キヒヒ!!!!

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この壁は露骨すぎる。と桔梗は壁の突破を一時中断した。

相手は知将、入江正一。
追い詰められたからと言って、途端に愚かになるだろうか。
確証はないが、可能性はある。
壁を突破する前に気付けたのは二度手間にならず済んでよかった。

相手を侮らないからこそ、桔梗は塞がれた方向はフェイクであると睨んだ。
なぜなら対峙しているのは黎明の炎。それに包まれたなら音も気配も色彩も自在。

疑って注視すれば多少の揺らぎや違和感で気が付きはするだろう。
ギリースーツのように。
つまり、
無いと認識したものは、見えないものだ。



「――ビンゴ。でしたね
 ついに捕らえましたよ」

桔梗は、一方向を見つめた。
人形と鯉の群れが瞬時に収束し、そして雲桔梗が弾かれたその一角を。

壁で塞いだ方向は囮。
ボンゴレ基地は、無防備だった一方向を走っていた。
それは雲の増殖で巨大化させた車笠に守られ辛うじて無傷であったが、居所は明白となった。

「ごめん正一さん!気取られた!」
「くそう!もう少しで騙せたのに!」
「薄明ライチョウが薄明の炎で再び基地を覆い隠したけれど、このスピードじゃ丸裸も同然だよ!」


「ハハン 再び炎を纏っても無駄ですよ
 存外不肖に姿を消したところで、存在不詳になりはしない

 !!」

そのとき空中で油断していた桔梗の背後めがけてロケットボムが炸裂した。

「やらせねえ!!」

予期せぬ攻撃は、ステルスバイクで追いついてきた獄寺からの攻撃だった。
そのような不意打ちにも無傷で対処した桔梗は、羽虫を払うが如く、獄寺をいなしていた。


「俺はどうしたらいい!特攻か、正一さんの個人警護か!」
「守ってくれッ!!
 とにかく山本君を信じて時間を稼ぐんだ!!」
「ラジャー、マイキング!」
「機械は生きてる!スパナはここに居てサポートしてくれ」
「了解…」

その間に、ヴァニタは基地から正一を連れ出し、黎明ライチョウを抱かせて霧コモドオオトカゲに乗せ、既に飛び立っていた。

「!
 ハハン 次は追いかけっこですか
 その前に」

桔梗は、停止し纏う炎もなくそのまま待機していたボンゴレ基地に花の弾丸を打ち込んだ。

「基地は壊しておきましょう。強奪できない敵の備蓄は、燃やすに限る」

直撃した基地は爆発とともに跳ね上がり、横転してビルに激突し、炎と煙を吹きながら転げた。
当然その音はボンゴレチームの通信機に響きわたった。

「なっ!」
「スパナーー!!」

「ああ、そちらでしたか」

ヴァニタと正一の声を聞きだした桔梗は、その方向へと飛んだ。

桔梗は数秒とせず視界の中へ追いついてきた。
広範囲に飛んできた花の矢を、ヴァニタは陣笠を広く展開し弾いた。

「その大きな盾は面倒ですね。私が雲属性でなければもう少し楽だったことでしょうが…」
「どの属性だろうととことん面倒くさく妨害するから同じだよ!」
「……盗人が大きく出られたものですね」
「それで守れるのなら、虎の威くらい喜んで借りるさ!」

ヴァニタの横では、正一がツナと交信していた。

「異空間を脱出した」
「よくやった綱吉君!山本君と共にターゲットを倒すんだ!
 山本君は幻騎士との戦いで負傷しているし、こちらはヴァニタ君が踏ん張ってくれている!」
「わかった」

ツナはヴァニタを信じてデイジーの元へ向かった。

「うわわわ!桔梗!桔梗!!もう一人こっちに来るよ!!」
「分かっていますデイジー、
 さて、いよいよピンチ。遊びは終わりのようですね」

しかし桔梗は、吐いた言葉とは裏腹に、なにもかも把握しているかのような笑みをニヤリと浮かべていた。

「人形劇は、もう少し見せてくれてもよかったのですがね」
「は――」

突然、桔梗の動きが別人のように変わった。


「ヴァニタ君ッ!!」

次の瞬間、ヴァニタは笠の内側から――つまり背後から――踵落としを喰らって、真下に吹っ飛んでいた。

「防衛モード解除!! ぐカっ…ッは…」

瞬間、笠は弾けるように無数の鯉へと分裂し飛散した。
同時にヴァニタは地面へと叩きつけられた。

鯉を目くらましに、正一の乗る霧コモドオオトカゲは落下に近い速度で下降し桔梗の視界から逃れ、進行方向とは逆方向を向いた。
そのまま背の高いビルの影へ紛れるべく、低空飛行のまま、引き返すように最寄りの曲がり角へ向かった。

正一は霧コモドオオトカゲ――ひいてはヴァニタの意図を察し、桔梗の耳に悟られぬよう口を閉ざしていた。
抱かれていた黎明ライチョウは、正一の手が汗ばみ、耐えるように力がこもるのを感じ、慰めるようにその身を寄せた。

「ハハン ご覧になりましたか、白蘭様。

 この美しいフイッシュが弾ける瞬間は まるで我々の勝利を祝福し彩るフィニッシュの花火…

 終幕です」

言葉と共に、飛散した雲桔梗の茎は、ドドドドッと全ての鯉を貫いた。
無数の鯉は一匹残らずボトボトと地に落ちた。

桔梗の視界にはすでに正一の姿はない。
しかし桔梗は少しの迷いもなく、正一の逃走した方向へと飛んだ。

「……待…っく、しょ…」

這うヴァニタをほったらかして。
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