進撃の巨人

□パレードの華
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*現パロです

大丈夫という方はスクロールをお願いします↓

















周りを見れば人、人、人、人。
数えきれないその人の波は皆楽しそうに笑っていて私も自然と笑顔になる。
小さな子供達がいれば近寄り小さな手と優しくハイタッチし頭を撫でてあげる、すると子供達も本当に嬉しそうに笑ってくれてその度に私はだらしなく頬を緩ませる、ああ…なんて可愛いんだろう。

煌びやかで艶かしいアラビアン風の衣装と濃いめのメイク、お腹の底まで響くような大音量のミュージックで人の波の間を踊りながら歩き笑顔を振りまく私はテーマパークのパレードのダンサー。
周りでは色とりどりの紙吹雪が舞い、お客さんがその美しさに驚きつつも幸せそうに頭上を見上げている。

私はお客さん達のこんな顔が見たくてこの仕事をやってるようなものだ。
勿論これだけ大勢のスタッフがいるテーマパークの中の一人でしかないけれど、私の笑顔と踊りで楽しんでもらえて子供達やお客さん達が笑顔になってくれる。
それがとてつもなく嬉しい、この仕事が大好きだ。


(あ……リヴァイさん)


踊りながらお客さんに手を振っていると、ふと人の波の後ろにリヴァイさんの姿を見つけた。
首元につけた小型マイクで他のスタッフと連絡を取り合っている。
相変わらずのテーマパークに不釣合いな仏頂面に思わずくすりと笑いが漏れてしまった。

リヴァイさんは私の恋人で、こうしてパレード中の安全確認やお客さんへの案内、他にもテーマパーク内を巡回し常にスタッフの指導をしたりアトラクションに異常がないかなど沢山の仕事をこなしているエリート中のエリートだ。
テーマパーク内で何か問題が起きれば『何よりもまずリヴァイさんに連絡』というのがスタッフの間で暗黙の了解になっている。
多分『このテーマパーク内で一番頼りになるのは?』とスタッフに聞いたら、100人中100人がリヴァイさんだと答えると思う。

そのくらい、リヴァイさんは皆から尊敬されていて憧れの的なのだ。


(リヴァイさん)


心の中で名前を呼びながら今だけお客さんに手を振るフリをしてリヴァイさんに笑顔で手を振ると、気付いてくれたみたいで控えめに片手を上げてくれた。
仕事中だもんね、気付いてくれるだけで嬉しい。

すると小さな男の子がリヴァイさんに話しかけた、何かをリヴァイさんに聞いているのかな?
リヴァイさんはその場にしゃがんで男の子と同じ目線になってあげると、何処かを指差しながら何かを教えてあげているようだった。

笑顔なんて皆無だし、優しい話し方とかも出来ないリヴァイさんだけど、ちゃんと小さな子供にはしゃがんであげたりとか見ていると本当は優しいんだなって所が沢山みつかる。
そんなリヴァイさんが大好き。

微笑ましくその様子を踊りながら見ていると、男の子に教えてあげていたリヴァイさんが何故かガックリと肩を落としたからどうしたのだろうと思っていると、立ち上がり男の子の手を握って歩きだして一緒にお手洗いに入って行った。
…もしかして、お手洗いの場所を教えてあげたけど男の子がそれでも分からないみたいだから一緒について行ってあげたのかな?
なんて可愛いエピソードだろう。

くすくす笑っていると、私に向かって手を振ってくれている小さな子供達がいたから近寄って優しくハイタッチしてあげた。
ピョンピョン飛び跳ねて喜ぶ子供達が可愛くて、バイバイと笑顔で手を振り私はまた踊りながら歩いていく。

すると……


「姉ちゃん!可愛いじゃねぇかもっと腰振れ!」


酔っ払いと思われる顔を赤くした中年のおじさんが私に向かって口笛を吹く。
うちのテーマパークではお酒を取り扱ってる飲食店もあるし、ごくたまにこんなお客さんもいる。
私は少し怖いと感じながらも嫌な顔なんてできないからおじさんに笑顔で少しだけ腰を振る。
そのまま移動しようとしたらおじさんが「おい!」と乱暴に怒鳴ってきた。


