キヒヒ!!!!
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スクアーロには意識があった。
信じられないものを見た表情で一連の出来事を見つめていた。
噴火した嵐の炎になめられた地下フロアは、中破こそすれ、更地化などしていない。
ザクロの視界には、今しがた蹴り込まれ這いつくばるスクアーロの姿があった。あったが、その目に認めなかった。
蹴りの勢いに任せて火葬した気でいたザクロは、その意に反して実際にはスクアーロの居るところだけ炎をよけて噴火していた。無論、それにも気付いては居ないようだったが。
スクアーロの視界には、辺りを見渡し、明らかに目があったのにも関わらず、まるで気付いていないかのように背を向け立ち去るザクロの姿がしっかりと焼き付いていた。
その赤い頭部丸々を覆って燃える、見知らぬ色彩の炎も。
ザクロの挙動はその炎のせいか。
だとしたらその特性は?たとえば操作だとでもいうのか?
いや、それよりも。
このバカ女が、何故、ここに居る。
今、どうやって姿を現し、そこに着地した?
スクアーロは、失血とは別の寒気を覚えていた。
魅々子がどのようにして姿を現したかスクアーロは理解していた。なぜなら、肌と感触でもってそれをしっかりと感じたからだ。
だがその感覚こそスクアーロは認めたくなかったし、分からないほうがよかったとさえ感じていた。
喉も、身体も。今しばらくは鉛のように固まって重い。
転がるぐらいしか身体の自由もきかないような状態で、スクアーロは魅々子にもの言いたげな視線を送り続けた。
バキバキと木材の軋む音をさせながら、その『炎が灯った部位』を『人間の腕』に変化させているその姿を。
いつもの爆声の代わりにヒューヒューと咽が鳴る。
魅々子には聞こえてないようだったが、偶々スクアーロの方を振り返り目が合えば、流石に気付いた。
「ほえぇ?なんですかぁ?」
体力を使い果たしたスクアーロは返答を放棄した。
そして魅々子の察しの悪さに、解説を諦めた。
「んー?まぁー、なんでもいぃですけどぉ。
ただぁ、勝手に死ぬのはぁ、魅々ぃ、困っちゃいますぅ」
不快に間延びした口調はそのままで、
さぞ余裕なのか、それとも本当にこの口調が素なのか。
「ちゃあぁんとぉ、魅々を久几様のところまで連れてぃってくれなぃといけなかったんですよぉ?」
魅々子が何を言いたいか、スクアーロは理解した。
つまり、この腹立たしく頬を膨らませてなじってくる女の目的が。
動機に決め手はなかったが。
「居心地も悪かったですしぃ」
にわかに信じがたいが、認めるしかなかった。
この女はスクアーロに寄生していた。
気付かれることもなく。
今は何事もない彼女の腕は、褐色の炎が灯っていた部位は、その肌は、
確かに木の幹そのものだった。
「種は植えられたから〜〜ぃいですけどねぇ」
魅々子は意味ありげにスクアーロのもとへ歩み出した。
ザクロに蹴り込まれ、その勢いのまま焼かれたあのとき。
つまりスクアーロが死を覚悟したその刹那、背中で、乾いた蔦の感触がうねったのだ。
痛みはなく、だが動かれて初めて全身の皮膚の下、肉の下にそれが入り込んでいることに気が付いた。
全身を這いずるように根をはったそれが不快に動き、背中から皮膚を突き破ってずるずると排出された。
それがかたちを形成するだけでも恐ろしいのに、それが、見知った女の姿。
まして不快かつ低能と見下していた女だったから、ゾッとした。