★愛欲の施設 - Love Shelter -
□第4話 水音の奏(カナデ)
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なぜかはわからない。
だけど、もうずっと前から知っている気がする。
その優しい声も腕も、息すらも出来ない、苦しい行為を────
「か…ッ…いアァァァッァ……ぅ…アッ!?」
───求めてる。
「優羽、締めすぎです。」
「戒ッ…ァ…あ…戒〜ッ」
「そんなに可愛い姿を見せられれば、押さえられませんよ。」
何度も名前を呼んで求めてくる優羽に答えるように、戒も優羽の名を呼びながら本能のままに求める。
「か…いッ……アァッ…っ……」
「優羽。」
もう止められなかった。
この世の快楽を貪(ムサボ)るように腰が止まらない。
甘えられる限り、許される限り、全身で戒にしがみついて離れない優羽の声が、切なく浴室に反響していた。
湯船のお湯が水にかわってもなお、浴室にこもる熱気に鏡が曇る。
「か…ィっ…また…ヤァッ…イクッ…いっ…アァァッァ」
「優羽、愛してます。」
自然に逃げる優羽の腰を強く引き寄せて、戒は優羽を奥まで汚す。
ぐったりと途切れてイク意識の中で、ポタンと蛇口から落ちる水滴の音がやけに耳に響いた。
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意識を手放して瞳を閉じる優羽の体を抱えながら浴室を出た戒は、大きく深呼吸をする。
「妹だなんてふざけてますよ。」
「でも妹だから、だろ?」
「一生逃がさないための口実ですね。」
歪んだ愛情だとわかっていても優羽以外は必要ないんだから仕方がない。
「で、輝。鍵は、どうしたんです?」
優羽の体を拭きながら、何故かそこにいた輝に、戒は冷ややかな目をむける。
仕事場にこもっていたはずの人間が、わざわざ脱衣所にいる理由なんてひとつしか考えられないだけに苛立ちが増す。
「優羽が鍵をかけたはずですよ?」
「ああ、壊した。」
知っていて意図的に壊したと輝は笑った。
良好な笑みにも関わらず、その目が笑ってないばかりか、いつもより声のトーンがひとつ低い。
あきらかに、相当機嫌の悪いことがうかがい知れた。
「途中で参加を思いとどまってくれてよかったですよ。」
ふっと、勝ち誇ったように戒は笑う。その顔がまた苛立ちをあおったのか、輝は舌打ちをかえした。
「あの状態で、参加するわけにいかねぇだろ。」
警戒も抵抗もなく身を委(ユダ)ねられることの幸せ。
名前を呼んで、求められるままに優羽を愛し、そして汚す。
そうしたくて叶わず、それが自分で無かったがための苛立ちで壊された扉。
「陸じゃなかっただけ有りがたく思うんだな。」
「いないことを承知の上に決まってるじゃないですか。」
馬鹿にしないで下さいと、馬鹿にしたように戒は優羽をバスタオルでくるみながら輝に言葉を返した。
「まだ、壊されるわけにはいきませんから。」
困ったように優羽を見つめたまま戒がため息を吐けば、今度は逆に輝が戒をバカにしたようにフッと嘲笑の息を吐く。
「たしかに"まだ"早ぇな。」
「輝、揚げ足を取らないでください。」
ムッとした顔で、戒は優羽から輝に視線をあげた。
その顔が珍しかったのか、一瞬輝の表情が驚きを見せたが、すぐにニヤッとからかいを含んだ笑みに変わる。
「やっと本気になったのかよ。」
「それは───」
少し言葉につまった戒は、ふいっと、輝から視線をそらせた。
その視線の先は、気を失ったままバスタオルにくるまれて、脱衣徐の長椅子に寝かせられている優羽へと向かう。
「───優羽の罪です。」
どこか切ない戒の声は、どうやら輝にだけ届いたらしい。
「俺らの罰でもあるけどな。」
戒の背中越しに優羽を見つめていた輝は、気まずそうに目を細めてから、近くの壁に背中を預ける体制をとった。
「まぁ、俺から言わせりゃ、戒も最初っから優羽のこと気に入ってたんだけどな。」
「涙が美味しかっただけです。」
ふんっと、どこか憤慨したのか、ふてくされた戒の態度に輝は苦笑する。
「で、自覚した感想は?」
「最悪です。」
不機嫌そうな視線は優羽の寝顔でわずかに癒されたらしく、戒は顔の表情をやわらげた。
水滴を残さず拭き取った優羽の体は、白くあどけなさを残し、乾ききらない髪がしなやかにかかっている。
それはひどく妖艶で儚く、壊れそうなほどに男を誘う。
「てか、晶は?」
「仕事です。」
「え、そうだっけ?」
「急患からご指名が入ったそうですよ。」
苦笑する戒に合わせて、輝も苦笑する。
晶はまだ医者になりたてで実績もないのに、長年働いている常勤医師よりもみる患者が多い。
「常識のねぇ、病人が世の中には多いからな。」
その光景が目に浮かんで、輝は苦虫を噛み潰したように、眉をしかめた。