくわからなかった。

誰かに教えてもらおうにも、晶は病院に行ってしまったし、輝は作業室にこもっている。
戒は図書館で、残る陸も今日は元気に高校へ登校しているはずだ。


「どっどうしよう……」


もらった日に壊してしまったと、焦った頭が混乱する。
混乱すればするほど、泣きそうになってきた。


「なにしてんの?」

「ッ!!?」


背後からかけられた声に驚いて思わず振り返ると、いつの間にか帰ってきたらしい陸が不思議そうな顔で立っていた。
縮こまりながら必死に何をしているのかと声をかけた陸は、まさか涙目で見上げられると思っていなかったのだろう、驚いたように目を瞬かせると優羽の隣に腰かける。


「どうかしたの?」

「〜っ…りくぅ〜〜」


タイミングよく現れた助っ人に、優羽は抱きつかんばかりの勢いで陸に壊れた電話を差し出した。


「どうしようっ…今朝もらったばかりなのに、もう壊しちゃったの……」

「えっ?」


何のことかサッパリわからないらしい陸が、首をかしげながら半ば強引に差し出された優羽の携帯を受けとる。
それと優羽を交互に見つめながら、

「誰にもらったの?」

と、怪訝な表情で疑問をなげかけた。


「お義父さんが仕事に行く前にくれたんだけど、使い方がよくわからなくて……説明書読んでたら、ピーっていって、真っ暗になって……どうしよう、陸!やっぱり、壊しちゃったのかなぁ?」


混乱で早口になりながら説明らしい説明も出来ずに、優羽は陸を見つめる。
陸は怪訝な表情から、難しい顔に変わり、何とも言えない表情を浮かべていた。


「どっどう?」


ただ黙って見つめてくる陸の姿に、優羽はイイ返事がくることを祈っていた。


「うーん。」


裏返したり、ボタンを押してみたり、考えるように機械に指を滑らす陸の行動をじっと見てみる。

サッパリわからない。

なんとか陸に救いの希望を見いだそうと、優羽は陸の横で大人しくジッとその様子を見守っていた。
けれど、陸はフッと小さく笑いをこぼしただけで、意地悪く優羽を見つめる視線を細めてくる。


「あ〜あ〜。ダメだね、もうコレこのままだと動かないよ。」

「えっ!?そんなっ?!」


絶句した優羽の姿に、陸が眉を寄せて微笑んだ。


「まぁ、なんとか出来ないこともないけど?」

「ほっホントっ!?」


助かる見込みがあるのなら是が非でも教えてもらいたい。
優羽は、陸にすり寄るようにその距離を縮めてその答えを待った。


「うん、でも───」

「でも、何?」


もったいぶる陸に、優羽は真剣な顔をよせる。
何か現状を打開する方法があるのなら聞いておきたい。


「───僕もちょうど困ってるとこなんだよね。」

「陸も?」


それは意外だった。
パット見、悩みなんてなさそうだが、学校で何かイヤなことでもあったのだろうか。


「うん。もし、優羽が僕の困ってることを助けてくれるっていうなら僕も助けてあげる。」

「えっ?」


全然そんな風には見えないが、悩みごとのひとつやふたつ持っていてもおかしくないと、優羽は首をかしげた。

携帯の事で頭がいっぱいだったが、確かに陸の様子はいつもと違っているように見えないこともない。
もっとも陸のことだから、それが悩みなのかどうなのか検討もつかない。


「私でよかったら、なんでもするよ?」

「絶対?」

「うん。」


当然だと安易にうなずいた優羽の顔は、してやったりな陸の顔をみて固まった。
にっこりと極上の笑みを浮かべる悪魔との取引は、もちろんなかったことには出来ない。


「っ!?……んっ?!」


どうしてこんなことになったのだろうか。

現状が理解できないまま、優羽はそのままソファーに押し倒されるようにして、陸に唇を奪われていた。
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