SKE48

□卒業するということ
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「ねぇねぇ、おぎちゃん。」
「んー?」
「みきてぃー、卒業だね」
「…そうだねぇ」


久々のオフの日、私の家にはおぎちゃんがいる。


理由は単純、私が呼んだ。


昔と変わらないシャンプーの匂い、華奢な肩。


おぎちゃんだ。


当たり前だけど。



「…悲しくなった?」
「…まぁ、おぎちゃんの時に比べたら、そんなにではないけど…」
「…そっか。」


黙って、何も言わずに髪をゆっくりといてくれる指に、目を閉じて相手の肩に頭を預ける。



「うん」


頷くことしか出来ずに、そのまま沈黙が二人の間に生まれた。


おぎちゃんの浅い呼吸の音が聞こえてきて、なんとなく、嬉しくなった。


近いからこそ聞こえるものだってある。



そっと、手を近づけると、ぎゅっと、手を握り取られて、口元が緩みそうになる。



「…甘えたさん?」
「別に今日くらいいーじゃん、」
「21歳も、大変なのかね、」
「おぎちゃんは24?」
「うるさい。」


最近、おぎちゃんは歳を気にするようになってきた。


美容にも、とても手を入れているらしい。


それでも、昔と変わらず私の目には色白な綺麗な肌が映える。


いや、だからこそ、なのか。



「だいじょうぶ、老けてないよ、」
「お世辞はいらないなー」
「えー?ほんとだよー」


少し頭を動かして鎖骨あたりに、ちゅっ、と軽くキスを送る。


くすぐったそうに身を捩ったおぎちゃんは、少し怒ったようにデコピンをしてきた。


「いたっ、」
「こーら。」


日ごろ、滅多に怒らないからこそ、怒ったおぎちゃんは本当に怖い。



「そ、そんなに怒らなくても…」
「チャラい、」


コーヒー、新しいの入れてくる。


と、繋いでいた手も離して、ぷりぷりとキッチンに行くおぎちゃんの背中を見て、苦笑した。


「そんなにチャラいー?」
「チャラい。」


おぎちゃんは、最近よく私のことをチャラいと言う。


自分自身はチャラくないと思うけど、一般人となったおぎちゃんとアイドル活動を続ける私には、結構な価値観の差が出来てるようにも考えられた。


そう思うと、途端に少し寂しくなった。



「…みんな、辞めちゃうね。」



あまりにも自然にポロッと零れ出た言葉に、自分でも驚く。


口元を抑え、しまったと恐る恐るキッチンにいるおぎちゃんを見ると、こちらを見ながら困ったように笑った。



「ごめんね、ゆりあ。」



その顔とその言葉を、見る、聞くのはこれが初めてではない。


だからこそ、苦しい。


その言葉をまた言わせてしまった後悔に、少し唇を噛む。



おぎちゃん達が悪い訳では無い。


卒業、というのは、必ず迎えるもの。


それはマイナスなことではない、プラスなこと。


それは、私が一番わかっているのに。


いつまで経っても完全には受け入れられない。


やっぱり、どうしようもなく、


「ゆりあ、」



悲しくて、寂しい。



「っ、…うっ、ふっ…!」


包み込まれるように抱きしめられたあたたかさに、涙が零れた。


おぎちゃんの温もりは昔と同じ、落ち着いて安心できる。



だからこそ、ボロ(本音)が、出やすい。



「3期生、また、減っちゃった…」
「うん」
「また、辞めちゃう、減っちゃう、ひとりになっちゃうっ…!」
「うん、」


誰も悪くない。


時は止まらずに進んでいくもの。


おぎちゃんが卒業してから4年も経った。


月日は過ぎていき成長していく。


止まることなんてない。


当然、別れも生まれる。



わかってる、わかってるのに、



「っ、寂しいよぉ…!」



私は、この別れを、一向に慣れてしまうことが、できない。



「…ゆりあ、」


ごめんね。



そう小さな声で言われた言葉は、卒業コンサートが終わったあの日みたいに、とても掠れていて、うまく聞き取れなかった。

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