進撃の巨人

□痛み
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*ヒロイン死ネタ
*ヒロインが狂気
*グロ表現あり
*いい気分にならない
*暗い

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「……ッ」


私が大きく口を開けてリヴァイ兵長の肩に噛み付くと、兵長は痛みに少し顔を顰めた。
かぽりと口を離せば兵長の肩にはくっきりと痛々しい歯型がつく。
顔を下に移動させて胸にも歯を立て噛み跡を残して、また下に移動してお腹にも同様に歯を立てる。
リヴァイ兵長の綺麗な体に私の歯型が順調に並んでいき、私はそれをじっと眺めた。

ベッドの端に腰掛けている兵長が顔を顰めて自分の両足の間にいる私を睨み下ろして舌打ちする。


「痛ぇな……クソ…っ」

「痛いのは私の方です、今日もペトラと仲が良いようでしたので」

「てめぇの目は腐ってんのか…あれの何処見てそんな風に見える、次の壁外調査の事で指示してただけだろうが。それにペトラだけじゃねぇ、エルドとグンタとオルオもいただろう」

「そうかもしれませんが、リヴァイ兵長が私以外の女と話すのは嫌なんです」

「馬鹿か、んな事言ってたら指示出来ねぇだろうが」

「指示なんてしなくていいです、今度からは私に指示の内容を教えてください、私から皆に指示を伝えます」

「おい…いい加減にしろ。くだらねぇ事ばかり言いやがって」

「………………」

「ッ…!」


リヴァイ兵長の下腹部にがぶりと噛み付くと痛みに兵長が私の髪を掴む。
そのまま後頭部の髪を引っ張られて上を向かされ、顔を顰めたリヴァイ兵長に睨まれる。
そんなお顔も色っぽく見えるのだから、リヴァイ兵長は本当に罪な人だ。


「ッ…痛ぇっつってんだろ!」

「私の心の痛みはこんなものじゃないんです、これでも手加減していますしリヴァイ兵長のお体を労わっています」

「どこが労わってんだ…っ」


腕にも噛み付いて歯型を残す。
肘から二の腕、肩、首と上へ上へ順番に噛み付いていきリヴァイ兵長の顔に辿り着くとその唇にそっと吸い付いた。
ゆっくりと舌を絡ませ何度も角度を変え暫く甘く口付けてからリップ音と共に唇を離すと、頬を優しく撫でられ熱を持った兵長の瞳にじっと見つめられる。
私の腰を引き寄せまた口付けようとするリヴァイ兵長の唇に人差し指をそっと置くと、その気になっていたリヴァイ兵長は微かに目を丸くした。


「……リヴァイ兵長は…私とペトラ…どちらが大切ですか?」

「チッ…またその話しか…部下にどっちが大切でどっちが大切じゃねぇなんてねぇ」

「……私はリヴァイ兵長の部下でもありますが、恋人でもあります」

「ああそうだな…だがこんな聞き分けのねぇガキみてぇなやつを恋人にした覚えはねぇ」

「…………………」


そう言いながらベッドから立ち上がった兵長は、私が脱がした服を着直し床に座り込んでいる私を見下ろして眉間に皺を寄せる。


「今日はもう終わりだ、ガキみてぇな嫉妬を延々聞かされてその上噛み付かれるんじゃ萎えちまう。少しあいつらの所へ行ってくる」

「……ペトラの所ですか?」

「違ぇ!俺の“班”の奴らの所だ!幼稚な嫉妬もいい加減にしろ!」


リヴァイ兵長はイラついたように部屋のドアを開けるとそのまま出て行ってしまって、早歩きのブーツの音が段々遠くなっていき次第に音がしなくなり、私はたった一人部屋に残された。


