進撃の巨人

□使用済みプレゼント
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「ペトラ…今日は何の日か知っているか?」

「え?さぁ〜何の日だったっけ?」

「フ…ここは壁外だってのにまだ寝ぼけているのかペトラ?今朝は起きてからちゃんと顔を洗ったんだろうな?」

「洗ったわよ失礼ね、あとその喋り方やめて。何の日かなんて昔から嫌って程分かってるからその話題は壁へ戻ってからにしてよ、ここは壁外なんだから」

「冷たい奴だな全く…だがまぁ分かっているならいい、期待してるからな」

「ハイハイ」


壁外の兵站拠点でペトラはひらひらと手を振りながら去っていき、その背中を見送った俺は壁へ戻った後を楽しみにする事にした。
あのペトラの様子じゃプレゼントは用意してあるみてぇだし、この壁外遠征中に誕生日を迎えた俺は楽しみがある事にいつも以上の気迫が漲る。

リヴァイ兵長やエルドやグンタやエレンにはもう今朝の時点で祝いの言葉を貰った。
兵長の祝いの言葉にはもうこれ以上ねぇ程感動して喜びに打ち震えたし、エルドやグンタやエレンには礼とプレゼントの要求をしておいた。
まぁあいつらのプレゼントのセンスには期待してねぇ、この俺を満足させられるプレゼントなんてあいつらに見つけられるのか疑問だがくれるってんなら有難く貰ってやるさ。


「それにしてもペトラのやつ、壁外でプレゼントはねぇのは分かるがおめでとうくらい言ってくれてもいいじゃねぇか」


ペトラの遠ざかっていく背中を見ながら頭を掻く。
昔から照れからなのか“心のこもった”祝いの言葉ってやつは期待出来ないが、プレゼントはいつも必ず用意してくれるペトラ。

そんなペトラに感謝しつつ、祝いの言葉も壁へ戻るまでの楽しみにしとく事にするかと口の端を上げながら俺も歩き出すと、向こうから誰かがこっちに走ってくる姿が目に入る。
その小せぇ姿に直ぐ誰かは分かった。


「ナマエ?」

「はぁ…!はぁ…!オルオさん!」

「おいおいどうした?何慌ててんだよ」


俺達特別作戦班が可愛がってる妹分のような存在の後輩のナマエが少し息を切らしながら俺の前で立ち止まり、柔らかく微笑み見上げてくる。
相変わらず小柄で、このまま成長止まっちまったら立体機動中に誤って巨人の口の中にスポンと飛び込んじまいそうで心配になるだろうが、もう少し成長してくれよ。

リヴァイ兵長も含めた俺達特別作戦班のそんな切なる願いはこいつに届いてんのか知らねぇが、そんなナマエは胸に大事そうに抱えていた何かを俺に差し出してくる。


「これ、貰ってください!」

「お、おう……ナマエ…もしかしてこりゃ…」

「はい、お誕生日のプレゼントです!オルオさん、お誕生日おめでとうございます!」

「!ナマエ…っ」


にこっと微笑むナマエに、感動で思わず鼻がツーンとしてきやがる。
この位で涙ぐむなんて情けねぇな…だが嬉しいもんは嬉しいんだ、何か悪いか。

ナマエに背を向け急いで鼻をかんでからナマエに向き直ると不思議そうに首を傾げていて、その無邪気さにこいつは天使か何かかと思った。


「ありがとうなナマエ…大事にするぜ」

「はい!」


俺がプレゼントを受け取ると嬉しそうに笑うナマエの頭を撫でてやりながら、受け取ったプレゼントを見る。

白い…これは何だ?
折り畳んであるから何かはよく分からねぇが…もしかしてハンカチか何かか?

