★愛欲の施設 - Love Shelter -

□第5話 囚われた感情
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「はぁ?優羽?俺んとこじゃねぇよ。寝てんじゃねーの?」


作業中に鳴った電話の相手に、輝は苛立ちを隠しもせずに声をあげる。
地下で仕事をしている彼にとって、時間の感覚は少し違うらしい。


「まだ、寝るには早ぇか。」


一度携帯の液晶画面にうつる時計を確認した輝は、再度、電話越しの相手に向かって声をかけた。


「風呂でのぼせてるとか?」

「本当に一緒じゃないんですか?」

「だから、俺じゃねぇって。」

「そちらにいないんでしたら、もういいです。」


どこかすねたように不機嫌な戒の声に、輝は作業をしていた手を止める。
その時ハッと何かひらめいたのか、その顔がみるみる焦りをにじませると輝は携帯を持ったまま部屋を飛び出した。


「おい、陸は?」


電話越しの相手も息を飲むのがわかる。
さっき確認した時刻は、夜の八時半をまわっていた。


「戒!陸の部屋いけ!」


地下からあがる階段を数段飛ばしでかけあがりながら、輝は戒に目的地を知らせる。


「わかりました。」


勉強を終えた戒と患者からようやく解放された晶が帰宅したのは今から五分ほど前。いつもであれば、パタパタと足音をたてて玄関まで迎えに来る優羽の姿が見えないことを不審に思った二人は、今朝、優羽に頼んだ場所へと電話をかけた。

けれど、輝から返ってきた予想外の答えに晶も戒も怪訝な顔をする。
外は雨。
匂いも音も掻き消すほどの雨音に、気づくことが遅れたことの後悔が胸を打つ。


「輝はなんて?」

「晶。陸の部屋です。」

「っ!?」


輝との電話を切るなり、焦燥の顔で振り向いた戒の声を合図に、晶も走り出す。
三人とも陸が帰ってきていたことをたった今、思い出した。


「くそっ!あの馬鹿。」


作業を途中で放り出して地下から階段を駆け上がってきた輝が、同じように緊迫した面持ちで走る晶と戒に遭遇する。


「いつから一緒なんだよっ!?」

「わかりません。朝食の時が最後です。」

「もう十時間近くたってるね。」


合流した彼らは、バタバタと陸の部屋にむかいながらお互いが持つ情報を交換する。

二階の突き当たり。

嫌な予感は当たるもので、一番端の陸の部屋からは、かすかに鈴の音が響いていた。


「くそっ!」


荒い息を吐きながら立ち止まった輝が舌打つ。

防音が屋敷中に施されているせいで集中して聞かなければ聞きとることが難しいそれも、長年、弟をみてきた兄たちに中の現状を知らせるには十分な音量だった。


「陸っ!!」


バンっと、前振りなく蹴り破ったドアを吹き飛ばし、その勢いのまま輝は陸を殴り飛ばした。


「──ッ!?」

「優羽、大丈夫ですかっ!?」


陸の真下で虚ろな目をしながら痙攣を起こしていた優羽の体を戒が助け出すと、すぐさま晶がその様子を診察し始める。


「晶、優羽は?」

「大丈夫だよ。間に合った。」


晶の診断結果に、はぁっと安堵の息が輝と戒の口からこぼれた。
それと同時に、輝によって殴り飛ばされた陸が、ハッと気づいたように辺りを見渡した。


「バカか、お前はっ!! あれほど気を付けろっつっただろうがッ!!」

「力がコントロール出来るまで、優羽に手をあげない約束ではなかったですか?
陸は、優羽を壊す気ですか?」


輝の怒声を引き継ぐように、戒が冷ややかな視線を陸にむける。


「最初に約束を破ったのは、誰なんだよッ!」


陸も負けじと言い返すが、戒の腕の中にいる優羽の様子に気付くと、驚きに目を見開いてハッと息をのんだ。


「優羽っ!!?」


そこで初めて陸は、自分が何をしでかしたのかを理解したようだった。


「陸、食べすぎたね。」

「あ…晶…ぼ…く…。」


困惑と戸惑いに、蒼白な顔で震える陸の頭に晶の手が乗る。
そのまま、困ったように頭を撫でてくる晶に、陸はグッと唇をかんでうつむいた。


「たぶん大丈夫だろうけど、とにかく、病院に連れて行こう。」

「あ。」

「いいから、お前もこい。」

「きちんと優羽に謝ってくださいよ。」


輝にひきずられていく陸に、服をかきあつめた戒のため息が並ぶ。

世話が焼ける弟をもつと苦労するだの、もういい年なんだから手をわずらわせないでほしいだの、さんざん文句を言っているが、弟が可愛くて仕方がないから放っておけないのだろう。
廊下に出て病院へ行く準備をし始めた弟たちを晶はなんともいえない顔で見守っていた。
が、すぐに優羽を抱き上げると、陸の部屋を後にして、前をいく三人のあとへ続く。


「ンッ。」


晶の腕の中で優羽が、苦しそうに眉をよせる。


「優羽、大丈夫だよ。」


晶の優しい口づけが額に落とされると、優羽は少し力を抜いたように鈴を鳴らした。

───────To be continue.
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