進撃の巨人

□Stay by my side forever
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*アニメ22話の、壁へ戻る途中の平地部分のお話です

大丈夫という方はスクロールをお願いします↓


















第57回壁外調査が失敗して、多大なる犠牲が出た。
誰もがそれぞれの悲しみを背負いながら壁へと帰還する中、私はリヴァイ兵長の背中ばかり見つめていた。

エルド、グンタ、オルオ、ペトラ…リヴァイ班の皆が死んでしまって、勿論私も悲しい。
けどリヴァイ兵長は…きっと私以上に悲しんでいる。
決して涙は見せないのに、その背中は悲壮感に満ちていた。


「………………」


それに…先程巨人を振り切る為、仲間の遺体を捨ててしまった。
あんなに辛そうなリヴァイ兵長のお顔は初めて見た…巨人を引き連れてきたあの兵士の横面を張り倒してやりたいくらいだけど、きっとリヴァイ兵長はそんな事望んでないだろう。
先程、リヴァイ兵長はあの兵士に何か声をかけていたし…あの兵士が泣いているのを見ると兵長が何か言ってあげたのだと思う。

…ご自分だって辛い筈なのに。


「………リヴァイ兵長」


腕を胸の前で組みながら木に背を凭れさせ下を向いている兵長に声をかけると、ゆっくりと顔を上げてくださる。
そのお顔を見ると、思わず目が熱くなって下唇を噛み締めた。


「…………っ」


いつも…ずっと…毎日…リヴァイ兵長を見つめていたから分かる。


兵長の瞳が、押し寄せる悲しみに塗れている事に。


何処か遠くを見ているような寂しそうな瞳、悲しみを必死に押し殺しているような悲痛な瞳。


“仲間を失った悲しみ”という私とリヴァイ兵長の気持ちは同じ筈なのに…その瞳は私とは全く違っていた。


リヴァイ兵長の瞳を見たら何も言えなくなってしまって、嗚咽を喉元で我慢した分だけ涙腺が刺激されて涙が溢れて止まらなかった。
私を見つめたリヴァイ兵長は一度ゆっくり瞬きをすると、右手を伸ばし、くしゃりと優しく私の頭を撫でてくれた。


「……っひっく…っ!」


涙が…もう本当に止まらなくて。
まるでしゃっくりをするみたいに絶え間無く肩を跳ね上げながら呼吸困難になるぐらい泣いていると、リヴァイ兵長が私の後頭部に右手を添えて顔を近付けてくださる。


「……どうした、ナマエ」

「……っう、く…!うっ!…ひっぐ!…あぅっ…う…っ!」

「……悲しいのか?……来い」


そのまま頭を引き寄せられ、私の顔はリヴァイ兵長の右肩に押し付けられた。
リヴァイ兵長のマントに、私の涙が染みを作っていく。
押し付けられた右肩からすらりと伸びている右手で後頭部を優しく撫でられる。

皆が死んでしまって悲しい。
それは勿論嘘じゃない、ずっと一緒に戦ってきた仲間だもん…悲しくないわけがない。
でも、私がもっと悲しく感じるのは…リヴァイ兵長がこんなにも悲しそうな瞳をしている事。
どうしたら、あなたの悲しみを拭ってあげられるのだろう?
その方法さえ、分からない。

ご自分だって辛いのに、リヴァイ兵長はいつも自分より周りの人間に手を差し伸べてくださる…今だってそうだ。
なのに私は、そんなリヴァイ兵長の悲しみをどうにかしてあげる事も出来ずにいる。

ああ…私はなんて役立たずなんだろう。


「…ひっく…!あぅっ…うっ!」

「………泣け。また馬に乗って走り出せば…泣く暇なんかなくなるからな」


その言葉は私に言いながら、まるで自分自身にも言っているように私には聞こえた。
リヴァイ兵長のマントを握り締めると、右耳に微かにリヴァイ兵長の唇の感触がした。
それは耳にキスをされたとかではなく、リヴァイ兵長が私の方を向いて唇が意図せず触れたような感じだった。


