進撃の巨人

□子犬の責務
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*『子犬は愛しきキミ』の同一ヒロインです↓
















「ナマエ…いけるか?」

「キャン!」

「本当にすまないナマエ、君にこんな事を任せてしまって」

「キャン!」


壁外にて、リヴァイ兵長とエルヴィン団長に力強く頷き私は子犬である自分の体に巻き付けられた布を見た。
布の中には医療品が入っていて、私はそれを背中に背負っているような状態だ。

少し体を振ってみても体に巻き付けられた布はしっかり固定されていて落ちたりはしなさそうで大丈夫みたい。
安全確認をする私の前にはリヴァイ兵長やエルヴィン団長の他にも、調査兵団の皆がぞろりと揃っている。

それぐらい、私の責務は重大なのだ。


「頼んだよナマエ!その医療品をエレン達の所へ届けてくれ!」

「俺達も準備が出来次第向かう」

「キャン!」


ハンジさんとミケさんにも力強く頷き、私は皆に背を向けた。
目の前には広大な森が広がっていて私は小さな肉球でしっかり大地を踏みしめる。

この森の奥にいるエレン達に早く医療品を届けるんだ。
きっとエレン達は巨人に囲まれている…急がないと!


「キュ〜ン!キュ〜ン!」


大地を踏みしめながら、私は気合いを入れ直す為遠吠えをする。
子犬である私の気高い遠吠えが、森に響いた。


「響いてねぇよ…頼りねぇ遠吠えだな」

「あはは……」


後ろからリヴァイ兵長の呆れたような声とモブリットさんの苦笑するような声が聞こえたけど気にしない事にする。

子犬だからか何をしてもヨタヨタしてしまう体で私は懸命に走り出した。
だってこの森の奥でエレン達が待っているんだもん、のんびりなんてしていられない。


(…もう大分進んだかな?)


ヨタヨタしながらも走っていた足を止め一息つき、大分皆から離れただろうと思い後ろを振り返ると思っていたよりもずっと近い距離に皆がいて私は驚く。

うそ、まだこれだけしか進んでないなんて!!


「…っキャンキャン!;」


道のりは険しそうだと思いながらも私はまた走り出した。
後ろからは私を見送ってくれた皆が慌ただしくガスや刃の補給を急ぐ様子が分かる。

ヨタヨタ走りながらチラリと後ろを見ると他の皆が忙しなく動き回る中リヴァイ兵長だけがまだ私をじっと見送ってくれていた。
そんなリヴァイ兵長の唇が微かに開いたから、思わず立ち止まる。



“気を付けろよ”



他の皆の補給を急ぐ騒がしさで声は聞こえなかったけど、リヴァイ兵長の唇がそう動いたのを見た。
私は普段読唇術なんて全く出来ないけど不思議と今ははっきり分かったの。


(リヴァイ兵長……)


私を心配してくださっている。

嬉しくて嬉しくて、尻尾を振りながら兵長にキャンと鳴くと、今度こそ振り返る事なくエレン達の元へ走った。










大分拠点から遠ざかり、立ち止まった私は周りを見回した。
3メートル級の巨人が目の前をドシンドシンと横切って思わず身震いしてしまったけれど、当然ながら巨人は子犬の私には無関心でそのまま遠ざかっていった。
子犬の姿だと巨人が更に大きく感じる。

壁外調査に出た調査兵団は巨大樹の森に入ったんだけど運悪く巨人の大群と遭遇してしまった。
補給班がやられ、一度拠点へ退却する途中でエレンが怪我を負ってしまってミカサとアルミンが助けようとしたんだけどガスが不足して三人は木の上に取り残されてしまったの。

そこで人間以外には興味を示さない巨人の特性を利用して、皆のガスと刃の補給が終わるまで子犬である私がエレン達に医療品を届ける事になった。
ちなみに壁外調査どころか訓練にも参加出来ない子犬である私が何故壁外にいるのかというと、時間は早朝までさかのぼる。




私は今日の早朝、壁外調査に出発する皆を見送る為外にいた。
でも最近寒くなってきたから出発の時間まで補給物資の荷馬車に乗ってた毛布の中に入っていたらそのまま寝ちゃって、誰にも気付かれないまま壁外まで来てしまったの。

毛布の中で丸まって寝ていた私は荷馬車の揺れで目を覚まして、毛布の中からひょっこり顔を出したらそこは既に壁外で思わず仰天した。
だって寝ちゃうつもりなんか全くなかった、皆を見送るまで少し暖を取るだけのつもりだったんだから。


『…っキャンキャン!!;』

『え、キャンキャン?…っ!!?;』


荷馬車に乗っている兵が私に気付いた時の驚きように内心苦笑いした。
幸いまだ壁外に出て間もなかったみたいで陣形は広範囲に広がってはいなくて、私が荷馬車に紛れ込んでしまった事は直ぐリヴァイ兵長に伝わった。
毛布から出て申し訳なさにしょんぼりしている私の頭を、心配するなと撫でてくれる荷馬車の兵と待っていると、伝令を聞いたリヴァイ兵長が馬で荷馬車の横まで来た。


『………キュウン』

『………………』


荷馬車と並走するリヴァイ兵長を耳と尻尾を下げながら見上げると、兵長は黙って私を見つめていた。
風で靡くリヴァイ兵長の髪が朝日に照らされてキラキラとても綺麗。

迷惑かけてごめんなさいと頭を下げると、兵長は黙ったまま優しく頭を撫でてくれて何故紛れ込んでたのか理由は聞かなかった。
まぁ今理由を聞かれても子犬である私は喋れないから答えようがないんだけど…てっきり怒られると思っていたから、驚きに私は下げていた頭を上げた。


