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□だいすきな、きみへ。
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ある穏やかな昼下がりの血盟城。
パタパタと軽快な足音を立てて走って来るのは、この城内…いや、この世界に、たった一人しかいない。
振り向いて見ると、満面の笑みでこちらに向かってくる、予想通りの人物がいた。
「コンラッド!!やっと見つけたよ!!もー、いきなりいなくなるんだもんな…」
「すみません陛下。何か「また陛下って言ったなウェラー卿」
じと…と睨みつけて来る彼に苦笑する。
「…ユーリ」
「それでよし!!」
なんてね、と茶化して笑うユーリと一緒にくすくすと笑いながら、俺は言った。
「ユーリ…さっきの冗談はちょっとキツいですよ」
「さっきのって?」
「あなたにまで"ウェラー卿"と呼ばれてしまったら、一体誰が俺の名前を呼んでくれるんですか?」
「んな大袈裟な…第一、あんたの名前を呼んでくれる人は、たくさんいるだろ?」
今度はユーリが苦笑しながら言う。
ユーリはそう言うけれど、そうじゃなくて―――…
想いが伝わらないのがもどかしくて、少しだけ前を歩いていたユーリの肩を掴み引き寄せ、強く抱き締めた。
「そうじゃなくて…俺の名前をこんなにも優しく、大切に呼んでくれる恋人は、俺にとってあなた一人だけなんですから…」
そのあなたが呼んでくれないと、淋しさやら悲しさやらで、どうにかなってしまいます。
そう言うと、ユーリはぽっと頬を薄紅色に染め、照れながら、でも嬉しそうに笑った。
「そっか…なんか、うれしい…」
はにかむように笑うユーリが愛しくなって、俺は場所を気にせずに、ユーリを思い切り抱き締めた。
「ユーリ…俺も、なるべく名前を呼ぶようにしますから…」
囁くと、ユーリはくすくすと小さく笑い声をたて。
「大丈夫だよ、コンラッド」
その後続けられた言葉に、俺の腕に力が籠められたのは、言うまでもない。
『おれはコンラッドが傍にいて、コンラッドのことを呼ぶだけでも、幸せを感じられるんだから』
FIN.