「そんなんで満足すると思ってんのか怠慢してんじゃねぇぞ!もっとエロく腰振れ!」


そんな事言われても…子供達や他のお客さんもいるのにおじさんの望んでいるような腰振りなんてできない。
するとおじさんのそばでパレードを見ていた子供達がおじさんの大声に怯えて泣いてしまって、私は自分が罵声を浴びせられる事よりも子供達が泣いてしまった事にひどく傷付いて体が止まってしまった。

するとおじさんがパレードに乱入してきて泣いてしまった子供達に駆け寄ろうとしていた私の手首を掴むから、痛さに私は顔を顰めた。


「何よそ見してんだ!今話してんのは俺だぞ!」

「お、お客様…落ち着いてください…っ」

「そうだ俺は客だぞ!てめぇらは客の言う事聞くのが仕事だろうが!!」


間近で怒鳴られておじさんの手に力が入る、痛いし怖いしどうしようと思っていると私の手首を掴んでいるおじさんの腕を、誰かがガシリと掴んで私からおじさんを引き離してくれた。
痛む手首を押さえながらおじさんを私から離してくれた人を見ると、私は驚きに目を丸くした。


「…お客様、申し訳ありませんがパレード中は危険ですので中には入らないようお願いします」


そこには、おじさんの腕を掴みながら私を背中に隠すようにして立つリヴァイさんがいた。
そんなリヴァイさんに、おじさんは酔って赤くなった顔を近付けて馬鹿にするようにへらへら笑った。


「なんだ?チビが勇ましいこったなぁ?俺はその可愛いお姉ちゃんに用があるんだ、そのたまんねぇ腰で悩殺して欲しくてなぁ。邪魔すんなチビ」


おじさんがリヴァイさんの後ろにいる私の腰をいやらしい目で見てきて、怖くて思わずリヴァイさんの手を握るとリヴァイさんが震える私の手を握り返してくれる。
それが凄く安心した。

そっとリヴァイさんの横顔を後ろから覗くと、リヴァイさんは嫌悪感を隠す気などさらさら無いのか眉間に濃い皺を寄せ今にも舌打ちしそうな顔でおじさんを睨み上げていた。
丁寧で淡々としているのに、逆らってはいけないと本能から感じさせるような凄みを持つ低い声…私は自分が睨まれている訳でもないのにそんなリヴァイさんの横顔にぞくりとしてしまう。
こんなに怒っているリヴァイさんは初めて見る。


「…これ以上他のお客様のご迷惑となる行為やダンサーに乱暴をされますと、こちらも相応の対応を取らねばならなくなります」

「お〜そうかい、何すんだ?お前が俺をつまみ出すってのか?出来るもんならやってみろってんだよチビが、その前にこのお姉ちゃんと一発楽しませて貰うけどな…へへへ」

「…ほう……つまみ出されるのをお望みですか…かしこまりました」

「は?ぐえっ!?」


スタッフが見たら100人中100人が平謝りするくらいの怒りのオーラを纏いながらリヴァイさんはおじさんの後ろにゆっくり回り込むと、おじさんの首の後ろの服を物凄い力で掴み文字通りおじさんを片手でつまみ上げパレードの外へと歩いて行く。
おじさんは決して小柄じゃない、どちらかと言うと大柄な方だと思うのに…リヴァイさんって本当に凄い、あの細い体の何処にあんな力があるんだろう。
周りのお客さん達もおじさんに怯えていたのが一転、リヴァイさんの一種のパフォーマンスにも見えてしまうような圧倒的な力に歓声を上げる。

首が締まって苦しそうに暴れるおじさんをそのままパレードの外へつまみ出したリヴァイさんは、駆け付けた警備員のエレンとジャンの前におじさんをボトリと落とした。
締まっていた首を押さえ激しく咳き込むおじさんを放置して、リヴァイさんは敬礼するエレンとジャンに舌打ちする。


「遅ぇ、どこで油売っていやがった」

「す、すみませんリヴァイさん!他にも酔っ払いがいまして、そちらを対応していました!」

「何だと?チッ…もしかしたらこいつの連れかもしれねぇな…警備を厳重にしろ、他の客の迷惑になるようなら容赦すんな。こいつを警備室に連れて行って他にも連れがいんのか吐かせろ」

