進撃の巨人

□ある意味よかったけどやっぱりよくない
1ページ/1ページ

*シリアスな場面がバカっぽいお話になっています

大丈夫という方はスクロールをお願いします↓

















「エルヴィン、匂うぞ」

「方角は」

「全方位から多数、同時に」

「!?」


巨大樹の森にて女型の巨人を拘束しうなじの中の人間を捕獲する作戦中、女型の巨人の断末魔が森に響き渡った直後のミケの言葉にエルヴィンは目を見開く。
そんなエルヴィンの様子に、木を登っていたリスに見入っていたナマエは立体機動でエルヴィンの横へ移動した。


「どうしたんですかエルヴィン団長、可愛い動物でもいましたか?」

「…いや、動物ではないナマエ。巨人だ」


この緊迫した空気を読んでいないのか柔らかく微笑むナマエはこれでも本人的にはボケているつもりはないのだから困ったものだ。
ぽわんとしていて天然で温厚な彼女は調査兵団の癒しであり、また同時に悩みの種でもある特化した存在である。

そんなふわふわした彼女は立体機動で女型の巨人の頭頂部にいるリヴァイの元へ移動した。
リヴァイの横へふわりと降り立つナマエの独特の立体機動術は彼女の性格や雰囲気をそのまま現しているようで、戦闘時以外ではまるで天使がふわふわと飛んでいるような柔らかさがある。



「リヴァイ兵長、巨人だそうです」

「何?チッ…こいつ、今何かしやがったみてぇだからな」

「そうですね、私あの断末魔で耳が痛くなってしまいました…壁へ戻ったら耳をお医者様に看てもらいます。あ、そういえば私、聴覚がとてもいいのですよ。この前なんか…」

「おい!今はそんな話してる場合じゃねぇ!お前はエルヴィンの所へ戻れ!;」

「きゃっ」


自分から巨人だそうですと言ってきたのにいつの間にか聴覚の話しをし出したナマエを急いで抱き上げたリヴァイは、立体機動でエルヴィンの横へ彼女を降ろすと向かってきた巨人達と戦闘を開始する。
その様子を見たナマエはハッとしたように口に手を当て目を丸くした。


「いつの間に巨人が…私も戦闘を開始します」

「(気付いてなかったのか?)いや…君はここにいるんだ」

「何故ですか?」

「…頼む、君はここにいてくれ」

「?」


ナマエが戦闘に加わるといつもあまりいい事がないのを熟知しているエルヴィンは彼女の肩に手を置き静かに首を横に振った。
力量はあるのだが純粋である為に戦闘中にも興味が他に逸れる時がある。
この前など戦闘中に兎を見つけ巨人をまだ討伐していないというのに地面に降り立ち兎を抱っこし始めるというある意味アンビリバボーな出来事があり、リヴァイ班の面々があんなに慌てた姿は見た事がない程だった。

エルヴィンの言葉に不思議そうに首を傾げていたナマエだったが彼女の性格が幸いして全く気にする様子もなくふわりと微笑んだ。


「分かりました」

「ああ…すまないな」

「あ、団長…小さな巨人が…」

「ん?」


小型の巨人が女型の巨人の足に喰らいつき、女型の巨人を狙っていると気付いたエルヴィンは全方位から女型の巨人目掛けて群がってくる巨人達に目を丸くした。
女型の巨人を守らなければと、エルヴィンは周りの兵達に指示を出す。


「全員!戦闘開……っ

「きゃああああ!!!」

「!!?ど、どうしたナマエ!?」


自身の指示を遮ったナマエの突然の悲鳴に、エルヴィンは急いで横の彼女を見る。
そこには何故か顔を真っ赤にしながら女型の巨人に群がってくる巨人達を怯えたように見るナマエがいた。
それにしても何故怯えているのかエルヴィンには分からなかった、先程までほわほわとした様子で笑っていた彼女が今更巨人に怯えるとも思えない。
エルヴィンが分からないのも当然かもしれない、巨人を前にして兎を抱っこしだすくらいの彼女なのだから。

そんなナマエが顔を真っ赤にしながら今にも泣きそうな瞳でエルヴィンを見上げた。


「大変ですエルヴィン団長!このままじゃ…女型の巨人が集団レ◯プされてしまいます!!」

「何!?」


何言ってるのこの子!?と、エルヴィンは勿論リヴァイやハンジ、モブリットやミケなどの周りの兵達もある意味アンビリバボーだった。
それも当然、巨人に生殖器はない。
それは訓練兵でさえ知っている常識中の常識。
しかしナマエの反応はその事をすっかり忘れているとしか思えないものだった。


「あ……あ……っ」


小動物のような丸い瞳に涙を溜めながら羞恥心に顔を赤くして小さな体を震わせ怯えるナマエ。
そんなナマエを嘲笑うように女型の巨人に群がっていく醜い巨人達。


「……っ…いや……!」


ナマエはそんな巨人達に耐え切れずぎゅっと目を閉じるとその瞳から涙が雫となってぽろりと零れ落ちた。


「ナマエ…っ!」

「チッ…!」

「全く見てらんないよ…!」

「教育によくなさ過ぎだ…!」

「フン……」


その光景はまるで、純真なナマエが無理矢理如何わしい行為を見せられ汚されているようで…エルヴィン、リヴァイ、ハンジ、モブリット、ミケ、そして他の調査兵団達も巨人達への憎悪で一気に殺気立った。
ナマエによって常識的な判断が出来る者がすっかりいなくなってしまったようだ。
まさにアンビリバボーだ。

