キヒヒ!!!!
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久几は並盛中に降り立った。
デイジーが撃破された後も、並盛中に留まっている雲雀に、お目付け役の役ディーノ、草壁、ロマーリオの気配があった。
予想通りと久几はその4名を探り、間違っても鉢合わせることなどないよう、注意を払って、目的のもの…デイジーの姿を探した。
ほんの好奇心。
炎が巡っているゆえに不死というデイジー。
リングを失い、その巡りが止まったデイジーは果たしてどのようになっているのか知りたかった。
もう一つは、およそ人ではない修羅を食べたとき、それは食事となるか充電と判断されるか。それも気になった。
久几はつまり、デイジーも食べたかった。
始めに目の当たりにした時、自らの身体がそれを求めた。口にしたとたん食欲は収まったが、その理由も久几にとっては不明なまま。
この身体を深く知るヴェルデは、この時代には居ない。
並盛校舎の壁をひと撫でして、久几は一息吐いた。
身を低くかがめて、その角を覗き込んだ。
ディーノとロマーリオが、デイジーの傍に居た。
倒れているうちにデイジーを完全に拘束したいようで、どうふん縛ろうか考え相談していた。
久几は煩わし気に目を細め、ひとまず首をひっこめた。
雲雀と草壁の気配を探れば、校舎内を移動中。
こちらから遠ざかっていたので久几は背後の心配もないことを確認した。
どうしたもんか。
「……なんて愚問か。」
久几はニイと口許を吊り上げ、ディーノのもとへ躍り出た。
「やりたいことをやるんだ、それが楽しいから。
時を刻むごとに思考がバケモノに近付いているって?それが気持ちいいんじゃないか」
「お前は……?!」
弾む声と共にくるりと回って現れた久几の姿に、当然、10年後のディーノとロマーリオは眼を剥いた。
ジッパーが上がりきった、真六弔花と揃いの戦闘服を身に纏いはしている。
しかしそれはボロボロで、擦れ、破れ、なにより、貫かれたように開いた腹部の穴。
黒地に覗く肌色が、嫌でも目についた。
傷ひとつ無い肌。
しかし穴のふちにちらりと覗く、白かったはずのインナーは破れていて、それは明らかな攻撃の跡だった。
「ボロボロで……ここに居るってことは、骸がうまくやってくれたってことか?
それとも、ちょっと躾られただけでまだ白蘭の命令に従っているのか?
その腹はどうした?久几」
鞭を手に、警戒心を次々とさらけ出すように問うディーノに、
久几は笑みを崩さないままぺろりと舌舐めずりをし、服に空いた風穴から丸見えの腹を、切なそうな手つきで撫で付けた。
「足りなくてね」
「!」
「?!」
ディーノの返事を聞かず、久几は地を蹴った。
咄嗟に鞭をしならせたディーノには脇目もふらず、横たわるデイジーを小脇に抱えてまた距離をとった。
「それを食うつもりか!」
やって来る風圧に負けじと、ディーノが声を張った。
「ああそうだ。これのその後は幻騎士と一緒。物語の領分ではないから好きにするんだ。
察しが良くて助かる」
「……直近よりはマシだが、相変わらずなに言ってるのか、会話は通じねえみてえだな
バケモノ」
「……へえ。君にそう呼ばれる日が来るとは。この時代の私は相当だったということだね」
「……よくも、オレの部下を食ってくれやがったな。塵の怪物が。」
「それはひどい。私もその部下も、何で同じ空間に居たのやら」
久几は肩をすくめるように、気絶したままのデイジーを抱え直した。
「時間をとらせたね。
より時間とりそうな、雲雀くんが来る前においとまするとしよう
それに、こんな私でも痩せ馬に鞭を振るうのは趣味じゃない。前の私は誰が歯向かってこようが出来なかったけど、今の私でここでならたぶん出来るけど、趣味じゃない。ははは」
「待て!」
踵を返し地を蹴った久几とその小脇に抱えられたデイジーの姿を認めたとき、遅れてやって来た風圧。
条件反射に目をとられ次に瞼を開いたとき、既にその姿は影も形も無かった。聞こえる地を蹴る騒音が、遥か遠くから感じ取れた。
「10年若かろうが、あいつはあいつってことか」
「ま、一度は薄明候補に上がった女だ。不変でなによりってもんだぜ。ボス」
「恭弥はあんなののどこが良いんだか……サッパリ理解不能だな」