進撃の巨人
□歯車
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*性的表現があります、苦手な方や18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください
*ヒロイン死ネタ
*屍姦
*兵長が精神やられてる
*暗い
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「リヴァイ…大丈夫かい?」
「……ああ。暫く…ナマエと二人にしてくれ」
第57回壁外調査から壁へ戻ってきた私達調査兵団は疲れ切っていた。
私が問い掛けると力無く呟いたリヴァイはナマエを抱き抱えて一人ゆっくり歩き出す。
(全然大丈夫じゃないだろ……)
私の前を通り過ぎるリヴァイの横顔はいつにも増して真っ青で、目は真っ直ぐ前を見ているのにどこか遥か遠くを見ているような欠落感があった。
そんなリヴァイの腕の中でぴくりとも動かないナマエの大きな目は見開かれたまま一切瞬きせずリヴァイを見つめていて…私はせめて目を閉じさせてあげたいのに何故かリヴァイはナマエの目を閉じさせようとしないんだ。
「ハンジ、リヴァイの様子はどうだ」
「どうもこうも…少しまずいかもね」
遠くなったリヴァイの背中をエルヴィンと見つめると胸が苦しくて押し潰されそうになる。
リヴァイとナマエは…なんていうかさ、見てるとこっちが思わず微笑んじゃうような二人だった。
本人達から直接付き合ってるって聞いたわけじゃないけど、そんな事わざわざ言われなくても分かるぐらい仲睦まじい二人だったんだ。
ナマエといる時のリヴァイは何処と無くいつもより雰囲気が柔らかかったし、リヴァイといる時のナマエも普段以上に可愛くて…本当に相思相愛なんだなって私達は二人をいつも温かく見守ってた。
……そんな二人だったのに、こんな事になるなんてね。
「確かにいつものあいつではないようだな…」
「ああ…リヴァイ班の皆に加えてナマエまで死んだんだ…いつも通りにいれる筈が……ん…?」
リヴァイの背中が曲がり角に消えた時、私は少し違和感を感じた。
二人にしてくれと言うのは分かる…けど一体リヴァイは何処に行こうとしてる?
あっちは地下に降りる為の階段があるけど…地下に行こうとしてるのか?
地下に…一体何しに行く?
(リヴァイ……?)
私は言い様のない不安が込み上げた。
根拠なんて何もないけど…寒気にも似た不安。
「……ハンジ、すまないがリヴァイの様子を見てきてくれないか。嫌な予感がするんだ」
「……ああ、分かった」
エルヴィンも私と同じだったみたいで言い様のない不安は益々大きくなる。
エルヴィンに頷くと私はリヴァイの背中を追う。
歩き出すと、ナマエのものだろうか…血の匂いが鼻を掠めてまた胸が苦しくなった。
「………………」
薄暗い地下へ降りていくとナマエの血の匂いがまだ残っている。
自分の足音と…遠くから微かに聞こえる物音を聞きながらそのまま進んで行くとひとつの部屋に辿り着いた。
少し開いたドアの中からはランプの灯りと血の匂いが漏れている…リヴァイはここにいるに違いない。
「………………」
私はドアノブに手を伸ばしかけてその手を止めた。
ナマエを抱えたままこんな所に来て…リヴァイは一体何してるんだ?
言い様のない不安が私の単なる勘違いで、ただ本当に二人になりたかっただけならいいんだけど…。
「……リヴァイ?入るよ?」
声をかけてから静かにドアを開けると信じられない光景が目に飛び込んできた。
正直、それは理解し難い光景だった。
いや、理解なんて出来る筈もなかった。
「ナマエ…おいナマエ…声出せよ…いつもみてぇに…」
一定のリズムで聞こえる衣擦れの音と荒い息遣い。
薄暗い部屋にぼんやりと浮かび上がる重なった男女のシルエット。
それだけならお邪魔しましたと背中を向ければ済む話だけど、これはさすがに見過ごせない。
ぞわぞわと体に鳥肌が立ち、血の気が引いて背中を嫌な汗が流れた。
「…っリヴァイ!何してるんだ!!」
叫ばずにいられなかった。
ナマエの両足を割り、そこに体を入れたリヴァイが腰を前後に振る。
リヴァイの性器が突き刺さる度ナマエの体がガクガク揺れ、見開かれたままのナマエの瞳がリヴァイを見上げた。
まるでそれは人形とセックスしているような異様な光景で、ナマエの血の匂いと性行為の独特の匂いが混ざり嫌な汗が止まらない。
「ナマエ…感じてんだろ…なぁ…声聞かせてくれよ…」
「リヴァイ!!」
その肩を後ろから掴むとリヴァイがゆっくり私を振り返り睨み付けてくる。
その瞳には光が無く、リヴァイが今普通の状態じゃない事は明らかだった。
それはまるで何処までも続く暗闇みたいに真っ暗な瞳で…私はこの瞳に身に覚えがある。
巨人に恋人や家族を殺され、悲しみのあまりにその事実を受け入れられない仲間達を私は嫌という程見てきた。
