進撃の巨人
□愛しき小動物
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「リヴァイ。丁度いい、お前に伝えたい事があった」
「ああ…なんだ」
リヴァイとナマエが本部の廊下を並んで歩いていると前方から遠くからでもよく目立つ長身の持ち主が声をかけてきた。
エルヴィンとミケだ。
「…………」
「お、お疲れ様ですミケさん」
「……クンクン」
「ひゃあっ」
団長と兵士長が何か小難しい話しをしている為沈黙も失礼な気がしてナマエはミケに敬礼するが、大きな体を折り曲げて旋毛辺りの匂いを嗅がれたナマエは子猫のようにビクリと縮こまった。
「今日のお前は日光の匂いがするな…日向にでも出ていたか?」
「ひにゃあっ」
ミケはいつも通りただ匂いを嗅いでいるだけなのだが、ナマエは異様に怯える。
そしてそんなナマエに追い討ちがかかる。
やっとエルヴィンとリヴァイの小難しい話しが終わったかと思えば、いつのまにか話しが逸れて世間話をしだしたのだ。
一刻も早くこの場から去りたいナマエは、それをアピールするかのようにリヴァイの側をオロオロしながらうろうろした。
「しかし相変わらず仲が良いなリヴァイ。お前達に焼けている者も少なくないだろう」
「馬鹿か。焼くぐれぇならお前らも遊んでねぇで一人に真剣になれと伝えろ」
「ははは、そうだな。伝えておく」
「…っリ…リヴァイ兵長」
「?どうしたナマエ」
堪え兼ねて、ナマエはリヴァイのジャケットの裾を軽く引っ張る。
やっとこちらを見てくれたリヴァイの背中に隠れるようにして眉を下げるナマエのその小動物のような愛らしさに、リヴァイ、エルヴィン、ミケの屈強な男達は思わず胸を高鳴らせる。
「あ、あの…そろそろ…行きませんか?えっと…その…っ」
「…ああ、そうだな。エルヴィン、書類は明日にでもお前の所へ持っていく。じゃあな」
「ああ、わかった」
怯えているナマエに違和感を感じはしたが、その場で深く追求する事はせずリヴァイはその小さな頭を撫でた。
挨拶もそこそこにまるで逃げるようにリヴァイの手を引きながら立ち去るナマエに、エルヴィンとミケは複雑な気持ちだ。
例えるなら、可愛がっている子猫が懐かず手の中から逃げていくような…そんな寂しさ。
「…何故かナマエは俺達を避けているようだが…エルヴィン、お前は何か知っているか?」
「いや…はっきりとした理由は分からないが…ひとつ思い当たる事がある」
「?何だ」
「俺が今まで見ていた限り、ナマエが今のような反応をする相手は限られている気がしてな」
「あいつが避ける相手には何か条件があるのか?」
「ああ、ナマエが避けているのは………
「でかい男が怖ぇだと?」
「は、はい……」
先程までのナマエの異様な怯え方に違和感を感じたリヴァイは執務室に入ると本人に訳を聞いた。
言いにくそうにもじもじしたナマエは可愛いのだが…その理由は納得した点もありなんとなく気になる点もある。
「そうか…まぁお前はチビだからな。エルヴィンやミケみてぇな図体の野郎には威圧感を感じるんだろう」
「そ、そうなんです…いつも上から見下ろされる感じがなんだか怖くて…失礼極まりない話しですが…」
「成る程な。だが身長はどうにもならねぇ、特にでけぇ奴を縮ませるなんざ無理な話しだ」
「は、はい…」
「だがまぁ…あいつらには俺から話しておいてやる」
「え?ど、どう話すんですか?」
「あいつらが常に膝を曲げれば、多少威圧感は違うだろう。このまま話すだけだ」
「エルヴィン団長とミケさんに、私と接する時は常に膝を曲げろと話すんですか?」
「ああ、何か問題か」
窓の隅に薄っすら溜まった埃に眉間に皺を寄せているリヴァイをナマエはぽかんと口を開け見つめたが、少しすると小さく吹き出した。
「ふふ!それではまるで私は小さな子みたいですね」
「?まるでも何も、お前はチビだろうが」
「あ、いいえ、そうではなくて。幼い子供みたいという意味です」
「…………ああ」
「ふふふ」
「……………」
少し恥ずかしい勘違いをしてしまい、リヴァイは気まずさを誤魔化す為かナマエから視線を外し窓の埃をハンカチで取り除く。
そんなリヴァイが可愛く見えてナマエはまだ微笑んでいるのだが、理由を聞いた際に気になったことを思い出しリヴァイはナマエに近付いた。
「だが…そうなると俺もお前の中では“でかい男”に入らねぇという事になるな?」
「え?」
椅子に座っているナマエの前に立ち、椅子の両側の肘掛けに両手をついたリヴァイはナマエに顔を近付ける。
いきなりの顔の近さにナマエが頬を赤くする様が、リヴァイにはこの上なく可愛らしく思えた。
「そういう事じゃねぇのか?俺の前では別に怯えねぇだろう」
「そ、そうですけど…それは…ええと…っ」
ここで認めてしまうと遠回しにリヴァイが背が低いと言っているようだし、リヴァイには怯えないのは事実なのだから否定してしまうのも違う。
どう言えば良いか分からずあたふたと慌てているナマエは見ていて愛らしいが、あまり意地悪をしてもかわいそうだ。
もう少し見ていたい気もしたが、リヴァイは近付けていた顔を離しナマエの頭を撫でてやった。
「冗談だ。ここは冷える、早く部屋へ戻るぞ」
この時期ひやりと冷える執務室、あまり長居はしない方がいい。
