進撃の巨人

□失った恋
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「ナマエさんって…可愛いですよね」


休憩がてら紅茶でも飲もうとナマエとハンジに誘われ、丁度一緒にいたエレンと共に四人で話しているとエレンが不意に呟いた言葉にその場にいた全員の動きが止まる。
無意識に言っちまったらしく、エレンは自分が何を口走ったのか分からねぇように間抜け面で暫く放心してやがったが、ハッとしたように目を丸くし顔を真っ赤にした。


「お、俺今…あの…えっと…!」


互いに目を丸くしたまま見つめ合うナマエとエレンの前に座ってる俺はそんなこいつらに何故かイラついた。
折角の紅茶が急に不味くなりやがる。


「…わ…私…可愛いとか…久しぶりに言われた…」

「え?そ、そうなんですか…?」

「う、うん……」

「俺には…寧ろそれが不思議です…ナマエさんはこんなに可愛………あ」

「………………」

「………………」

「おやおや〜?どうやら私達はお邪魔みたいだね!リヴァイ行くよ〜♪」


またエレンが口を滑らせたのか耳や首まで真っ赤にし、そんなエレンを見つめるナマエも満更でもねぇように頬を赤くする。
クソメガネに無理矢理背を押され部屋から追い出されナマエとエレンの姿がドアの向こうに消えて、さっきから何故俺はこんなにもイラついてんのか自分でも分からねぇまま廊下を歩く。


「チッ…」

「ちょっとリヴァイ〜何怒ってんのさ!若い二人のめでたい門出じゃないか、何が気に入らないんだよ?」

「別に怒ってなんかねぇ」

「怒ってるだろ?もしかして…ナマエの事好きだったとか?」

「あ?馬鹿言え、誰があんな可愛げのねぇ女……




『ナマエさんって…可愛いですよね』




その時エレンの台詞が頭を過り俺は足を止めた。
あいつらがいる部屋を振り返るがまだ話してやがるのかあいつらが部屋から出てくる気配はない。


「………………」


ナマエは俺が調査兵団に来た頃にはもう兵士としてここにいた。
見た目に似合わず生意気で勝ち気で俺にも臆さず突っかかってくるような女で、可愛げの欠片もねぇと思ったのをよく覚えている。
まぁそんなあいつだが仲間としてこれまで共に生き残ってきた同士、いがみ合いながらもずっとやってきた。

ナマエを可愛いとかほざきやがるエレンの気がしれねぇが…こんなのはあいつらの問題で俺には何の関係も無い筈だ。

なのに何故俺はこんなにイラついてる?



(……俺がナマエを……好き?)



馬鹿げてる…考えるだけ時間の無駄だ。
そもそも兵士に愛だの恋だのなんてものは要らねぇ、邪魔なだけだろ。
あいつもあんなガキの言う事を真に受けて赤くなりやがって節操ってもんがねぇのか。


「…行くぞクソメガネ」

「あ、待ってよリヴァイ〜!」


イラついたまま自室へと戻ると無理矢理に仮眠を取った、起きててもイラつきは治まりそうになかったからだ。
少し寝るだけのつもりがそのまま次の日の朝まで寝ちまった自分に自己嫌悪を感じながらシャワーを浴び、夕食も取っていなかった腹を満たしてからエルヴィンの所へ書類を持っていくと団長室でハンジと出くわし…ナマエとエレンがあのまま付き合う事になったらしいと興奮気味に伝えられた。


「ナマエは年上だし気が強いし…エレン尻に敷かれそうだな〜(笑)」

「フ…そうだな。だがエレンならこれからいくらでもナマエを支えられる男になっていけるだろう」

「だろうね!さすがエルヴィンいい事言うな〜♪ねぇリヴァイもそう思…あれ?リヴァイ?どこ行ったんだろ」


エルヴィンに渡す筈だった書類を握り潰しながら俺は歩いていた、只ひたすら歩きたい気分だった。
それは昨日の何故か分からねぇイラつきによく似ていた。
すれ違う部下達の敬礼も無視して歩いていると曲がり角から急に現れた人影とぶつかりそうになり咄嗟に踏み止まる。


「び、びっくりした!ちょっとリヴァイ危ないじゃない」


目を丸くしたナマエがこいつも咄嗟に衝突を避けようとしたのか俺の胸に両手を置いたまま見上げてくる。

どうしてこういう時…一番会いたくねぇ奴に会っちまうんだ。


「…てめぇこそ危ねぇだろうが、ちゃんと前見て歩け」

「それはお互い様でしょ!私謝らないからね!」

「なら俺も謝らねぇ、お互い様なんだろ?」

「そうですね!フンだ!」

「相変わらずガキみてぇに煩ぇな」

「こういう性格なの!」

「…ガキみてぇなお前なら、エレンと合うかもしれねぇな」

「え…?」

「……お前ら、付き合う事になったんだろう?」

「うそ、もう知ってるの?誰から聞いたの?」

「…クソメガネだ」

「ハンジ…もう、まだ誰にも言わないでって言っておいたのに」


呆れたように溜息をつくナマエだがその顔は少し微笑んでいた。
その柔らかい笑みは言葉にしなくとも“幸せ”が滲み出ている。


「実は昨日あの後エレンがね、ずっと前から好きでしたって告白してくれて…正直エレンの事気になり出したのは昨日“可愛いですよね”って言われてからなんだけど…でも今は本当に幸せだと思えるの…エレンに早く会いたいなってそんな事ばっかり……ねぇリヴァイ、こういう恋の始まり方だって悪くないよね?」



『ナマエさんって…可愛いですよね』



エレンの昨日の台詞がまた頭ん中で聞こえて、俺はさっきから握り潰している書類を益々握る。
これじゃもうこの書類は使い物にならねぇだろう。

……また、一から書類を書き直さなくちゃならねぇ。




「………ああ……そうだな………」




それだけ喉の奥から絞り出すと、俺は呼び止めてくるナマエの声も無視して歩き出す。

イラつきとはまた違う。

今まで感じた事のない…胸ん中がまるで抉り取られるような感覚にまたひたすら歩きたい気分だ。

書類も書き直さなくちゃならねぇ。

いつまでも歩いてる暇なんかねぇのに…俺の足は向かうべき筈の自室を素通りする。





『でも今は本当に幸せだと思えるの…エレンに早く会いたいなってそんな事ばっかり……ねぇリヴァイ、こういう恋の始まり方だって悪くないよね?』






(…………“恋”…か)







可愛げねぇ筈の女は残酷な程“可愛い”笑みで









お前は恋を失ったのだと告げていた











(ホントウハキヅイテタ)
(オマエガカワイイコトニモ)
(ソンナオマエニホレテイルジブンガイタコトニモ)
2016.12.31

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