進撃の巨人

□鈍い女にゃ苦労する
1ページ/1ページ

*ヒロインがギャグテイスト

大丈夫という方はスクロールをお願いします↓









私はあの人類最強といわれるリヴァイ兵長が選出した特別作戦班、通称リヴァイ班に所属している。
兵長は私の憧れ、まぁリヴァイ班に所属してる皆そうだろうけど私は皆よりもっと兵長に強い憧れを持っている。

兵長に信頼される事は即ち私にとって極上の喜び、まるでご主人様に愛でられる犬のよう。
そのご主人様に好かれる為なら私はたとえ“待て”をされても尻尾を振り愛想を振りまく、つまり討伐数を稼いだり戦果を残すのだ。

そんな私にとってライバルは同じ女のペトラでも、やたら兵長の真似をするオルオでも、兵長を絶対的に信頼しているグンタでもない。

兵長が別行動のとき迷いなく班を任せられる…エルドなのだ。









「俺はエルヴィン達と別行動をとる、班の指揮は……」


(きた!!!)


壁外の拠点にて、リヴァイ兵長が私達を見る。
私はここぞとばかりに皆より一歩前に出てビシッ!と兵長に敬礼した。


「………………」

「………………」


でも兵長はす〜と私から目線を外しエルドの方を見るから慌ててエルドの前に立ちまたビシッと敬礼する。
兵長から呆れたような視線を向けられ周りからは皆の大きな溜め息が聞こえてきたけどここは譲れない!!


「(兵長!)……!」

「……指揮は…エルドに任せる」

「!!!!!」


ま、まただ…また兵長は私じゃなくエルドを指名した…。

私は膝から崩れ落ち地面を拳で叩いて涙した。
また私はエルドに負けた…兵長の信頼を得られなかったのだ。
これ以上の悲しみがあってたまるか。


「ぬおあぁぁッ!!ふぐあぁぁッッ!!(※泣き声)」

「(ビクッ!)お、おいナマエ…なんつう泣き方しやがる…俺は別にお前を泣かせるつもりじゃ…;」

「リヴァイ何をしている、行くぞ」

「あ、ああ…了解だ。エルド、とにかく任せたぞ;」

「は、はい!;」


そう言うと兵長は馬に乗りエルヴィン団長と行ってしまった。
兵長が泣く私に動揺し心配してくれたのは天にも昇る程嬉しいけど、私の心は今だに冷たい風に凍えていた。
ゆらりと立ち上がると私はエルドを睨みつけ舌打ちする、私のどこがエルドに劣るというのか。


「エルド…兵長の信頼を得たと思って調子に乗るなよ」

「お、俺は調子になんか乗ってない…それにナマエ、お前とも争うつもりはないんだ;」

「なら兵長に“自分よりナマエの方が班を任せるのに向いている”と言ったらどう?それを言ったら私はお前を敵視するのをやめてあげる」

「そ、それは……おい剣をこっちに向けるな;」

「ほら、言えないでしょ?」

「しかし…それを言ったら俺がお前に立場を“譲る”という形になるんだぞ?お前はそれで満足なのか?悔しくないのか?;」

「……確かにそれもそうか。やっぱり兵長の信頼は力付くでお前から奪い取る事にする」

「俺を敵視するのをやめてはくれないんだな…;」

「当たり前でしょ?兵長の信頼を得るのは私、お前じゃない」


剣をしまい私は皆に背を向け歩き出す。
凛とした私が纏う自由の翼のマントが、風で美しく靡いた。
もうすぐ夕方か…赤く染まる空が何故か心をセンチメンタルにさせる。


「おいナマエやたらカッコつけてるがどこ行くつもりだ!?そっちは目的地とは逆だぞ!;」

「兵長がナマエに班を任せないのはこういう所が原因なんじゃないのかな;」

「ああ、俺もそう思う;」


オルオ、ペトラ、グンタの声に私は足を止め羞恥心で赤くなった顔を隠す為フードを被って皆の元へ戻る。
その際じろりとエルドを睨むと丁度目が合って、エルドは困ったように優しく私に微笑んだ。
どこまでも気に入らない奴だ、何が可笑しい。

兵長が別行動の間不本意にエルドの指示に従いその度エルドを睨んでやるのに、エルドはその度にやっぱり困ったような優しい笑みを私に向ける…やっぱり気に入らない奴だ。


「お前ら、ヘマしてねぇだろうな」

「お待ちしてました兵長!兵長早く指示をください!兵長指示を!!」

「…ナマエ、お前そんなにエルドの指示は嫌なのか?」

「嫌です!!!」

「……そうか;」


兵長と合流し私はエルドの指示の時とはやる気というやる気が違う。
そのまま壁外遠征を終え、壁へと戻ってきても私のライバルはエルドに変わりはなかった。
何をするにも兵長のそばはエルドには譲らない、対人格闘術の訓練では自らエルドに勝負を挑みエルドを投げ飛ばす。