促すようにナマエの背中を軽く押しながらドアへと歩き出すが、そんなリヴァイの胸に何か小さなものが飛び込んでくる。
それは今までドアへと促していたはずのナマエだった。
「…リヴァイ兵長、確かに私は兵長の事は怖くありませんけど…それは兵長がエルヴィン団長やミケさんのような男の人ではないからではありません」
「……そうか」
オブラートに包んでくれたようだが、やはり自分はナマエの中で“でかい男”に入らないらしい。
まぁそれは別にいいのだ、もっと言えばこの壁の中ででも自分はその中に入らないであろう事は知っている。
問題はそこではないのだ、現にナマエも違うと言ってくれている。
自分より更に小さなナマエは抱き付かれると頭の旋毛しか見えないのだが、なかなか顔を上げないのは恥ずかしいのだろう。
なのでリヴァイはそんなナマエを抱き締め、ナマエが顔を上げてくれるのを待った。
するとゆっくりゆっくりナマエの顔が上がり、頬を真っ赤にした小動物がこれ以上ないくらい可愛らしくリヴァイを見上げていた。
「だって…だって…リヴァイ兵長は怖くないです…いつも私を優しく包み込んでくださって…こうして聞こえる心臓の音も聞いていて安心して…頭を撫でてくれるこの手も…声も…眼差しも…体温も…全部全部大好きで…怖くなんてありません…怖いなんて思いません」
リヴァイの腰にきゅっと巻き付いてくる細い両腕と、腹と胸の間辺りに押し付けられぷにゅりと柔く押し潰されるふたつの膨らみ。
そして丸いつぶらな瞳が恥ずかしがりながらもこちらをじっと見つめてくる。
「……………」
ナマエは気付いているのだろうか。
“愛しい”という恋心と同時に湧き上がるどうしようもない感情をいつも理性で抑えているリヴァイの心中を。
“愛しい”を愛らしさで後押しされた男の心中を。
「……ナマエ」
「?…んっ」
呼ばれ小さく首を傾げたナマエの柔らかな唇を親指でそっと撫でるとそれだけでピクリと可愛く反応するナマエに、リヴァイの滅多な事では崩れない強固な理性に小さな亀裂が入る。
そのまま黙って自分の唇を愛おしそうに親指で何度も撫でるリヴァイにようやくナマエもリヴァイの心中に気付いたようで、一気に顔を真っ赤にしたかと思うともじもじしながらリヴァイの胸元の立体機動装置のベルトを持って一生懸命何かいじりだした。
何をしているのかと、リヴァイは表情こそ変わらないが不思議そうに一度瞬きをした。
「ナマエ、何してやがる」
「あ、すみません。実は抱き付くといつもここのベルトがおでこに当たって痛いんです…なので…あの…外してもいいですか…?///」
「……………」
“痛いから外したい”。
それは分かる、分かるのだが…。
(……こいつのこういう所が、周りの豚野郎共を惚けさせんだろうな)
自分も例外ではないがと、リヴァイは内心思う。
本人はそういうつもりはないのだろうが、男を揺さぶるには十二分過ぎるだろう。
そしてしっかり締め付けているのでなかなかベルトが外せず何度もカツカツと指が外れてしまって悪戦苦闘しているナマエを見兼ねたリヴァイがベルトを外してやると、ベルトという邪魔者がなくなったリヴァイの胸に嬉しそうに頬を寄せてくるのだ。
「…………」
そんなナマエに敗北感のようなものを感じ、リヴァイの眉間に薄く皺が寄る。
しかし敗北感を感じるのに、全く嫌な気分ではない。
(……こいつには敵わねぇな)
ある意味、人類最強を唯一負かす事が出来る人物といっていい。
もうリヴァイの心中を忘れてしまったのか、安心したようにリヴァイの胸に頬を寄せ続けているナマエに小さく溜息をついたリヴァイはその小さな体を抱き上げ近くにあった机に座らせる。
すると案の定、ナマエは不思議そうに首を傾げた。
「リヴァイ兵長?……あ」
「やっぱり忘れていやがったな…随分余裕じゃねぇか」
「よ、余裕だなんて!よ…余裕なのは…リヴァイ兵長だと思います///」
机にちょこんと座ったまま頬を赤らめるナマエ。
亀裂が入った時点でリヴァイも見た目程余裕ではないのだが…それはまだ秘密だ。
細い背を支えながらゆっくりナマエを机に寝かせたリヴァイはナマエの顔の横に両手を置き上からナマエを覗き込む。
すると外されたリヴァイの胸元のベルトが重力によってシャラリという小さな金属音と共に垂れ下がり、ナマエはその光景に息を飲んだ。
ベルトを外しただけなのに、それはまるでシャツ一枚脱いだのと同等ぐらいの色気を感じるのだ。
ナマエの視線の先を理解したリヴァイは、垂れ下がった胸元のベルトをナマエの目の前で指で意地悪く弄んでみせた。
「お前からベルトを外していいかなんて言ってきたんだ、この先の展開も思い出したみてぇだし…暫く暖かい部屋はお預けだな」
「ん…っ」
無防備な唇を優しく奪い再度忘れる事のないよう舌を絡ませて甘く戯れ、透明の糸が互いの舌を結ぶ中リヴァイが唇を離す。
するととろけた瞳をしたナマエが自身の胸元の立体機動装置のベルトをもたもたしながらもいじっており、リヴァイは驚きに少し目を丸くした。
「えへ…これで…お揃い…ですね///」
自分と同じように胸元のベルトを外し、嬉しそうにふにゃりと微笑むナマエに
リヴァイの滅多な事では崩れない強固な理性が粉々に砕けたのは言うまでもないだろう
(愛しき小動物)
2017.12.26