キヒヒ!!
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「あー……寝起きにキく…おえ」
眉間を抑えながら久几がふらっと立ち上がった。
声帯も目覚めて、いつもの聞き慣れた声のトーンで。
抱き込んでいた上着を肩にかけた。
かけて、首を傾げた。
「えっと…?」
「なんだ」
「いや、どうしたものかと…。私此処に居ていいんですかね?」
「……間違えて鍵をかけるほど、このオレが抜けているとでも言いたいのか?」
「え。…あーっあーっ!すすすみませんすみません!」
XANXUSここでまさかのデレ!と内心暴れながらも久几は大げさに目を見開いて、わたわたと両手を振った。
「そうでなくて、えっと、」
そして取り繕う。
「自分ここでずっと座禅組んでればいいんですか?
邪魔なら隅の…そこの九代目の横行きますけど」
「好きに歩け」
「あ、はい。有難う御座います。
それともう一つ…
視線外してもいいですか?」
「……」
言葉に、XANXUSは顔の片側をゆがめた。
ゆるりと久几との距離を詰めて、その顔を、目以外の部位を覆うようにして、強く掴んだ。
予想外だったのか、久几は目を大きくしばたかせて口を結んだ。
心音の鼓動を速めながら息をのむ。
久几の瞳に穴を空けそうな剣幕で、睨みあげる。
XANXUSはその瞳の虹彩を数えながら思慮した。
初めてその瞳を見た時は、どうとも思わなかった。
しかし、血ではないと知ってなお、その視線は不変に自らを称え、媚び、安らぎを得て、だが崇拝の念は欠片も感じられなかった。
その視線が理解できず、同時に、熱を持った錆のような、感じたことのない感情がXANXUSの胸に宿りかけた。
未知の感覚への不快感から、視線の元である久几を消し飛ばした。しかしそれは消せなかった。
痛めつけようとも、邪険に扱おうとも、ゴーラ・モスカの中身が老いぼれであると知ろうが、突然閉じ込めようが、女のにおいをひっかけて来ようが。
その視線は不変。
厄介なことにその錆には、中毒性があった。
その視線を受けるたび、焼けつくような焦燥感と同時に腹の底を満たすような満足感と、内臓のすべてが潤うような充実感におそわれる。
しかし、その視線が他に向けられていると、どうだろうか。
蝕む錆が消えると、そこが空洞であることに初めて気付いた。栓を亡くした空が、足りないと、満たされないと訴えた。
同時に自分の体内はこんなにも熱く爛れ、渇き、ささくれ立っていたのかと実感した。
そして一度知った潤いを求めた。
自由を奪いたくなった。
閉じ込めて、一歩も外に出た形跡もなく、出ていないとその口から聞いた。
これが、誰にも視線を向けていないと、そう理解したとき、
焦燥が消え、潤いと満足感だけが指先まで駆け抜けた。
一瞬だが、それに自らを委ねたく感じてしまった。
欲しかけてしまった。
女に、肉欲ではない、別のものを。
最悪ではないか。
これに、名前を付けたら己が己ではなくなってしまうような。
吐き気さえした。
身が千切れそうなほどに悔しくて、腹立たしい。
しかし、いつでも身体は欲望に正直だった。
「ダメだ」
久几は眉間に皺を寄せた。
「……文句あんのか?」
頬骨を掴む手に力を込めた。
久几がXANXUSの腕の健を殴り付けた。