Episode
□Episode 1 変
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「私達には、やるべき事がある」
「え…?」
「…私にも、やるべき事がある」
「れ、な…ちゃん…?」
「ごめんね、珠理奈。嘘ついてた」
Episode 変
キーンコーンカーンコーン…
少し低い、チャイムが鳴り響く。
「…で、あるからにして、ここの問題はこうなります。」
ただ、普通な毎日。
朝起きて、登校して、授業受けて、友達と雑談して、部活して、帰って寝て…
こんなの、中学じゃ、当たり前だったのに、君がいないと、ただの退屈な毎日だ。
平凡で、普通すぎて、逆に笑えてくる。
「…ねぇ、玲奈ちゃん」
今、君は何をしていますか?
――
結局、高校生活なんてつまらなすぎて、すぐにサボるようになった。
一応、朝顔出して、それから学校を抜け出して、町中を歩く。
別に楽しいわけじゃない。
ただこうしていないと壊れそうだったから。
「…っ…玲奈ちゃんっ…」
ヘッドフォンから流れる曲は、ただの雑音でしかない。
無駄な音をかき消すための、道具でしかないんだ。
大人の都合とか、理屈とか、そういうの、いらなくなくて、ただ、私は自由になりたい。
「…っ…はぁっ、はぁ…!」
全力で走れば、走っただけ、汗をかく、苦しくなる。
でもそれが、どことなく気持ちいい。
[私、当たり前が嫌なの]
[私は、みんなと違うことがしたい。もう、あんな窮屈な部屋に閉じ込められるのは嫌]
[自由に、なりたいの]
「っ…言ってくれればっ、よかったのに…!」
私も行きたかった。
玲奈ちゃんと同じ高校に。
別に変わってでもいいから、行きたかった。
もっと、早く言ってくれれば、私も行くことが出来たのに。
彼女が、どこの学校に行ったのかもわからないから、もう、どうすることも出来ない。
それが今の私。
「…っ…うわぁああああっ!」
こんな制服いらないんだ。
変わりたいんだよ。
ねぇ、また君の真っ白な腕を見せて。
何の汚れもない、綺麗な腕、首、肌を…もう、君に会うのが最後だったなんて思いたくないよ。
「…っ…あああああっ!」
橋の真ん中辺り、そこの下には川がある。
私は、ここで、変わる。
「…っ…」
制服の上も、ヘッドフォンも、鞄も、投げ捨てる。
それと同時に、緑色のスカジャンに、髪をもった、いかにも不良そうな人と通りすがった。
そう、これでいい。
見られてるけどいい、逆に見せてやる。
「…っ…」
急に立ち止まったからか、涙の雫が前に押し出され、キラキラと飛び散った。
そのままバーに手をかけて飛び乗り立つ。
「え、」
少し前にいる、スカジャンの人が小さく声を出したのが聞こえた。
変わってやる。
自由になってやる。
もう、大人の言いなりなんて、まっぴらだ。
私は、
「わぁあああああああっ!」
変わるんだ。
「え、…ちょっ、まっ…!」
制止の声も聞かずに足を力強く蹴った。
体を支えるものがなくなって、無重力になった。
一瞬だけ、街全体が見渡せた気がした。
それも束の間、次にどんどん降下していく。
川が近くなって、キラキラと、太陽の光に反射されている、輝きが眩しくて、目を固くぎゅっとつぶった。
体全体で風を感じて、受けて、その時間だけは、本当に自由になれた気がした。
「…玲奈ちゃん、」
ドッポーンッ!
大きな水柱と共に、体が沈んでいく。
空気をゆったりと吐き出しながら、目を開けると、キラキラして光っている様子が目に写った。
魚達から見ると、いつもこんなに美しい水面を見ているのかな。
体が、3m位沈んで、石が、背中に当たる。
ずっと、このまま見ていたいけど、もう息が続かなくて、止むを得ず、水面から顔を出す。
「ぷはぁっ!はぁ…はぁ…」
顔を手で一度拭って、目を開け、顔を上げると、あのスカジャンの人がこちらを見下ろしていた。
顔はどうなのか、見れなかったけど、少しの間、そのままでいて、すぐに前を向いて歩いていってしまった。
「…はぁ…はぁ…」
川の水は冷たくて、汗をかいた体にとっては、すっごく心地いいものだった。
チャポン…
川に体を浮き上がらせる。
「さ、て…」
これから、どうしようかな。
まず、学校やめよう。
そして…
「ふっ…」
考えただけでも、笑いが込み上げてきた。
これからは、大人の言いなりになることはない。
あの窮屈な中で縛られることもない。
私が決めるんだ。
私自身が、二度目の正直で決める。
こんなにも、楽しみなことはない。
川に飛び込んだだけで変わるかって?
変わってやるさ、必ず。
「…真ん中、突き進んでやる。」
輝く太陽に向けて、拳を高く上げた。
――
「…ん?」
川原から上がり、橋にずぶ濡れのまま戻ってくると、飛び降りた場所と同じところに制服と上着と、ヘッドフォン、鞄が畳まれて置いてあった。
「…あの、スカジャンの人かな…」
深緑色のスカジャンを羽織った人…誰なんだろ。
不良であることは間違いない。
カサ…
「…?」
上着の中で、紙ずれの音が聞こえて、探ると、
「うわ…なんだこれ…、」
血で書かれた英語が、目に入ってきた。
最後まで紙を引っ張り出してみると、見慣れた英語の文字。
「…」
無意識に紙を握りしめた。
…わかったよ、私。
意識せずしも、口角が上がるのが分かった。
これからが、楽しくなりそうだ。
「ねぇ…、玲奈ちゃん。」
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