★愛欲の施設 - Love Shelter -

□第5話 囚われた感情
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《囚われた感情》


「たっだいまぁ〜。」


ここ数日不在だった陸は、遠足という名前の旅行を終えて帰宅するなり、ハイテンションで玄関扉を開ける。
正面の壁に描かれたよくわからない絵画以外に、広い玄関ホールに出迎える者はいない。

時刻は夜八時。
寝静まる時間まではまだ数時間の余裕があった。


「なんで誰もいないわけ?」


帰るってメールしといたのにと、ぶつくさ文句を言いながら、陸は旅行カバンをゴロゴロと引きずる。
そのまま背後で扉の閉まる音が聞こえると同時に、人影のなかった玄関ホールに明るい声が響いた。


「あっ。陸。」

「早かったですね。」


階段を並んでおりてくる男女に一瞬、陸の目の色が変わる。が、それはすぐに消え、階段を降りてくる戒と優羽を見上げる形で陸は立ち止まった。


「帰るってメールしたじゃん。」


優羽は並んで歩いていた戒を追い越すように階段を駆け降りると、ムスッとふてくされたような顔をする陸に笑顔を向ける。


「遠足、楽しかった?」


笑顔で質問する優羽に、陸も「うん」と笑顔でかえす。


「でも、優羽がいなかったからつまんなかった。」


ほほを少しふくらませながらギュッと抱きついてくる陸は可愛い。
けれどそこは、やはり男の子。
自分より若干背が高いものの、すっぽりと包み込んでくる体型の差は、ドキドキと優羽の心拍を不規則にさせた。


「おっおかえりなさい。」


まだ肝心な言葉を言っていなかったと、優羽はドキドキと鳴る心臓の音を誤魔化すように陸の頭を撫でる。
ふわふわと柔らかい毛がとても気持ちよくて、なんだかいい匂いがした。


「優羽、心臓うるさい。」

「ッ!?」


耳元でクスッと笑った陸に、優羽の顔は音をたてて赤く染まる。
それをしてやったりの表情で眺めながら体を離した陸は、もう一度可愛らしい笑顔で優羽に微笑んだ。


「お土産あるよ。」

「本当っ!?」

「うん。あっ!でも、どれかわかんないや。」


陸が振りかえる先を見つめて、喜んだ表情のまま優羽は絶句した。
山積みとまではいかないまでも、よくわからない荷物がたくさん玄関ホールにごったがえしている。


「え?これ全部、お土産?」

「そうだよ。」

「またですか。断る術なら持っているでしょう?」

「え〜。戒だって、人のこと言えないじゃん。」


人並み以上に人目を引く容姿をしているせいかおかげか、彼らが一歩町を出歩けば、おまけやサービスは勝手についてくる。
学校の帰りだろうが、仕事の帰りだろうが、お構いなしの接客に魅壷家の人々は普通なら会得しなくてもかまわない回避術を身に付けているらしかった。
けれど、今回はほぼ強制的に参加させられた学校行事。

必然的に人混みが嫌いになったことを理由に、休むことは許されない。


「優羽が喜ぶと思って、最近は全部持ってかえってくるくせに。」

「陸ほどでは、ありませんよ。わたしは余計な物を自ら買い足すなんてしませんから。」


そう。彼らは断る術を持っているはずなのに、最近はその術を封印したらしい。
理由はただひとつ。
優羽の喜ぶ顔が見たいから。
他にも何か言いたげな雰囲気がありそうだが、戒の探るような視線に、陸はあきらかに顔をそらした。


「優羽〜。明日、部屋に取りに来てね。」

「えっ?」

「僕、疲れちゃったから今日はもう寝る。」

「ご飯は?」

「食べてきたから平気ぃ。」


あくびをしながらゴロゴロと陸は荷物を玄関先のお土産コーナーに引きずっていく。
その山をどうするのかは知らないが、とにかく今は放置することにしたらしい。


「あとで運んでもらって。」

「わかりました。」


階段を上りながらお願いをした陸の背中に向かって戒がため息を吐く。
誰に運んでもらうのかわからないが、とにかく問題はないらしいので、優羽も深く気に止めずに陸の背中を戒と一緒に見送った。

その姿が踊り場で曲がり二階へと消えていくのを確認してから、戒は困ったように優羽を見る。


「気づかれてしまいましたね。」

「えっ?」

「いいえ。輝も待っていますし、晩御飯の用意をしましょうか。」

「うん。」


つい先程、戒の部屋で惰眠をむさぼっていた優羽は、陸からのメールで目が覚めた戒に起こされた。
起きたばかりでそんなにお腹はすいていなかったが、今から作ればちょうどいい具合にお腹も空くだろうと、戒と話しながら階段を降りていたことを思い出す。

晶はどうやら仕事に行ってしまったようで不在らしいが、輝は仕事部屋にこもっているらしかった。


「では、行きましょう。」

「うん。」


もちろん拒否する理由もなく笑顔でうなずいた優羽に、戒は柔らかな笑みを浮かべてキッチンへと歩き出す。
しかし、楽しそうに隣に寄り添ってきた優羽の横顔を見つめる瞳は、心配そうに揺れていた。
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