Novel

□【smile】
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「うー‥‥さっびぃー」

立海テニス部に入って2度目の冬。
テニスをしている時は気にならない気温も、終わって身支度している内に汗は身体を冷やす元になる。

「赤也、ちゃんと身体を拭け‥風邪を引くぞ」

ユニフォームを脱いだらすぐにシャツを着たくなってしまう、そんな赤也の行動を先読みして、柳蓮二が忠告する。


「わーってますって!」

そそくさとタオルで身体を軽く拭いて、急いでシャツを羽織る。

「今日マジ寒いっすねー」
隣いた丸井に話しかける。

「アレだろぃ?雪降るんだろぃ」

「ええええ!マジっすかぁ?」

「おー!そう言ってたぜ!‥‥ジャッカルが」

「俺かよ‼︎」

すかさず、突っ込みが入る。

「寒い筈っすねー」
赤也が納得していると

「たるんどる‼︎」

「げっ!真田副部長‼︎」

先程まで黙って着替えていた真田が口を挟む。

「これしきの寒さで、たるんどる証拠だ赤也‼︎」

「ええええ⁉︎だって寒いもんはどーしたって寒いっすよぉ」

「そんな可愛い声を出したってイカンぞ‼︎心頭滅却すれは火もまた涼し、だ!」

「うぇー」

腕組みで赤也の前に仁王立ちする真田に赤也はげんなりした。

「真田、ちょっといい?」

真田の後ろから幸村がにっこり笑顔で真田を呼ぶ。

「あぁ幸村、今行く」

(ナイスタイミングっす!幸村部長!)
赤也は心の中で思わずガッツポーズをする。

「蓮二、いつも苦労かけるけど、部室の鍵よろしくね」

「あぁ」

部長 は幸村だが、部室の鍵管理は殆ど柳が担当していた。
データや練習試合のオーダー、部費、備品の管理など、総括して行っているため、最後まで残っていることが多いのだ。

赤也はそれを密かにラッキーと思っていた。
他のメンバーが帰って仕舞えば、部室には柳と二人きり。

そう赤也は柳を特別に想っていた。
中々想いを伝えられないのが現状だが。

「じゃ、俺ら先帰るな」
「おつかれーい」
「お先に失礼します」
「プリ」
ジャッカル、丸井、柳生、仁王と次々と挨拶し部室を出て行く。

「柳先輩、一緒に帰りましょー」

着替え終わった赤也が柳に向き直る。

「あぁ、悪いがまだ部誌が残っている」

「いーっすよ、待ってるっす」

これも日常茶飯事だ。
柳が部誌を書いてる横で赤也が、沢山の話題を楽しそうに話す。

そんな赤也が可愛いと柳は思うようになった。

ただ、赤也を可愛いと、思う者が自分ひとりじゃ無いことも気づいていた。

今日なんかは、それが顕著に出ていた。
弦一郎の赤也に対する「可愛い」という単語。無意識に出てしまったんだろう。
赤也は特に気にしてい無いが、精市は気がついて‥‥今頃説教されているだろう。
無意識と言うのは1番タチが悪い。
好きだと認めてしまえば、何かは変わるのかもしれない。

赤也の笑う顔が好きだ。
赤也の笑顔がこんなにも愛おしいと思う。


「‥‥ばい‥‥柳先輩!」

赤也の少し強めの呼びかけに、自分の考えに没頭して気づくのが遅れてしまった。

「なんだ赤也」

「なんだじゃねーっす!やっぱ聞いてなかったっすね‼︎」

ぷくっと頬が膨らみ、上目遣いで見てくる赤也は堪らなく可愛い。心なしか顔が赤らんでいるようにも見える。

「あぁ、すまん、で何だったんだ?」

そう聞くと、赤也はプイっと顔をそらし

「もういーっすよ」

とだけ呟く。
そんな態度は珍しい。多少なりとも俺が自分の考えに没頭してしまう事は赤也も承知していて、拗ねることもあるが、すぐに機嫌は回復するのだが。
今日は横を向いたま、だんまりだ。

部誌を書いていた手を止めて赤也に向き直る。そして優しく

「赤也」

と呼びかける。

「っ‥‥ずるいっすよ柳先輩」

「赤也、何か大事な事を言ったんだろう?この柳に今一度聞かせてくれないか?」

なるべく優しく語りかける。拗ねてる赤也も可愛いが、やはり赤也には笑顔が似合う。

「‥‥だからっ‥別になんでもねーっす」

「ならば何故此方を見ない?俺が自分の考えに没頭するのは何時もの事だろう‥‥何をそんなに拗ねている」

「別に拗ねてねーっす!‥だ、大体何を考えてたんすか?!」

「お前の事だ」

「え?」

赤也は顔を赤くしてパクパクと口が動いているが言葉が出ないようだ。

「そんなに驚く事か?俺はいつも赤也の事を考えてるぞ」

「そ‥‥なんすか?」

「あぁ、で何だったんだ?」

再度、赤也に聞くと、意を決したように、俺に向き直り

「柳先輩って‥好きな人っているんすか?」

「‥‥先ほどはそれを話していたのか?」

「そ、そうっす」

「ふむ‥‥好きな人というのは、恋愛としてで、いいのか?」

「当たり前っす‼︎他に何があるんすか!」

「色々あるぞ、まぁそうだな特別に想っている人はいるな」

「それって誰か聞いても良いっすか?」

「その前に、お前にはいるのか?好きな人」

「さっきは、それを言ったっす‼︎」

「ふ、やはりな」

「‼︎‥‥嵌めたっすね‼︎」

「きちんと正直に言わないからだ‥‥で、どうなんだ」

「う〜ずるいっすよ、もうわかってるんじゃないすか」

「さあな」

「‥‥‥いるっす」

「往生際が悪いな赤也」

俺は確信を持って赤也を抱き締めた。

「や、柳先輩‥」

「赤也、好きだ」

「‼︎」

赤也が抱き締め返し

「俺も、柳先輩が好きっす」

と言って、何時ものように笑う。あぁ、やはりお前は笑った顔が一番可愛い。

そして、優しく触れるだけのキスを交わした。





【FIN】
 

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