★生命師 - The Hearter -
□第2章 即位15周年祭
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第2章 即位15周年祭
《第1話 集まった生命師》
「おいっ。」
大声をあげて、目の前を歩く金髪の男の肩をつかむ。
そうして、無理矢理引きとめた。
「よせ、無茶だ。お前の話を素直に聞くようなやつじゃない。」
「だが、いま行かなければ。エランドの意志を伝えねば…っ…無駄な血が流れるのだ。」
強い眼光を宿した金髪の男が振り向く。その瞳も金色に輝き、その崇高なたたずまいは誰もが息をのむほどに美しかった。
「お前でなくてもいいはずだ。いま、あいつは何を言っても耳をかたむけないぞ?」
「だからこそ、このわたしが行くのだ。」
決意の満ちた声で答えながら、金色の男は再び前へ進もうとする。
前に回り込むようにして道をふさいだが、それをやんわりと手で払いのけられた。
「フォスターは、自供した。彼の証言書をもっていくつもりだ。」
「だがっ!!」
「すまない、アズール。しかしこれは、わたしの国の問題だ。」
キッパリとした声と金色の瞳に見つめられれば、道を譲り渡す他ない。
けれど依然、心は反対の叫び声をあげていた。
「お前がいなくなったら───」
「ありがとう。そして、すまない。
もし、わたしに何かあった時は、よろしく頼むよ。」
「────知らないぞ。」
「わたしは信じてるよ。」
フッと、笑みを向けられる。
ポンっと肩に乗った手が妙に重たかった。
「どうしても行くのか?」
最後の確認だとでもいう風に、アズールは目の前の男を見上げる。
「ああ。」
迷いのない顔でうなずかれた。
もう何も言えない。
通り抜けるようにして金色の風が凪いだ。
最後の切望をこめて、スレ違いざまにつぶやく。
「相手はグスターだぞ。」
「ああ、わかっている。」
無償に心が締めつけられて、アズールは金髪の男に振り返った。
片手をあげて去っていく、その背に強く唇を噛みしめる。
「今更、証明書など。」
羊皮紙を握ったまま消えていく金色の男の無事を祈ることしか出来ない自分の立場が歯がゆかった。
ついて行くことも出来ない。
国同士の問題に、他国の介入があってはならないのだ。
頂点に立つモノの行動ひとつで、戦争も和解も思いのまま。
それだけに、彼の未来が思案された。
強く瞳をふせる。
そうして思いを飲み込みながら、最後にその男の名を呼んだ。
───────────
「……ル…様?」
遠くから声が聞こえる。
今日は大事な日だと、閉じた目の端にため息がこぼれ落ちた。
晴天に恵まれ、国中が浮足立っている。
それなのに胸の中は暗い渦をまいて身体中を苦しめていた。
「アズール様、大丈夫ですか?」
突然呼びかけられた声に驚いて、アズールは驚いたように目をあける。
目と鼻の先まで近づいた、愛しい妻の顔がそこにはあった。
「あ…あぁ、アイリス。」
思わず、曖昧な笑みをかえす。
「どうかしたのかい?」
「い…っ…いいえ。」
一瞬困ったような顔を浮かべたが、アイリスは苦笑のまま首を横に振った。
ピンクの長い髪がさらさらと揺れる。
「………。」
その美しい髪を撫でながら、アズールはさきほどみた悪夢を思い返していた。
そのわずかな変化を感じ取ったアイリスの顔が曇る。
「また、思い出されているのですか?」
「……ああ。」
いつもそうだとでも言うように、アイリスの心配そうな瞳がアズールを見つめる。ジッと見つめるように視線をむけられれば、その何とも言えない沈んだ顔に、アズールの方が苦笑するしかなかった。