大切な人が死んだなんて嘘だと思うのに、悲しんでいるという事は大切な人が死んだのだという事実を頭で分かっている証拠。
悲しんでいるという事は…誰よりも自分が大切な人の死を受け入れているという事。
その事実がまた嫌で、でも悲しみは止まらず底なし沼にズブズブとゆっくり沈んでいくような絶望感。
そんなかつての仲間達と…リヴァイは全く同じ瞳をしていた。
(ああ…そうか。リヴァイ…君も皆と同じ苦しみを味わっているのか…)
私は眼鏡を外し滲んだ涙を袖でごしごし拭うとリヴァイを真っ直ぐ見た。
「何だクソメガネ…邪魔すんじゃねぇ」
「…リヴァイ、ナマエが死んで苦しいのは痛い程分かる…けどこんな事をしても…ナマエはもう…」
「ナマエが死んだ…?おいクソメガネ…縁起でもねぇ冗談言うんじゃねぇ…笑えねぇんだよ」
「え…?」
リヴァイ…何言ってる?いくら私でもこんな時に冗談なんて言う筈ないだろ。
それにまるで…“ナマエは死んでない”とでも言うような感じだ。
リヴァイの言い様に違和感を覚え私は目を丸くする。
私の反応なんかまるで気にも留めず、リヴァイはナマエのその血色の無い唇にキスを落とすとそのままナマエの体を抱き締めた。
労わるようにナマエの細い背中を撫でるその姿はやっぱり私には異様に見える。
「さっきから温めてやってんのに…ちっともナマエの体が温まらねぇ…クソメガネ、毛布か何か持ってこい…このままじゃこいつが風邪引いちまう」
「………リヴァ…イ………」
私の額を冷たい汗が流れ、顎を伝い床へぽとりと落ちた。
体が小刻みに震え目の前の光景の現実に脳が揺れる。
違う、かつての仲間達と同じなんかじゃない。
リヴァイは、頭でもナマエの死を受け入れていない。
悲しみが強過ぎて頭がナマエの死を拒絶している。
ナマエが死んだと思っていないんだ。
今も…“何故動かない?”“何故冷たい?”“何故喋らない?”ぐらいにしか理解出来ていないんだ。
「…………っ」
私は震える自分の腕をもう片方の手で押さえた。
ナマエを抱き締めたまま優しくその頭を撫でるリヴァイの光の無い瞳は、あれから私に向けられる事なく只一心にナマエを見つめていた。
「ナマエ…今日はどうした…いつもみてぇに俺の名前を呼んでくれねぇのか」
止まっていたリヴァイの腰がまた動きだしナマエの見開いたままの瞳がリヴァイを見上げる。
そんなナマエの頬に、ぽつぽつと水滴が零れ落ちた。
何度も何度も、零れ落ちた。
「………ナマエ…なんでいつもみてぇに笑わねぇ…俺は…お前が笑った顔が好きなんだ…知ってんだろ…」
リヴァイの光のない瞳から涙が溢れナマエの頬にぽつぽつ落ちる。
“ナマエの死を理解してない筈なのに”とは…もう思わなかった。
(……リヴァイ……君は…狂ってしまったんだね……)
それだけ、君にとってナマエは大切だったんだね。
悲しみのあまり頭ではナマエの死を受け入れられない、理解出来ない。
それでも心はナマエを求め涙を流す。
人間って器用じゃないからさ…きっとひとつ狂っちゃうと全ての歯車が狂っちゃうんだ。
「………………」
私は部屋から出ると歩き出した。
エルヴィンにリヴァイの様子を報告しないと…それに今後の事も話し合わないといけない。
(……ナマエ…君は…死んじゃいけなかった……)
こんな事なら君を幽閉してでも守らないといけなかった。
今後リヴァイはどうなるのか分からない、前のように戻ってくれるのか…それともずっとこのままなのか?
リヴァイがこのまま戻らなかったら人類にとって大打撃だ、調査兵団の力も著しく衰えるだろう。
兵達の士気も危ういかもしれない。
「あの……ハンジ分隊長……」
地下から出ると小柄な部下の女の子が憔悴しきった顔をして私を見上げていて、私は足を止めた。
今朝壁の外へ出発した頃は元気な様子だったのに、この数時間でまるで別人のように痩せこけて見えた。
「これから…調査兵団はどうなるのでしょうか…私達は…家族を守り切れるのでしょうか…?」
「……ごめん、私にも…分からない…」
「…………………」
大丈夫だと言ってあげたいのにどうしても言えなかった。
ごめんね。
本当に…ごめん。
望んでいた言葉と違ったんだろう、この世の終わりのような顔をしてその場に立ったまま動かなくなってしまったから私はその子の横を通り過ぎて歩き出す。
少し歩くと後ろからその子の泣き崩れるような声が聞こえてきて胸が押し潰されそうになる。
ふと横を見ればもう今にも日が暮れそうで、もう少し太陽を見ていたいと思った私は思わず掴めもしない太陽に手を伸ばしたけど…そのまま太陽は沈んでいってしまった。
「………………」
伸ばした手をゆっくり下ろすと思わず苦笑が漏れた。
何やってんだ私は…まるで何かに縋るような真似をして。
らしくない。
「………歯車…か………」
ああ……全ての歯車が狂い始めた。
(歯車)
2016.8.25