「「了解です!!」」


リヴァイさんに敬礼したエレンとジャンはおじさんを警備室に連行して行き、私はリヴァイさんに笑顔で駆け寄った。
リヴァイさんはそんな私を、じっと見つめてくれる。


「あの、リヴァイさん…本当にありがとうございました!」


リヴァイさんにぺこりと頭を下げると、くしゃりと頭を優しく撫でられたからゆっくり顔を上げればリヴァイさんと目が合う。
おじさんを睨んでいた時のような険しさはもうなくなっていて、その瞳には確かな優しさが感じられた。


「ナマエ…怪我はねぇか」

「はい…大丈夫です」

「そうか……ならいい」


少しリヴァイさんと見つめ合うと、一部始終を見ていたお客さん達が私とリヴァイさんに笑顔で惜しみない拍手をしてくれて、私とリヴァイさんは二人してそんなお客さん達に目を丸くして顔を赤くした。


「…っ怪我がねぇなら、早くパレードに戻れ…念の為俺もパレードが終わるまで近くにいてやる」

「は、はい」


顔を赤くしたまま照れからなのか眉間に皺を寄せ私に言うリヴァイさんにぽんと軽く背中を押され、私も顔を赤くしたままお客さんの拍手の中パレードへ戻る。
その際チラリと後ろを見ると、リヴァイさんは周りのお客さん達に「大変お騒がせしました、引き続きパレードをお楽しみください」と言い頭を下げ、小型マイクで他のスタッフ達に細かな指示を出していた。


(……リヴァイさん……)


大好きなリヴァイさんを、結果的にあのおじさんのおかげでもっと好きになった気がして…私は頬を染めた。










言っていた通りリヴァイさんは常に私が踊っている持ち場のそばにいてくれた。
私が踊りながら移動すればリヴァイさんも周りを警戒しながらパレードを見ているお客さん達の後ろを歩いて着いて来てくれる。
リヴァイさんがそばにいてくれるだけで私は何も怖くなかった。
笑顔は何倍にもなるしいつも以上にパレードを楽しむ事が出来る。
こんな安心感は他には無い。

子供達に手を振りながらふとリヴァイさんを見ると、いい意味で信じられない光景が私の目に飛び込んできた。


(うそ…リヴァイさん…何て微笑ましい光景なの…!)


暫くパレードを楽しんでいてリヴァイさんを見ていなかったんだけど、なんといつの間にかリヴァイさんの周りには沢山の小さな子供達が群がっていてまるで幼稚園のような光景になっていた。

リヴァイさんの周りをはしゃぎ回ったり、リヴァイさんと手を繋ぎたがったり、リヴァイさんの服を掴んだり、リヴァイさんに無邪気に話しかけたり。
そんな小さな子供達に囲まれてリヴァイさんはうんざりしたような顔をしながらも、なんだかんだやっぱり優しくてその小さな手を握り、せがまれればおんぶをしてあげていた。
本当に幼稚園の先生みたいだ。

子供達がさっきリヴァイさんがおじさんをつまみ出した時のように互いの首の後ろの服を掴み合ってはしゃいでいるのを見ると、リヴァイさんはあの一件ですっかり子供達のヒーローになってしまったみたい。
リヴァイさんをキラキラとした純真な眼差しで見上げる子供達も、そんな子供達に手を焼いているリヴァイさんも両方可愛い。

私が微笑ましさにくすくす笑っていると、リヴァイさんがそんな私の様子に気付いてなんとなく恨めしそうに眉間に皺を寄せる。


(ふふ、仕事が終わったら子供達がどんな風にリヴァイさんを讃えていたのか、お話聞かせてくださいね)


柔らかく手を振り、踊りの振りのひとつであるウインク付きの投げキッスをリヴァイさんにすると、リヴァイさんの周りのお客さん達が今日は気温が高かったからなのか逆上せたようにぽ〜とした様子でバタバタ倒れてしまい、リヴァイさんは顔を赤くして照れたように小さく舌打ちした。







(誰をも魅了するパレードの華)
2016.5.26

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