★愛欲の施設 - Love Shelter -

□第10話 返却のループ
1ページ/7ページ

《返却のループ》

いくら昼が長いといっても、夏にも夜はやってくる。
仲良く二人で輝と陸が晩御飯の用意をしていたはずだが、いつの間にかリビングのソファーで眠ってしまったらしい。


「あっ。帰ってきたみたい。」


揺れるソファーの動きに眠りから覚めた優羽は、陸の声が向かう先を追いかけるように体を起こした。


「優羽、晶と戒が帰ってきたぞ。」


輝の手が髪を撫でながら通りすぎていく。


「あっ。」


ようやく意識が追い付いた優羽は、自身の恰好も忘れてパタパタと陸と輝の後を追いかける。
玄関の方向から歩いてくる面影には、見覚えがあった。


「お帰りなさい。」


笑顔で出迎えた優羽の姿に、不機嫌そうに顔をしかめていた二人の男が固まった。
後ろでクスクスと笑う輝と陸の姿に理由がわかるものの、目の前の優羽の姿に顔がゆるまずにはいられない。


「うわ、こんなに沢山。重たかったでしょ。持とうか?」


戒の抱える袋をみて手を伸ばした優羽は、渡される荷物の代わりに袋を床に置いた戒に引き寄せられる。


「可愛すぎます。」

「えっ?」


ギュっと強く抱き締められた身体に埋まる戒の感想に優羽は思い出した。


「あっ。」


そうだ。

数時間前の出来事がフラッシュバックのようによみがえってきた。
勝手に部屋へ侵入して、勝手に服を拝借して、そこで別の男と愉(タノ)しんだ。

自分が晶のコレクションのひとつであるらしい女子高生に扮していたことを思い出して、優羽はおそるおそる晶に顔をむける。


「ごめんなさい。これはっその───」

「よく似合ってるね。」

「───えっ?」

「可愛いよ。」


てっきり怒られると思っていただけに、優羽は戒の腕の中でパチパチとまばたきをする。
使用した経緯を話さなければならなかったらどうしようかと、無駄に早鐘を打っていた心臓が人知れずホッと息をはいた。


「怒ってないの?」


返事の代わりに頭を撫でてくる晶の笑顔になぜか悪寒が走ったが、たぶん気のせいだろう。
抱きついていた戒が、呆れにも似た息を耳元に吹きかける。


「優羽はバカですね。」

「ッ?!」


顔の真横で笑うなんてズルい!
そう叫びたかったが、顔を真っ赤にした優羽は、戒が離れていくのをただじっと見つめることしか出来なかった。

かっこよすぎて、心臓はいくつあっても足りない。


「ねー。ご飯食べよーよ。」

「ッ?!」


今度は背後から抱きついてきた陸に、優羽の肩はビクッと驚く。


「早く食べたい──」

「陸ッ…っ…ちょ」

「───でしょ?」


耳元で男の声に変わった陸の視線は、優羽を越えて晶にケンカを売るように鋭く笑っていた。


「優羽いこっ。」

「え、あ、うん。」


一瞬訪れた無言の沈黙に多少の違和感がわくものの、可愛く笑顔で手を引かれればうなずくしかない。
もちろん断るわけもなく、その場にいた全員が素直にそれに従った。


「飯、もう出来てるから。」

「それは助かります。花火大会だとかで、さすがに疲れました。」

「そんなに人多かったの?」

「この時間だと、もうけっこう渋滞していたよ。」


ぞろぞろとダイニングに入るなり、それぞれが席につくのにあわせて優羽も座る。
その姿を横目にとらえた戒が、嬉しそうに目を細めた。


「優羽は似合いますね。」

「ほんと?ちゃんと女子高生に見えるかな?」

「世界中探しても、これほど高校の制服が似合う女の子はいませんよ。」


それはいくらなんでもおおげさだと思うが悪い気はしない。
照れながら戒にお礼を言った優羽は、いただきますと赤い顔で手を合わせる。


「あ。おいしい!」

「だろ。」

「美味しいもの食べると、庭仕事を強制労働させられた身体が癒されるよね。」


陸は相変わらず減らず口が絶えなかったが、それでも今日、太陽が照りつける中で仕事をこなしていたのは事実だ。
顔をひきつらせた輝の代わりに、優羽は苦笑の顔を陸にむけた。


「陸もお疲れ様。」

「優羽ほどじゃないよ。ねっ、輝?」

「だな。」

「うっ。」


ふたりの視線を誤魔化すように顔をそらした優羽は、記憶に残る淫乱な行為を洗い流すようにお茶を飲む。


「それで、大掃除は終わったんですか?」


うまく切り替えてくれた戒の言葉がありがたい。


「窓と玄関と廊下は終わったよ?」


自分の担当していた箇所は今日中に全部終わったと優羽はうなずいた。が、庭は陸、その他は輝が担当だったために全部まではわからない。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