キヒヒ!!

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並盛

雷雲の最中、ヘリコプターが荷物を運ぶ。

悪天候のなか、無茶をするもんだ。と、久几は声をあげた。
その声はプロペラと雨音にかき消され、空にとけた。

揺れる、蒸れる、暗い。
雷と雨音。

最悪の環境かと思ったが不死身の久几にとっては、それは心地のよい揺り籠と子守唄に等しかった。


ざあざあバダバタ、体に響かせながら、久几は眠っていた。



人は、ままならなく、醜悪で、欠陥だらけ。
だからこそ愛おしく、美しく、尊い。

そんなことを言って、自分を誤魔化してきた。

いつも疲れて、いつも限界だった。
三次元を愛そうと、自分に嘘をついて、いつも必死だった。

それでも、私は気が付けば紙の上を夢見てしまっていた。
これも人間が作ったものだ。
苦しみの種であり、醜いとさんざのたまっておきながら、その創作物に救われている。

魅力的なそれは、歪な人間が、歪だという証拠ではないか。
紙の上に人物を創作する。
人間が美しい生物であればこんなことはしないだろう。
作るまでもなく、まわりには素晴らしい人ばかりなのだから。

いつでも、苛々して、後悔して、そんな自分が醜いと責めた。悲しくて、怖くて、恥ずかしくて、消えたくなって。
寝付けない夜の方が多い。
通勤中はいつも腹が痛み、息苦しくなる。いつのまにか消えているときもあれば、一日中痛い日も。
でも生きるためには仕方の無いことだから、薬を飲んで、警報を発する自分の脳に嘘をついて、日々を耐えて。

よく、自分がわからなくなって。
不快で気味が悪くて。

客が嫌いだ。あの人が嫌いだ。
人と接するのが嫌いだ。
手をとりあって生きていかなければすぐに破滅する世の中が嫌いだ。
不細工で体も弱く無力で怠惰の癖に嫉妬深く高慢なくせに臆病者で小心で頭の回転も要領も悪い、汚くて無能な自分が一番大嫌いだ!!

今。それが夢になった。
夢だったこっちが、本物になった。

他人のものであるこの顔、悪くない。
そのうえ強くて、それなりに知識があって、頭の中スッキリしてて。

悪い夢から覚めたときの、安堵感と、恐ろしさは、本物に、心から、夢でよかったと思うよね。
そういう気持ちいい感じだよ。

この世界に来てからずっと。
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