「兵長どうですか私の投げ技は!エルドなんかこの通りですよ!」

「ああ…投げ技が凄ぇのは分かったがケツを踏み付けるのはやめてやれ。さすがに男の自尊心が傷付く」


対人格闘術で兵長に存分にアピールした後夕食を食べ終わると、兵長に一人呼び出される。
まさかやっとエルドに代わり私が班を任される日が近付いたのかとうきうきしながら兵長のお部屋へ行くと何故か兵長は説教モードで私は途端に縮こまった。
何故。


「ナマエ、前から思ってたがお前のエルドに対する態度は目に余る」

「は、はぁ…どのように目に余るのでしょうか…」

「やけにエルドにだけ突っかかるじゃねぇか、あれは何か訳でもあんのか?」

「は、はぁ…」


ベッドの端に座る兵長の前の床に私は自ら正座し、エルドが気に入らない理由を話す。
すると兵長は呆れたように小さく溜め息をついた。


「ガキか…んな事しなくても俺はお前を十分信頼している」

「へ、兵長…!」


なんて慈悲深い言葉だろう、やっぱり私にとって兵長は憧れの人だ…眩し過ぎる。
瞳をキラキラさせて兵長を見上げていると不意にエルドのあの困ったような優しい笑みが頭に浮かび急いで振り払った。
何故こんな時にエルドの顔が浮かぶの、兵長とのひと時を邪魔しにきたのか。
やっぱり気に入らない奴だ。


「それと俺がお前じゃなくエルドにいつも班を任せるのはエルドよりもお前の事を信頼してねぇとかの問題じゃねぇ、お前よりもエルドの方が戦闘に長けているからだ」

「ぬあ!?」

「…………(ぬあ?)」

「兵長!今日の対人格闘術の訓練をご覧になってましたよね!?私がエルドを華麗に投げ飛ばす姿を!」

「ああ…確かにお前の投げ技はたいしたもんだがエルドも男だ、お前相手に少しは手加減もするだろう」

「そ、そそそそんな…じゃあ私は…エルドにとってライバルですらなかったという事ですか…?」

「そりゃお前が勝手にあいつをライバル視してただけだろう。…これは俺の口から言うべきじゃねぇが、恐らくエルドはお前をライバルとかじゃなく一人の女として……

「愚弄です!こんな屈辱的な事はありません!私、エルドの所へ行くので失礼します!!」

「お、おいナマエ!待て!」


兵長の呼び止める声も聞かず部屋を飛び出した私はエルドの部屋のドアを飛び蹴りで開けて入る。
するとベッドに座り本を読んでいたらしいエルドが目を丸くしていたから、そのまま私は怒りに任せてエルドをベッドに押し倒した。


「エルド!私を愚弄してタダで済むと思ったら大間違いだ!」

「お、おいナマエ何の事だ!?く、首が締まるからやめろ!;」

「とぼけるな!今兵長と話してきたんだから!かくかくしかじか…!」


エルドのマウントポジションを取り兵長との話しをするとエルドは私の両手首を掴み手の自由を奪われる。
振りほどこうとしても強い力になす術がない、やっぱり兵長が言っていた事は本当だったんだ、私はエルドのライバルですらない…劣る存在なのだ。


「私より強いのなら何で私をねじ伏せない!手を抜いて馬鹿にしてる!でも私は勝手にエルドをライバルだと思って張り合って…そんな私をいつも心の中で馬鹿にしてたんでしょ!愚弄だ!いつも私に向けるあの笑みはそういう事だったのか!優しい笑みの裏で私を馬鹿にしてたのか!」

「違う!お前を馬鹿になんてする訳がないだろう!」

「じゃあなんだ!今だってそうだ!私に大人しく押し倒されて優越感に浸って馬鹿なやつだと思ってるのか!」

「…っ違う!!」

「!?」


急に視界がぐるりと回転し反射的に目を閉じるとボスッと背中がベッドに沈む。
目を開ければさっきと立場が逆転していて、目の前にはエルドの真剣な顔とその後ろには天井があって私の髪がふわっとエルドのベッドに広がったのが分かる。

人の後ろに部屋の天井というその見慣れない光景に目を丸くする私の頬をエルドが優しく撫でて、この時初めてエルドの手が私より大分大きい事に気付いた。
男の手だ。

熱を持った瞳でじっと見つめられて…こんなエルドは初めて見る。


「…ナマエ、俺がお前に笑いかけたりお前をねじ伏せない理由を率直に言う。俺はお前の事が好きだからお前に笑いかける、俺はお前の事が好きだからお前に乱暴な事はしない…それだけだ」

「…すき?」


仲間として好きだと面と向かって言われたのなんて初めてで、私は一瞬面食らったけど照れ隠しにエルドの手をぱしりと払いのけエルドを睨みつける。


「…私を愚弄してたわけじゃない」

「…ああ、そうだ」

「……ならいい…あとエルドが私が思う程敵視しなくてもいい奴だって事が分かった…これからは敵視するのはやめる、良き仲間として他の皆と同じように接すると約束しよう。私の事を好いてくれていたのに今まで悪かった…愚弄してたわけじゃなくてただお前は優しかっただけなんだね…エルド」

