キヒヒ!!!!

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「私はね、どんな手を使ってでも『成し遂げた人』はかっこいいと思う訳なんだよ」


こちらに目を向ける白蘭に言葉を投げる。


「ユニを捕まえてごらんよ。
 そうすればずっとカルミアになってあげる」


黒曜編の骸と同じようにあしらってみようと。

魅々子は大人しくしている。
こうして頭を撫でている間だけかもしらんが。


白蘭は数秒目を瞬かせて、そして「ふうん」とだけ言って狐のように笑った。


「沢山の君にそれを言われたよ」

「あらー」


まあ言うだろうな。困ったな。
どうあがいても捕まえられなかったわけだし。


「未来を知る君は、どういう気持ちでボクにそれを言ったのかな?
 拒絶か受容か」

「知りたい?」

「……いいや?」


少し考える素振りをした白蘭だったが、意外なことにその首は横に振られた、


「たとえ定められていたとしても、ボクがそれを知るまで、
 ボクの世界の未来はボクの物でボク次第だからね。」

「怖いの?」

「未来に不安をこれっぼっちも持たない人間は精神異常者だって、カルミアが教えてくれたんだよね」


そういえば数日前にそんな話したっけね。


「へえ。そうだったんですねえ、カルミアもまさか崇高なるマイハートが吐瀉物のかたちを覚えててくれるなんて思わなかったと思いますね」

「君が吐瀉物と言ってる無駄話、ボクは結構好きだけどね」

「やっぱ脳神経内科へどうぞ」

「相変わらず失礼なほど自己評価が低いね」

「自分は特別だって感情は私も持っていますからね。評価の中に私は入らない。別枠ですとも」


「いぃかげんにしてくださぃよぉ」


ふと、放置されていた魅々子が漏らした。
耐えかねたように彼女は私の腕を握り、茶色の炎が四方に弾けた。

炎が触れた木々や草が、ざわざわと不自然に揺れ始めた。
植物を使うと言えば桔梗だが、植物そのものだもんな。

余裕こいて火の粉を避けもしなかった白蘭にも必然それはとりついた。
あー…。


「これで最後なんでぇ…時間も迫ってるしぃ……
 これ以上久几様との時間を奪わないでほしいっておもぅんですよねぇ」

茶色の炎はあっという間に白蘭の全身を喰らいつくした。
薄暮に支配された白蘭はもうその命令に逆らうことは出来ない。
現に、びた一センチとて動けないようだ。まばたきは出来てるみたいだけど。


魅々子はその様子にべェッと舌を見せて、私の腕を引い…。

えっ


「べほっ」


腕を引いて仰向けに引き倒しやがった。
そして流れるように


「グォへッ」


レンジャーロールかましやがった。
おま魅々子そんなんどこで習っ…私か?私なのか??

そんな感じで魅々子ちゃんの肩に巻かれるように抱えあげられた私は、とりあえず姿勢を安定させた。

そのまま魅々子は白蘭に向けて、L字にした手を額に当てて見せてから、地を蹴った。
あっという間に遠くへ…白蘭が見えなくなっていく。

いまのはー…負け犬という意味合いを含んだ侮辱のハンドサインだなあ。

ははは。

格が違う。



抱えられて走る、走る。
やがて遠方の方で戦闘音が響き始めたりしたが。

アー…長引きそうだし修羅開口見るのは諦めるかぁ。


走って、そして魅々子がひときわ大きな木の前で足を止めて私を地に下ろした。
間髪入れず、先ほどのように茶色の火の粉が飛び散ったと思えば、再び周囲の草木が揺れはじめた。


ざわめいて、私と魅々子の周りを一周かこむ様に、太い根が地面から高く突き上げた。
逃げ場は上だけか。

なんて上を見上げていれば、切り出したのは魅々子だった。

「久几様ぁ、」

「はいなんでしょう?」

「魅々ねぇ、久几様の匣も持ってきたんですぅ。昨日渡し忘れてましたぁ」


ああ、ご機嫌とりか。
上からなだけ楽だから良いけれど。


「本当に?丸腰だったから助かるよ、ありがとう!」
「ふふふぅ!それでぇ、えっとぉ、どぉしましょぅ?」
「うん?匣くれないの?」
「あわわ!今お渡しいたしますぅ!」

もたもたと魅々子はエプロンの中から、久し振りに見る3つの匣を取り出した。
手に収まる匣に目を落としたまま、そういえばと私は切り出したかった言葉を発することにした。


「それで、今の君の本当の姿は見せてくれないのかな、魅々ちゃん」


魅々子は悲しそうな息を吐いた。


「魅々を拾い上げてくれた久几様はぁ…そんなこと、ゅわなかったのに。ゃっぱり、魅々のしらなぃ久几様なんですねぇ〜」

「えっあ、嫌ならいいんだよ!ごめんね?」

「魅々子がそぅ見せたぃと思った姿が久几様にとっての本物の魅々だって、魅々が騙したぃなら騙されてくれるって…魅々が見せたい姿だけを見てくれるってゅってくれたのにぃ。


 そんな君にぼくは救われて、嬉しくて、そして恋をしたのに」


「ファッ!?」

!?


「ぼくにとって初めてだった。
 どんな姿で何を言っても肯定して愛してくれたのは君だけだった。

 誰もぼくを愛してはくれなかった。根拠がぼくの意見を肯定してくれなかった。」

魅々子は突然喉の使い方を変えた。
ずっと低い位置に力を入れて、まるで ない喉仏に声を託すような、男の使い方だった。

「子供は皆愚かだ。君も例に漏れなかったなんて。きっと君は違うって信じていたのに。失望したよ。姿かたちは少しも変わらないから余計に」

め、めんへら思考なの?
勝手に期待してそれに沿わなかったら被害者面なの?

「教科書通りの答え、型にはまった日々。
 誰も彼もがぼくを嫌っていて、攻撃する口実を探していた。

 模範解答、常識、記された根拠に基づく行動……マニュアル通りに生きていたから攻撃する理由を与えることなく辛うじて生きれた。

 大人じゃないから働けないし独断は許されない、なのに子供じゃないのだから自立しろと言う」

独断がダメなのは大人もやでーって話の腰折ったらキレるかな。
っていうか、まって、お前、薄暮、男の心に女の体で教科書通りの毎日?わあすごい。
まさに黎明と対じゃん。

「でもぼくはぼくを認めて欲しかった、そこから飛び出したぼくを許して欲しかった。
 そして、そんなぼくでもいいと!ぼくが見られたいぼくだけを認識して、好きになってくれる、強がらせてくれる!それが、どんなに救いだったかッなのに、お前はッ」

「あっあっ、ちょっまってまってまってまっておこらないで魅々子ちゃん?くん?ちょいおちつ」

「久几様はッ! ぼくが愛した久几さんはッぼくを遮ったことなんて一度もなかったのにッ!!」

「アッハイッスミマセン!」


私さあ!
地雷あるなら置き手紙くらい置いといてくれよ!
テレビの裏とかさあ!
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