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□失ったもの
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『戻って来い!!』
俺に向かって必死で叫んでいる彼の姿と声が、記憶の中に鮮明に残っている。
あの時、伸ばされたその手を、どれ程取りたかった事か。
手を伸ばして、また抱き締めたいと思ったけれど、出来なかった。
それが辛くて、突き放して傷つけた。
酷く傷ついた瞳で見られ、胸が張り裂けそうになった。
「ユーリ…」
今から丁度1年前に交わした"約束"が脳裏を過ぎる。
『また、一緒に見に行こうな!!』
そう言って笑った貴方の笑顔が、こんなにも恋しい。
「すみません…っ」
自分以外に誰も居ない部屋に、声が響く。
また、守れなかった。
「ユーリっ…!!」
彼の名前を呟き、唇を噛み締める。
俺はまた一つ、大切なものを失った。
FIN.