「……なぁナマエ、お前何だか大分勘違いしてないか?俺は今…お前に告白をしたんだが…;」

「うん、お互いに腹を割って話し合うのも仲間として必要だね。エルドのおかげでまたひとつ兵長の信頼を得る魅力をつけられた気がするよ。そろそろ兵長の所へ戻る。おやすみエルド、また明日ね」

「お、おいナマエ!待て!;」


何故か慌てて私を引き止めようとするエルドの部屋を出て兵長の部屋へ戻りさっきまでの話をすると、兵長は額を押さえて呆れたように大きな溜め息をついた。


「エルド…こんな鈍いやつに惚れちまった自分を憎め。まぁ出来る限りは協力してやるか…」

「エルドの心中が分かりこれからはうまくやっていけそうです。それとは別にですが兵長、エルドよりは戦闘は劣るかもしれませんがやっぱり私もなかなかのものだと思うんです。一度私に班を任せてみてくれませんか?そうすれば私の統率力がいかに優れているか分かっていただけると思うんです」

「ああ…そうだな…そこまで言うなら今度はお前に班を任せる事にする」

「!!?ほ、ほほほほ本当ですか!?ありがとうございます!!兵長ありがとうございます!!」


今だ額を押さえている兵長のお部屋から興奮しながら退室し、自室に戻りベッドへ入ったまではよかったけど嬉しさに頬が緩みっぱなしで中々寝付けなかった。

それから次の壁外調査まで私は今まで以上に訓練に精を出したり、新たに仲間として認めたエルドや他の皆と順調に絆を深めたり、兵長に尻尾を振りながら尽くしたりと充実した日々を過ごした。
やたら兵長が私とエルドに同じ仕事を任せるのが気になったけど、今までキツく当たってた分仲間としての距離を縮めろという兵長の計らいなのかもしれないのであまり気にせずエルドと仕事をこなした。


「次の壁外調査が楽しみだよ、兵長は今度は私に班を任せると約束してくださったから」

「そうか、よかったなナマエ」

「今度は私がエルドに指示を出すのか…今まで偉そうに指示された分のお返しをする日が来た」

「おいおい、お手柔らかに頼むぞ?」


にやりと笑うとエルドが苦笑いするから冗談だと言ってやる。
仲間として他の皆と同じように接すると約束してからはエルドとの会話も平和なものだ。


「なぁナマエ、よかったら今度の非番の日…一緒に街へ行かないか?」

「街?別にいいけど」

「そ、そうか…楽しみにしてるからな」

「?うん」


嬉しそうに顔を綻ばせるエルドに私は首を傾げる。

兵長の計らいの他にもう一つ気になるのは、あの日からエルドが頻繁に私の仕事を手伝ったり今みたいに街へ誘ったりするようになったって事だ。
きっと今まで好いていた私に冷たくされ続けようやく仲間として認めて貰えて嬉しいんだろうな…今まで遠かった私との距離を縮めたいんだろう。

今ならその気持ちが分かる…私だって兵長に冷たくされ続けたら生きていける気がしない。
あ、そうだ…エルドを見習って私も兵長を街へ誘ったりしてみようかな?
今考えれば何故兵長を街へ誘う事を今までしてこなかったんだと疑問に思う。
良き仲間の行動を見習って真似するのも大切な事だよね、よし、思い立ったら即行動だ。


「エルド、残りの仕事頼んでもいい?ちょっと重大な用が出来た」

「勿論いいが…一体どうした?」

「兵長を町へ誘おうと思って、エルドを見習って私も兵長との距離をもっともっと縮めようと思う」

「!?お、おいナマエ…!;」

「じゃあ後よろしくエルド」


エルドが何故か焦っている、お腹でも痛いのだろうか?

後で薬でも持って行ってやろうと思いながら兵長の所へ行き、エルドの事と街へ一緒に行きませんかという事を伝えると何故かまた兵長は額を押さえて溜息をつく。
エルドと腹を割って話したあの日から兵長は額を押さえる事が多くなったんだけど…兵長まさか頭痛持ちになってしまったのだろうか、心配だ。


「出来る限り協力してやってんだが…こいつの鈍さはどうにかならねぇのか…」

「?ところで兵長、街へは一緒に行ってくださいますか?私、非番を兵長と過ごし絆を深め信頼を得たいです」

「……悪いな、俺は暫く休みが取れねぇ(こう言えば非番の日はエルドと過ごすだろう)」

「そ、そんなぁ…!ではせめて激務の疲れを癒せるよう、毎晩私が兵長のお体をお部屋で揉みほぐします」

「(そんなもんエルドに誤解させちまうだろうが)お前の世話になる程俺はヤワじゃねぇ。チッ…ならこれならどうだ、エルドと十回出掛けたら、一緒に非番を過ごしてやる」

「!ほ、本当ですか!?」

「ああ。……その間にさっさとくっつけエルド、じれってぇ」

「?」


ボソリと兵長が何か呟いていたけれど、私は兵長と過ごす非番が今から待ち切れなくてエルドと出掛けた一回分を内緒で二回分に数えようかなと目論んだ。








(鈍い女にゃ苦労する)
2017.1.24

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