★愛欲の施設 - Love Shelter -

□第4話 水音の奏(カナデ)
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今日は非番のはずで、帰宅していたはずの晶がいなくなることは、何も珍しいことではない。
むしろ、インターンが終了し、呼び出しは減ったほうだと言っても過言ではない。

どこに行っても、何をしていても、こっちの都合などおかまいなしにいつもそうだと、輝は盛大に息を吐きながら、気を失うまで戒に責められた優羽の元まで歩み寄ると、そっとその髪をなでた。


「んじゃ、優羽が起きるまで晩飯でも作るか。」

「起きないかもしれませんよ。」

「戒のせいだろ。」

「輝に言われたくないです。」


事情を知るふたりは、お互い様だと顔を見合わせて毒を吐く。
輝の方が無茶をしていただの、戒の方が優羽を責めすぎていたなど、たぶん起きていれば赤面必須な内容が眠る優羽の頭上を飛び交っていた。

いつ どこで 誰が ナニを

まるで覗いていたのかと疑えるほど、お互いの行き過ぎた行為の細部まで文句を言える輝も戒も端(ハタ)から見れば普通ではない。

狂っている。

一言でそう言い切れる思想も、彼らにとっては普通のこと。


「んっ。」


ふたりそろって、小さく身動ぎだ優羽に視線を落とす。
数ヵ月前は少女だった優羽は、男を知って本人も無意識のうちに色香を放ち大人の女の顔をみせている。


「夢みたいだな。」


優羽を見つめる輝のまなざしのすべてが、愛おしそうにゆらめいていた。


「なぁ、このまま喰っちまってもいい?」

「馬鹿を言わないでください。」

「冗談に決まってんだろ。」


陸じゃあるまいしと、輝は怒りをあらわにする戒の頭を軽く撫でる。
それを片手で振り払いながら、戒はドライヤーを輝に投げて寄越した。


「優羽が風邪引くといけないので、早く髪、乾かしてください。」

「はいはい。」


濡れた髪と赤く染まったほほ、時おり切なげにもれる吐息が男を誘い続ける。
髪を乾かそうとしているだけなのに、妙な緊張感が輝の理性を脇に押しやりそうになっていた。

─────…♪…♪♪♪…

その時、突然電話がなる。


「ちっ。」

「いいから早く出てください。」


優羽が起きたらどうするんですかと困ったように輝を見つめていた戒の瞳が、携帯の着信相手を確認した義兄の表情に警戒心をみせた。


「室伏だ。あとは頼む。」


無言でうなずいた戒に優羽をあずけて、輝はその場を立ち去った。

──────────
────────
──────

目が覚めた途端に優羽は、悲鳴をあげそうになって、なんとか思い止まった。

目と鼻の先どころではない。

あと数ミリ単位にまで近い場所に、戒の顔がある。


「かっ戒?」


小さく呼び掛けてみたが、戒は寝ているのか、無反応な吐息だけが返ってくる。知らずに優羽は、ホッと胸を撫で下ろした。

いったいどういう寝かたをしたらこんなに状態なるのかと、優羽は困ったように笑いながら体を動か──


「え? は…はなれない…ッ?」


───せなかった。

強く抱きしめられているのか、体が起き上がれない。
寝ているはずの戒の腕が強く腰に絡みついていた。


「アッ」


今度は違う理由で赤面した。

火照った身体を鎮めようと浴室に入ったはずなのに、いつもまにか服を着てベッドの中に居る。
よく見ると、ここが自室ではないことにも気付いた。


「戒の部屋?」


わずかに戒のにおいがする。

それがますます恥ずかしさに拍車をかけた。

これだけ近くで見てもキレイだと思える戒に、恥じらいも忘れて口走ったことを思い出せば当然といえば当然で、逃げ出したいくらいに恥ずかしかった。


「戒。私、怖いの。」


スヤスヤと眠りにつく戒に向かって優羽は小さく言葉にする。
面と向かって言えないけれど、心の中で感じていること。


「私たち家族なんだよね?」


たとえ血が繋がっていなくても。

家族として迎え入れてくれた場所で、優羽は処女を奪われ、次々に女の悦びを教えられ、こうして今は戒の腕の中にいる。
拒んでも許されず、悶え苦しんでも止まらない情欲。


「どうしよう。」


彼らへの感情の変化が胸の中に渦巻いている。
自覚しないように、意識しないように、考えないようにしていたことが、戒に受け入れてもらえたことで、歯止めがきかなくなりそうだった。


「妹でいられる自信ないよ。」


だけど妹だから、傍にいられる。
離れることなく 永遠に
望む限り、彼らと一緒に過ごしていける。


「ねぇ、好きになってもいいの?」


だけど、誰を?
その答えはまだ出せそうにない。

日に日に自分が自分じゃなくなって行くようで恐い。
欲しいと望むままに与えられる快感を知ってしまったからには、もう戻れない。

──モドリタイ?

──モドリタクナイ?

ダッテ…コンナニ─────


「〜ッ」


彼らを求めているのは自分。
きっと本当は、もうわかっていた。
止められないほどに、いつのまにか彼らにおぼれている。

この体と心が、そう訴えていた。

──────To be continue.
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