『たく、見送りにいねぇから何処行きやがったかと思ってたらこんな所にいたのか…心配させるんじゃねぇ。ナマエ、お前はこのままここにいろ、外は冷える』


もう一度私の頭を優しく撫でたリヴァイ兵長は私に毛布を被せると馬の速度を上げ荷馬車を追い越していった。
被せられた毛布からもぞもぞと顔を出すとリヴァイ兵長の背中は既に前方で小さくなっていて、そのかっこいい背中を見つめていたら荷馬車の揺れで子犬の小さな体が一瞬宙に浮いてぽてりと転んだ。


『ナマエ大丈夫か?揺れるからな、しっかり毛布にくるまってろよ』


荷馬車の兵がそんな私の様子にくすくす笑う。
こくりと頷き毛布の中から周りを覗くと、私が見てる事に気づいた荷馬車のそばを走っていた調査兵団の皆が何だか微笑ましそうに笑んでくれて、私は少し尻尾を左右に振ると頭まで毛布の中に潜り込んだ。
もう壁からかなり遠ざかってる、せめて皆の邪魔をしないように大人しくしていないと。


(でもリヴァイ兵長…心配してくださってたんだ…)


あの時、リヴァイ兵長に優しく撫でられた頭がポカポカ温かかったものだ。






そんなこんなで今に至る。
エレン達が孤立状態…勿論こんな状況にはなってほしくなかったけどなってしまった以上私に出来る事なら全力でやる。
巨人がウロつく中、立体機動も馬も無しで動き回る…子犬の私にしか出来ない事だ。


「キャン」


エレン達が取り残されてるのは確かこの辺りだったと思う。
周りを見回すと、一ヶ所の木に巨人達が集まっているのを見つけた。
夢中で木の上に手を伸ばす沢山の巨人達に私は確信した、巨人達が手を伸ばしている木の上にエレン達がいると。


「キャンキャン!!」


巨人が群がっている木に近付き木の上に向かってキャンキャン鳴くと、木の上からアルミンが顔を出した。
私の姿を見たアルミンは驚いたように目を丸くする。


「ミ、ミカサ!ナマエさんが…!」

「ナマエさん?ど、どうしてここに?」


ミカサも目を丸くして木の上から顔を出す。
私は背中に背負っている医療品を二人に見せるように少し体を振る。
察しがいい二人は私が何故ここに来たのか直ぐ分かったみたいだ。


「アルミン、ガスはもう殆どないけど…私が巨人を引きつけるからその間にナマエさんを木の上に」

「分かった」


ミカサが立体機動で木の上から飛び出すと巨人達はミカサへと手を伸ばす。
その間に私は立体機動でアルミンに抱っこされあっという間に木の上へ。


「よかった、成功したねミカサ」

「うん、もうガスは空だ」


巨人を振り切り戻ってきたミカサはガスのボンベをコンコンと指で叩いた。
アルミンに木の上に降ろされた私は木の幹に背中をもたれさせているエレンに駆け寄る。
頭を怪我しているみたいで額から血が流れている、見た所そんなに深い傷ではなさそうだけどぐったりしてる様子を見ると気を失ってるみたいだ。
早く手当てしてあげないと。


「キャン!」


アルミンの手に背負っている医療品を押し付けて取って貰う。
私が背負っていた布を広げたアルミンは出てきた包帯やら消毒液やら薬やらに安心したように笑顔になった。


「あ、ありがとうございます!エレン、今手当てするからね!」


届けた医療品でエレンの怪我を手当てするアルミンに安心して小さな尻尾を左右に振っていると、ふわりと体が浮き優しく頭を撫でられる。
上を向くと柔らかく微笑んで私を見つめるミカサがいた。


「本当にありがとうございますナマエさん…助かりました」

「キャン!」


ミカサ嬉しそう…早くエレンの意識が戻るといいね。

ミカサに抱っこされたまま尻尾を振っていると、先程よりも巨人の数が増えている事に気付いた。
木を登ろうとしている巨人もいて、ガスも無い今早くここから脱出しないとまずい。


「キュウン……」


頭に包帯を巻かれたエレンが痛々しい…拠点にいる皆の準備は順調なのかな。

途端に尻尾を下げる私を心配してくれたのか、アルミンにも優しく頭を撫でられてこれじゃいけないと思った。
今は子犬の姿だけど、私は一応ミカサやアルミンの先輩なのに。
こんな弱気になってたらいけないよね、気をしっかり持たないと。


「…っキュ〜ン!キュ〜ン!」


気合いを入れ直す為、ミカサに抱っこされたまま拠点を出発した時のように遠吠えをする。
私の気高い遠吠えが、再び森に響いた。


「ね、ねぇミカサ…これって遠吠えのつもりなのかな?;」

「多分…でもただ可愛いだけになってる。全然響いてない」


頭上で、苦笑いしてるアルミンとじっと私を見つめるミカサが何か内緒話してるけど何話してるんだろう?
二人を見上げて首を傾げてると、突然私達がいる木が大きく揺れて驚きに私はミカサにしがみついた。


「ま、まずい!奇行種だ!」


アルミンが木の下を覗き込む。
突然のこの大きな揺れは奇行種が木に体当りしているみたいだ。

絶え間無くドシンドシンと大きく揺れる木にミカサはバランスを崩し、抱っこされていた私は木の外へ投げ出された。
子犬である私の小さな体が、群がる巨人達の真上へふわりと浮かんだ。
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