SKE48

□味は
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甘くて少しほろ苦い。

初めてのキスは、そんな味がした。

――

「小木曽」
「はーい」

昼休み、久美さんに呼ばれて、ドアの方に向かう。

「お疲れ」
「お疲れ様です」
「屋上で一緒にご飯食べない?」
「屋上ですか?」

屋上といえば、S組さんの皆さんがいるんじゃ…

「…でも、S組の皆さんが」
「大丈夫大丈夫。古柳もいるし」

そう、ヘラヘラと笑って言うもんだから、思わず私も笑ってしまった。

久美さんの笑顔は、屈託がなくて可愛らしい。

「じゃあ、そうします」
「よしっ、そうと決まれば早速Goー!」
「え、わっ…!」

久美さんに手を引かれて廊下を走る。

「ちょ、久美さん!」
「あはは、」

結構全力で息が上がる。

でもそれは彼女も同じようで、少し頬が赤くなっていた。


階段を上り、ドアを開けると、まっさきに目に入ってきたのは、真っ青な青空だった。

「お、小木曽だ」

愛李さんが手を挙げて手招きをしてくる。

いつの間にか繋いでいた手は離されていた。

思わず久美さんを見ると、笑顔で頭を傾げられた。

…まぁ、いっか。

「しおりんだ!来てくれたのっ?」

珠理奈さんが元気よく絡んできて少し安心する。

「もう、珠理奈。そんなに詰め寄っちゃおぎちゃん困っちゃうでしょ?」

玲奈さんがそう言ってくれたのが救いで少しショボン、とした珠理奈さんは渋々私から離れた。

「あ、おぎちゃん!」
「ゆりあ、」

幼馴染のゆりあが、こちらに気づいたようで駆け寄ってくる。

手をあげようとすると、抱きしめてきた。

私はそれを苦笑しながら受け止める。

「どうしてここに?」
「まず、身体離してね」
「やだ」

あー、ゆりあが甘えたさんになってる。

玲奈さんに視線を向けるとニコニコしながら私たちを見てた。

…ああ、おぎゆりファンでしたね、そういえば。

「おぎゆりー!」
「うっさい、愛李」

ちゅりさんに頭を叩かれる愛李さんを尻目にゆりあの頬をつつく。

「はーなーしーてー」
「いーやーだー」

困ったなぁ、なんて笑っていると、ゆりあの顔が不意に近づいてきて、ほっぺにちゅうされた。

「…っ、ちょ、ゆりあっ」
「えへへー、最近してなかったから」

周りからヒューヒューと冷やかしの声が聞こえる。

顔が熱くなる。

「…ゆりあ、もう抱きつき禁止」
「え、ええっ?」

無理矢理引っぺがしてフェンスのところに向かう途中、ゆりあの情けない声が後ろから聞こえた。

「おぎちゃーん…」

うん、無視だよ。


少し離れた、見晴らしのいいところに行くと、隣に久美さんが来た。

「辛辣だねぇ、小木曽も」
「…辛辣の意味がわかってたんですか」
「そんな驚いたような顔で見ないで」

苦笑しながらフェンスに腕を置き空を眺める久美さん。

「…ねぇ、小木曽」
「はい?」

「…ファーストキスってもう終わった?」

「え、」

いきなりの言葉に驚いていると、なにか柔らかいものが唇に触れた。

後ろの喧騒が一瞬止まったような気がした。

目を開けたままで、唇がふれあいながら、久美さんと見つめ合う。

その目は、いつもの無邪気さはなくて、妖艶さが伺えた。

息をするのも忘れて、固まる。

久美さんは目を閉じると、ゆっくりと唇を離した。

「…ぇ、」
「…」

何も言わず、久美さんは自身の唇に指先を当て、下唇を舐めた。

「っ…!」

心臓が、どくどくと振動してうるさい。

「…抹茶の味、」

そう言うと、目を細めて笑った。

実にいい笑顔で、鼓動が早くなる。

「ちなみに、私はファーストキスだよ」

久美さんはそう言うと、輪の中に戻っていった。

「…」

自分の唇に手を当てる。

ここに、久美さんの、唇が…

「…あまい、けど、苦い…」

ファーストキスの味は、久美さんらしいキャラメルマキアートの味だった。

――

「あれ、久美、なんか顔赤くない?」
「…気のせいだよ、」
「いやいや、赤いって」

…そりゃ、なるでしょ。

だって、小木曽のファーストキス、貰っちゃったんだもん。

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