「…………………」


ぽつんと一人にされた私はジャケットを脱ぎ、腕のシャツをたくし上げると自分の腕に噛み付いた。
さっきまでリヴァイ兵長の体に噛み付いていた時と同じ力で。

歯型はついたけど、私の心の痛みとは程遠いものだ。


「……全然痛くない、でもリヴァイ兵長は痛いと言っていた…兵長は私の心の痛みを全然理解してくれてない」


もう一度自分の腕に噛み付く。
するとほんの少しだけ私の心の痛みに腕の痛みが近付いた。
歯型からは血が流れ、床にぽたぽたと血が垂れ落ちる。


「近付いたけどこれも違う…私の心の痛みはこんなもんじゃない…リヴァイ兵長に私の心の痛みを理解してもらわないといけない」


もう一度自分の腕に噛み付く。
そのまま何度も何度も噛み付いていると見る見る自分の腕が赤く染まっていくけどこれでもまだ私の心の痛みには程遠い。




「こんなもんじゃない……私の心の痛みは……こんなもんじゃない……」















「兵長、ナマエと一緒ではないのですか?」

「ああ……ちょっとな」

「さっきナマエの顔色が悪かったので、兵長が部屋へ連れていったんだと思ってましたが…」


部屋からリヴァイ兵長と皆のそんな声が聞こえた。
他の皆の声に混ざりペトラの声も聞こえてきて、また心が抉られる。


(……イタイイタイイタイイタイ)


ゆっくりと皆の声がする部屋のドアを開けると、リヴァイ兵長と皆が私を視界に入れる。

その途端、その場にいる全員の目が見開かれた。



「ナマエ!その腕はどうしたんだ!?」



エルドが叫ぶ。

私の腕はもう歯型とか傷とか怪我とかを通り越してグロテスクな只の肉棒に化していた。
皮は捲られ肉は引きちぎられ血が絶え間無く流れ床に血溜りを作った。
鏡を見てないから分からないけど口周りも相当酷い事になっていそうだ、きっと狼が獲物に食らいついた後みたいに血で真っ赤になってるんだろう。




「……ナマエ…お前……何してやがる……」




リヴァイ兵長が目を見開いたままゆっくり近付いてくる。

グロテスクな肉棒と化した腕を持ち上げると、リヴァイ兵長の頬に私の血がびちゃりと飛び散った。
その血を指で拭った兵長は、べとりと指についた血を見るとやっと私の心の痛みを理解してくれたのか、手を震えさせながらまた私を見た。

見開かれた兵長の瞳に、無表情の私の顔が映っている。


「リヴァイ兵長がガキみてぇだと言う嫉妬をしている時、私の心はこのくらい痛いんです。そして心の涙を、このくらい流しているんです」


肉棒と化した腕の肉をまた大きく噛みちぎると、また血がボトボトと床に飛び散り血溜りを広げる。
グロテスクな肉の間から何か白いものが見えてきた、これは骨だろうか。


「理解していただけますか?これが私の心の痛みなんです」


また肉棒に噛み付こうとする私の口に自身の首元に巻いていたスカーフを丸めて押し込んだリヴァイ兵長は、私を椅子に座らせると救急箱を荒々しく開けた。


「エルド救護班を呼んでこい!!グンタとオルオはありったけ清潔なタオルを用意しろ!!あるだけ全部だ急げ!!」

「へ、兵長!私も何かお手伝いを…!」

「お前は今すぐこの部屋から出ろ!今すぐだ!!

「…っは、はい!」


グロテスクな肉棒と化した私の腕を応急処置するリヴァイ兵長がペトラを物凄い形相で怒鳴り、ペトラは顔を青くして部屋から出ていく。
その様子を見て、スカーフを押し込まれた口の口角が…無意識に上がった。



(リヴァイ兵長…やっと私の心の痛みを理解してくれたんですね)



嬉しくて嬉しくて、でも頭が何だかクラクラするし気持ち悪くなってくる。
ああそうか…血が足りないんだ。


「ナマエ…?おいナマエ!しっかりしやがれ!くそっ…救護班はまだか!?」


リヴァイ兵長が口からスカーフを出してくれて私の頬を両手で包み込む。
視界がぼやけて…顔を近付けてくれるリヴァイ兵長の表情がよく分からない。

バタバタと周りが騒がしくなり、救護班やエルドやグンタやオルオが部屋に入ってきた。
リヴァイ兵長が私から離れ救護班が私の周りを取り囲むけど、私はぼやける視界の中椅子から立ち上がり、制止してくる救護班を無理矢理かき分けて手探りで兵長を探す。

