AKB48
□お人好し
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「もうちょっと、一緒にいようよ」
そんな声が背後から聞こえてきて、振り向こうとする。
が、振り向く前に抱き締められてしまった。
「ちょ、ぱるるさ、」
「何でそんなにすぐ帰ろうとするの」
「だ、だって、もう終わって…」
「泊まっていけばいいでしょ」
顎を緩く掴まれたかと思いきや、顔を強引に横に向けられてキスされた。
「んっ、ふ、」
「ちゅ、ん、」
二人の吐息と粘着質な音が部屋に響き渡り、少しだけ、また体が疼き始める。
「…りっちゃん、キス上手くなったね」
他の人とでもした?
なんて、思ってもないこと言うぱるるさんはきっと意地悪。
「…してません。」
「うん。知ってる、」
何様なんだ、貴女。
なんて思いながらも、彼女が傷ついてしまわないか心配でグッと堪えてしまう私も私なのだろうか。
「りっちゃんは、服着なくていいよ」
「扱い酷くないですか、」
せっかく、気だるい身体に鞭を打ってボタンを付け直したブラウスを手際よくまた脱がされて、ため息を吐いてしまう。
「もう帰らなきゃ門限が…」
「だから、泊まっていけば?」
「いけば?って…」
「ん、」
後ろから差し出される私のスマホ。
連絡しろっていうことなのだろうか。
なんていうことだ。
泊まらせる気満々じゃないか。
「遥香先輩の家に泊まりますって、LINEすればいいから。」
「…はいはい、わかりましたよ。」
こうなったぱるるさんは、意地でも自分の意見を曲げない。
単純にいえば、ものすごくワガママなのだ。
「…ほら、送りましたよ…んっ、!」
チクッとした痛みをうなじから感じて、目を見開く。
「…っ、ぱるるさんっ!」
この人、今、絶対キスマーク付けたっ!!
あれ程常日頃からダメだって言っているのにっ!
「髪の毛、アップで結んだらダメだよ」
「そういうことじゃっ」
「見せたいなら、話は別だけど?」
「っ、馬鹿なんじゃないですか!?」
ああ、明日の部活のバスケどうしよう…
髪下ろしたまんまとか暑すぎる。
かと言ってファンデーションなんてすぐに落ちるし、絆創膏なんて付けようものならキスマークが付いてることをバラしてる様なものだ。
部員からいじられること間違いなし。
「…はぁあ…もう…」
「…そんなに強く付けてないから明日には消えるよ」
「ほんとですか…?」
「うん、」
ごめんね、と言いたいのか、頬に軽くキスをされる。
もうすでに、許してしまおうと思ってしまっている私はきっと甘すぎる。
でも、なかなか強く言えないのは、きっとこの人のことを嫌いじゃないから。
「…りっちゃん、好き」
「…はい。」
一つ学年が上のぱるるさんとは、付き合ってないけどセックスをする、いわゆるセフレ仲間。
ひょんなことから、私の入学当初から今までずっとこの関係が続いている。
初めて会ったのは屋上で、新入生の私は屋上がぱるるさんの所有地だなんて知らなくて好奇心で立ち入ってしまった。
そこからが私とぱるるさんのセフレ関係の始まり。
はじめはものすごく乱暴で自分勝手なセックスで、全然気持ちよくなかったのを覚えてる。
「…できる?」
「…したいんなら、すればいいじゃないですか」
それが、いつからか優しいセックスに変わっていた。
いつからだったのかは、覚えていないけれど。
「…じゃあ、いいや。」
「え、」
「萎えた。」
「ひゃっ!」
ポスン、と後ろのベッドにそのまま寝転がされて、思わず驚きの声が漏れる。
「少し寝よ、眠い、」
「…服は、」
「抱き締めといてあげる」
…自分はきっちり服を着てるくせに。
それでも、ぱるるさんに抱き締められるとすぐあったかくなるから不思議。
「…なんで、しなかったんですか?」
「してほしかった?」
「い、いえ…」
「…別に、無理にすることはないでしょ」
「…前は、よく無理やりしてきたじゃないですか」
「前でしょ、」
「うーわ、そういうのいけませんよ。」
「…もううるさい、寝て、」
「いや、私別に眠たいわけじゃ、」
「寝るの」
「わっ」
目をぱるるさんの手で隠されて視界が真っ暗になる。
文句を言ってやろうと口を開こうとすると、すぐに唇に柔らかい感触。
「おやすみのキス。」
「え、」
前までは、考えられないような彼女の行動に驚く。
「な、なんで」
「じゃ、おやすみ。」
…ほんと、勝手すぎですよね、貴女って。
「…おやすみなさい」
それに、付き合ってあげる私は、お人好しすぎるのか。
目隠しを外されて、両腕で包み込むように抱き締められる。
その温もりに寄り添うように、私もそっと目を閉じた。