★生命師 - The Hearter -

□第2章 即位15周年祭
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《第3話 金色の王女》


夢のような舞踏会から一夜明けた朝。
昨日と同じ、陽気な日差しに照らされた王都ラティスの中心街は、朝から元気な商人たちの声で溢れかえっていた。行き交う人々も帰郷する際の土産物を購入したり、観光を楽しんだりしている。
そんな中、多くの観光客用のホテルが集まる建物の一室で、ナタリーは伸びをしながら眠りから覚めた。


「ん〜、よく寝たぁ!」


ここ数日、緊張で眠れなかったことに加え、色々とたてこんだせいで満足にとれなかった睡眠が今ここに果たされる。
気分は上々。


「天気もいいし。今日は最高の一日になりそう!!」


伸びをしながらナタリーは、昨日のオルフェの言葉を思い返した。

"友人として、城に招待するよ。"

おもわず笑いがこみあげてくる。


「生命師で本当によかった。」


それはもう鼻歌まで奏でながら、ナタリーはベッドから身体を起こした。そのままメアリーが用意しておいてくれたのであろう洋服を手に取り、着替えはじめる。差し込む朝日を受けたナタリーの素肌は、透き通るように真っ白だった。


「そうそう、忘れちゃいけないっと。」


目の色を隠す色膜をつけ、薄手の長袖に腕を通し、ふわりと軽いスカートの下に薄手のタイツをまとってブーツをはく。
せっかくの自慢の肌を一切露出させることのない服に着替えおえたナタリーは、長い髪を左右に分けて片方ずつくくり上げてから、最後の仕上げを確認した。


「よし、どこから見ても完璧。」


人知れず胸をなで下ろす。
メアリーに了承を得られるほど完璧に仕上げないと、今日の"お城探索"は中止になるところだと、ナタリーは鏡に向かってほほ笑みかけた。
われながら、最高に可愛い。
よく寝たからか、血色もよかったし、左右の髪のバランスも絶妙で、なにより相当上機嫌なせいか勝手に笑顔がこぼれてくる。


「昨日が今日だったらよかったのに。」


鏡から顔を離したナタリーは小さく苦笑した。昨日は緊張のしすぎで、身体は固まるし、笑顔もどこか張りつけたようになってしまっていたし、ところどころよく思い出せない。
せっかく生命師として、多くの人々に知ってもらうチャンスだったのにと、悔やまれてならなかった。


「でも、今日で挽回(バンカイ)よ。」


目をまたたかせて仕上がりを確認したナタリーは、今日こそ思うままに堪能してやると意気込みをみせる。


「王子様の友人として、お城に招待されてるんだもの!!昨日は、いっぱいエライ人がいて緊張しちゃったけど、今日は楽しめるはず。なんてったってギムルも一緒だ…し…あれ?」


そう言えば、あの白くてフワフワのぬいぐるみが見当たらないと、ナタリーは室内を見渡した。
いつもならベッドの脇で、ふてくされたように絵本を読んでいるはずなのだが、どこにもいない。ナタリーは、目覚めるなり抱きついてくる感触がなかったことをどこか物足りなさそうに感じながら、苦笑の息を吐いた。


「どおりで静かだと思った。」


寂しいなんて意地でも口にはしないが、やはり少し心配になってくる。


「リナルドじいさんか、メアリーと一緒にいるのかなぁ?」


それ以外には考えられないと思い返したところで、ナタリーはもうひとつの可能性を思い出した。
昨夜の出来事がよみがえる。


「まさか…っ…テトラのところじゃないでしょうね!?」


十分にありえると、ナタリーは勢いよく部屋の入り口に走り寄った。
昨日、式典から帰ってきたナタリーは、ヤンチャなウサギを丸一日ほったらかしておくと、どういうことになるのかを思い知る。
部屋は壊滅状態。
憔悴(ショウスイ)しきったテトラは、可哀想なことに、目くじらを立てたメアリーに、まくしたてられながら掃除をしていた。


「ちゃんと休ませてあげないと。」


テトラの死人のように青ざめた顔が、ナタリーの脳裏をよぎる。


「ギムルいる!?」


バンっと、走り寄った勢いでそのまま扉をあけたナタリーは、その場に集まる面々に驚いたように立ち止まった。


「デイルさんに…っ…テトラ!?」

「おおおはよう、ナタリー。」


ソファーにうずもれるようにして座っていたテトラが、挙動不審に立ち上がる。その隣にはデイル。向かいあうようにしてリナルドとメアリーがいた。


「ナタリー、おっせーぞ。」


探していたぬいぐるみが、なぜか真上から降ってくる。
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