殺気立つ兵達に、エルヴィンは改めて指示を出す。


「全員戦闘開始!ナマエの為に女型の巨人を死守せよ!!」


もう調査兵団にとって守る対象はすっかりナマエになっており、女型の巨人はナマエを如何わしい光景から守る為のついでのようなポジションになっていた。
巨人達もそんな如何わしい光景を作る気は当然毛頭ないがナマエによってすっかり洗脳されている調査兵団達にはそんな気があろうとなかろうともう関係無い。

普段以上の目覚しい戦闘を見せる調査兵団達の活躍も虚しく巨人の多さに守り切れず、女型の巨人は群がる巨人達に囲まれた。


「………っ!」


間に合わなかったと自分達の不甲斐なさに苦々しく顔を歪める調査兵団達はハッとし、急いでナマエを見た。
そこには巨人達に囲まれた女型の巨人を目の当たりにし、目を丸くしてその瞳から涙の雫をぽろぽろと零すナマエの姿があった。
その姿は下の地獄絵のような光景とは不釣合いな程透明感があり、可憐だがまた同時に儚い。

自分達の力が及ばなかったばかりに、この純真なナマエを汚してしまった。


「…っいや…!いやぁ…っ!」

「ナマエ見るな!見るんじゃねぇ…!」


まるで天使の涙のような透明感のある涙の雫をキラキラと巨大樹の森に降り注ぎながら巨人達から目を逸らすナマエの元へ立体機動で戻ってきたリヴァイはそのまま彼女を強く抱き締め、下の光景を彼女が見ないように自分の胸へその顔を押し付ける。
下の方ではぐちゃぐちゃと何か卑劣な音がしていて、ナマエはその度にビクリと小さな体を怯えたようにリヴァイの腕の中で震わせるのだ。
そんなナマエの心境を察したリヴァイは、彼女の両耳を…そっと両手で塞ぐ。


「…っリヴァイ兵長…兵長…っ!」

「大丈夫だ…お前は…俺だけ見ていろ」


ぽろぽろと涙を零すナマエの顔を上げさせその瞳をリヴァイはじっと見つめる。

これ以上、ナマエに汚らわしいものを見せたくはない。
ならば視覚も聴覚も…今だけは俺が支配する。

そんな男気を見せているリヴァイの耳にハンジの陽気な声が聞こえた。


「リヴァイ大丈夫だよ!女型の巨人はレ◯プなんてされちゃいなかった!見てごらんよ!」

「何…?」


リヴァイに向かって陽気にブンブン手を振るハンジの声にリヴァイが下を見ると、女型の巨人は巨人達に食われているのはある意味同じなのだがナマエの言うような如何わしい光景など何処にもなかった。
女型の巨人は自分ごと巨人に食わせて情報を抹消したのだ。


「ただ食われただけだったんだ!安心していいよ!」

「……そうか。ナマエ見てみろ…女型の巨人はただ食われただけだ」


リヴァイはこの事実に安心し、ナマエの頭を優しく撫でる。
そんなリヴァイのいつもより優し気な声にナマエはゆっくりと顔を上げ下を恐る恐る覗き込んだ。


「食べられただけ…?」

「ああそうだ…だから安心しろ」

「そ、そうだったんですか…よかった…」


ほっとしたように柔らかく微笑むナマエを抱き締め、リヴァイも本当によかったと小さく息を吐いた。
エルヴィンやハンジもナマエとリヴァイの周りに集まり、よかったよかったと(みな)で胸を撫で下ろしていたのだが……。


少しすると、ピタリと(みな)の動きが一斉に止まった。



…っいや、よくねぇよ!どうすんだエルヴィン!審議所であれだけ啖呵切った後でこの様だぞ!!;」

「………帰った後で考えよう、今はこれ以上損害を出さずに帰還できるよう尽くす、今は…な」

「でも本当に女型の巨人が集団レ◯プされなくてよかったですよねハンジさん、いくら巨人といっても女性ですし…そんな事になったら可哀相ですもん」

「あ、ああ…そうだねナマエ…;」


ようやく我に帰った調査兵団達は今のこの状況が何もよくない事に気付き激しい自己嫌悪に陥った…レ◯プやら食われただけやら我々は何を言っていたんだと。
巨人がレ◯プなどするわけがないし、そもそも食われた“だけ”って何だ…“だけ”では済まない、大事(おおごと)ではないか。

エルヴィンに詰め寄るリヴァイに遠い目をするエルヴィン、そんな二人の横でほわほわと微笑むナマエと引きつった笑いでナマエの頭を撫でるハンジ。



こんな微妙な空気の中、エルヴィンのカラネス区への撤退命令が出されたのだった。







(ある意味よかったけどやっぱりよくない)
2016.6.21

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