「……ナマエ、お前はいなくなるな。俺のそばに、ずっといろ。これは命令じゃねぇ…俺という一人の人間としての、願いだ」

「…っ私…なんかで…いいんですか?」

「…どういう意味だ」

「私…皆みたいに…強くないし…リヴァイ兵長のお役に…立てない…っ!い、今だって…リヴァイ兵長の悲しみを…どうにかしてあげる事も出来ない…っ!」

「…役に立つ立たねぇの話じゃねぇ……ナマエ」

「……?」


顔を上げろとでも言うように頭をぽんと軽く叩かれて、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を上げて横を向く。
肩に顔を押し付けていれば当然だけど本当に目と鼻の先にリヴァイ兵長のお顔があって、ときめきよりもこんな汚い顔で申し訳ない気持ちの方が勝り反射的に顔を離そうとしたけど、後頭部に添えられたリヴァイ兵長の右手がそれをさせてくれなかった。
真近でその瞳を見ると、リヴァイ兵長の瞳が先程までと少し様子が違う事に気が付き…私は目を丸くした。


(………兵長の……瞳が……)


私が声をかけた時と比べると…悲しみの色が薄くなっているように感じる。
私の…気のせい?
ううん…気のせいじゃない。

自分の目を私にしっかりと見せるようにこちらを真っ直ぐ見ていたリヴァイ兵長が、熱を計る時のように私の額に自分の額を軽く押し当てた。


「分かったか、お前がそばにいれば…俺は何度だって立ち上がる事が出来る、あいつらの意志を継ぐ事が出来る。…これがどういう意味か、分かるか?」

「?…わ、分かりません…どういう意…

「出発するぞ!全員馬に乗れ!!」


周りの兵達に号令を出す兵の声に私の声が遮られ、思わずびくりと体が跳ねてしまった。
周りの兵達は馬に乗り出発準備をしている…私も早くしないと。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃのこの顔をどうしようかとおろおろしていると、目の前に綺麗なハンカチが差し出された。


「拭け、これはお前にやる…好きに使え」

「あ…ありがとうございます…大切にします」


リヴァイ兵長のハンカチを受け取ると柔らかく優しい感触がした。
せめて拭き方だけでも綺麗にしたいけど今は時間がない、手早く涙と鼻水を拭いてリヴァイ兵長のハンカチを丁寧にたたみ懐へしまう。
その一連の行動を見ていたリヴァイ兵長は一度私の頭を撫でるとご自分の馬へと歩き出されたので、慌ててその背中を追いかけた。


「あ、あの兵長…さっきの意味って一体…っ」


ご自分の馬に乗る兵長に駆け寄る。
手綱を握り馬の向きを変えるリヴァイ兵長が馬の上から私を真っ直ぐ見つめた。


「ナマエ、一度しか言わねぇからよく聞いとけ。俺は…お前の事が好きだ」

「!」

「お前の存在が、俺に力を与える…そういう意味だ。分かったらさっさと馬に乗れ、出発するぞ」


リヴァイ兵長の馬の前脚が高く上がると勢いよく走り出す。
周りの兵達の馬も次々に出発し、私も慌てて自分の馬に飛び乗った。


(リヴァイ兵長が……私の事を好き?)


馬の蹄の音と私の心臓の音がリンクしているみたいに早い。
リヴァイ兵長の馬の斜め後ろにつくと、兵長はちらりとこちらを見て、直ぐに前を向き直った。


(……私の存在が、リヴァイ兵長に力を与える…じゃあさっきも、私はリヴァイ兵長の悲しみを少しでも拭う事が出来たという事?)


確かにリヴァイ兵長の瞳から悲しみの色が薄くなった気はしていた。
やっぱり気のせいじゃなかったんだ。
私は、兵長の悲しみを拭う事が出来るんだ。


(…なら、私は生きる。生き続ける)


この先もずっと、私はリヴァイ兵長のそばで生き続ける。
それがリヴァイ兵長の力となり、リヴァイ兵長の悲しみを拭えるのなら…私は何としても生き続ける。

そして何よりも私自身が…ずっとリヴァイ兵長のそばにいたい。
そしてリヴァイ兵長にも、ずっと私のそばにいてもらいたい。


「……私、絶対いなくなったりしません…ずっと兵長のそばにいます……私も、大好きです…リヴァイ兵長」


壁が遠くに見えてきた。
けれど一種の自分なりの決意みたいなものを壁外でしておきたくて、私は殆ど独り言のように今の気持ちを呟いた。



小さな声だったし、馬の蹄の音や風の音で聞こえていないと思っていたのに



リヴァイ兵長は私が呟いた直後ご自分の馬の速度を落とし私の馬と並走させると





真っ直ぐ前を見つめたまま…優しく私の頭をくしゃりと撫でた








(Stay by my side forever)
2016.4.23

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