俺がプレゼントを見て首を傾げてるとナマエはぴょんぴょん兎みてぇに小さく跳んではしゃいだ。


「きっとオルオさん気に入ってくれると思います!」

「ああ、お前からのプレゼントってだけでもう気に入ってるが…こりゃ一体なんだ?」

「それはですね、リヴァイ兵長の使用済みスカーフです!」

「!!?マ…ママママママジか!?」

「はい!」


天然のナマエがこんなに俺のツボを押さえたプレゼントをくれるなんて以外さと嬉しさで興奮が止まらねぇ。
俺の様子ににこにこしているナマエの前でリヴァイ兵長の使用済みスカーフとやらを広げると、流石兵長で清潔感に満ち溢れていて綺麗だが戦闘の名残りなのか所々微かに痛んでいて使用済みなのは間違いない。


「ナマエ、どうやってこんなすげぇ物手に入れたんだ!?」

「リヴァイ兵長にスカーフくださいってお願いしました!」

「そ、そうか…サラッと言ってるが多分お前にしか出来ない芸当だな…;」


兵長が誰よりもナマエを可愛がってるのは調査兵なら誰もが知っている事だ。
ナマエと同じ事をもし俺がしても凄まじい睨みと「あァ?」という一言で撃沈するのがオチだろう。


「へ、兵長には俺へのプレゼントにするって事は言ったのか?」

「え?言ってませんけど…」

「言ってないのか!!?;」

「はい、何かダメでしたか?」

「そ、そりゃ…兵長はお前が欲しいんだろうと思って譲ってくださったんだと思うぞ?それを本人の許可も無く簡単に他の奴にあげたら兵長が傷付くだろ!;」

「そういうものなんですか…???」


天然がこんな所でも顔を出しやがった…だがこいつに悪気は無いからな…。

不思議そうに首を傾げてるナマエの頭を撫でて俺は呆れながらも微笑んだ。
しょうがねぇ、可愛いこいつの気持ちを無下にするわけにはいかねぇからな。


「そういうもんだ、よく覚えとけ。だがまぁ心配すんな、俺が兵長の所へ行って聞いてきてやるからよ」

「でも、もし許可を出してもらえなかったらどうするんですか?スカーフ没収されちゃうかも…」

「………き、きっと大丈夫だろ…俺に任せとけ;」

「わかりました、オルオさん頑張ってくださいね!もし没収されてしまったらまた違うプレゼントを用意します!」

「お、おう…;」


大丈夫とは言ったが正直嫌な予感しかしねぇ…だが兵長の許可も無く黙って貰うわけにもいかねぇしな。
“俺が喜ぶプレゼントを”と考えてくれたナマエにもう一度礼を言い、俺は兵長の所へ向かった。

足がやけに重てぇのはリヴァイ兵長の返答に大体想像がついてるからという現実に抗うかのように、俺は使用済みスカーフを握り締めた。


「兵長の使用済みスカーフ…土下座でも何でもして手に入れてみせるぜ…!!」









〜それから5分後〜



「ああ…やっぱり駄目だった…;」


意気込んで兵長に訳を説明したものの、想像した通りの凄まじい睨みと「あァ?」という一言で撃沈した俺は使用済みスカーフを没収され項垂れながらナマエの所へ戻った。

まぁ兵長の気持ちは分かる、可愛がってるナマエならともかく野郎に使用済みをくれてやる気にはなれないだろう。
もし俺が兵長の立場だとしても自分の使用済みを野郎が持ってるなんて気持ち悪いと思うもんな。


「だが正直…やっぱり欲しかった…」


憧れのリヴァイ兵長のスカーフ…。

一人で落ち込んでると何処かに行っていたナマエが10分も経たない内にまた何かを持って俺の所へ嬉しそうに戻ってきた。


「オルオさん、私また喜んでもらえるプレゼントを用意しました!」

「も、もう用意したのか?早ぇな…ありがとうなナマエ」

「はい、どうぞ貰ってください!“エレンの使用済みハンカチ”です!」

「何で使用済みにこだわるんだ!?つうかエレンの使用済みとかいらねぇ!;」

「え…い…いらない…?いらないんですか…?」

「!!?な、泣くなナマエ!悪かった悪かった!ありがとうなめちゃくちゃ嬉しいぜ!!;」

「ほんとですか?よかった!今度はちゃんとエレンにオルオさんへのプレゼントにするって伝えてきたので安心してください」

「そ、そうか。……エレンが苦笑いする顔が目に浮かぶぜ;」

「???」







(お誕生おめでとうオルオ♪)
2017.1.6

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