リヴァイ兵長に近くにいてほしい、私のそばにいてください。


「リヴァ…イ兵長……どこ…?どこです…か…?」


益々ぼやける視界で周囲を見回す、大きくふらつく体のせいで視界がめまぐるしく動いて、なかなかリヴァイ兵長を見つけられない。
ようやく周りの人より少し小柄なその愛しい姿を見つけ、ふらつきながら肉棒と化した腕を伸ばす。
リヴァイ兵長がそんな私に気付き、グンタとオルオからかき集めていたタオルをばさりと落とし駆け寄ってくれて、倒れ込む私の体を支えてくれた。


「ナマエ!チッ…っおい救護班!てめぇら何してやがるさっさとこいつを手当てしろ!!」

「も、申し訳ありません!おいそっちを頼む!」

「はい!」


リヴァイ兵長から頑なに離れない私をそのままの状態で治療する救護班の慌ただしい声の中、私はリヴァイ兵長の体温を感じながら意識を失った。













「………ん…」


ゆっくりと瞼を開けると見慣れた天井が目に入った。
ベッドから上半身を起こすと、ここが大好きな人の部屋だと気付く。


「……リヴァイ兵長の部屋」


でも周りを見回してもリヴァイ兵長はどこにもいなかった。
目線を落とすと私の肉棒と化していた腕はグロテスクになっていた部分が全てちょん切られていて肘から先がなかった。

まぁあれだけグロテスクになっていたら治しようもないかもしれない。
腕がないならないで別にいい。


「リヴァイ兵長…どこですか?」


意識を失う前の私を助けようと必死なリヴァイ兵長の様子を思い出し嬉しくて微笑みが漏れた、私の心の痛みも無事理解してもらえたし腕を失っただけの価値はある。
リヴァイ兵長を探して部屋から出ようとすると、部屋の外でリヴァイ兵長と他のリヴァイ班の皆の声が聞こえた。


「ナマエはまだ寝ている、そっとしておいてやれ」

「そうですか…ではナマエが目を覚ましたら俺達も見舞いたいので教えて頂けますか?」

「ああ。悪いな…俺が馬鹿なせいで…ナマエばかりかお前らにまで迷惑かけちまった」

「そんな…私こそナマエの気持ちを汲み取れずすみませんでした…私がもっとナマエの気持ちになって気を付けていれば…こんな事には…っ」


そんな会話が聞こえて気になりドアを少し開けて外の様子を見ると私は目を見開いた。



泣いているペトラの頭を…リヴァイ兵長が優しく撫でていたから。




「…………………」


私は静かにドアを閉めると、リヴァイ兵長のベッドのシーツを片方の手しか使えないから足で押さえてビリビリ破る。
まだリヴァイ兵長達は話しているのか音には気付かない。


「リヴァイ兵長に私の心の痛みを理解してもらわないといけない…今の私の心の痛みを理解してもらわないといけない……」


そのままビリビリとシーツを破り、口も使ってシーツとシーツを結びつけ一本の長いロープ状にする。


「リヴァイ兵長…やっと私の心の痛みを理解してくださったと思ってたのに…ああ…またリヴァイ兵長に私の心の痛みを理解してもらわないといけない…今の私の心の痛みを理解してもらわないといけない…」


ロープ状にしたベッドシーツの片方の端をベッドの脚に結びつけ。
もう片方の端は丸い輪っか状にして…自分の首にかけた。


「今の私の心の痛みはこんなもんじゃない……こんなもんじゃない……」


窓を開け、ちょん切られた腕を夕日で赤く染まる空にかざして眺める。
眺めながら窓に足をかけると、窓がギシリと音を立てた。



「リヴァイ兵長に私の心の痛みを理解してもらわないといけない……今の私の心の痛みを理解してもらわないといけない……」
















「ナマエ?おい…どこだ?」




リヴァイ兵長が部屋に入ってきた気配がしたけど私はもう声を出す事も出来ない





リヴァイ兵長の部屋の窓の下で、ただ人形のように宙ぶらりんになっているだけ






結び合わせたベッドシーツが私の体重でキシキシ音を鳴らす






風で髪が靡いて見開いたまま瞬きしなくなった私の目を優しく撫でる








リヴァイ兵長









理解していただけますか?










これが私の心の痛みなんです












(イタイイタイ、クルシイクルシイ)
2016.11.19

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