進撃の巨人

□道連れ
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*ヒロインも兵長も死ネタ
*いい気分にならない
*ヒロインが狂気
*暗い

大丈夫という方はスクロールをお願いします↓



























「誰だてめぇ…話した事もないくせにいきなり告白してくんな、気持ち悪い」


目の前の人は眉間に皺を寄せてそれだけ言うと私に背を向けてさっさと歩いて行ってしまう。

嘘だ、きっと嘘だ。
今のは照れ隠しでつい言ってしまった言葉で、少し歩いたら振り返ってきっと照れながら何か言ってくれる筈だ。
そう信じてリヴァイ兵長の背中を見つめていたのに、兵長はそのまま曲がり角を曲がり行ってしまった。

いつリヴァイ兵長が振り返ってもいいように必死に貼り付けていた笑顔が、私の顔から無残に剥がれ落ちた。


「……………う……そ………」


体が一気に冷たくなって、心臓が抉り取られたように感じた。
信じられなくて、唇が震えた。

私の一世一代の告白はあまりにも残酷に終わりを告げた。
私がこの告白にどれだけ勇気を振り絞ったか、どれだけ悩んで眠れぬ夜を過ごしたか。
私がどれだけこの告白の為に精一杯自分を綺麗に見せる努力をして、あなたが来るまで胸を高鳴らせていたか。
そんな時間が一気に崩れていき、砂粒程に粉々になった気がした。

きっと今…目が痛くて、熱くて、涙が出るのも、そんな砂粒が風で目に入ったからだ。


「……おい……た?……で……?」


誰かが近寄ってきて、私の顔を覗き込みながら話しかけてくるけれど何を言ってるのかも誰なのかも分からない。
視覚も聴覚も鈍くなってしまったのか、私はリヴァイ兵長が消えた曲がり角を見つめながら段々真っ黒くなるような世界を只見つめていた。


どうしてだろう、告白する前はあんなに色鮮やかだったこの世界が…今はこんなにどす黒くて汚く見える。


何だこれは、この世界はこんなに暗かったのか。


こんなに暗かったら、戻る道も進む道も分からないじゃないか。


どうやって部屋まで戻ればいい、どうやって故郷に帰ればいい。


何処へ向かえばいい、何処を目指せばいい。


こんなんじゃ、私は生きていけない。


何で、こんなに世界は暗くなった。


ああ…そうか、あの人が私の世界をこんなにも暗くしたのか。


私の世界をこんなにも暗くしたのは、あの人なのか。



……あの色鮮やかだった私の世界を。






「…………………返せ」
















「兵長!向こうでまだ一人巨人と戦っています!」

「分かった、俺が行く。お前らは撤退準備をしろ」

「了解です!」


部下達に撤退命令を出し俺はまだ巨人と戦っているという部下の元へ向かった。
平原じゃない事が幸いして立体機動を使うには十分な環境で素早く移動出来る。


「!」


木々の間を移動していると思わず血の気が引くような光景が目に入った。
巨人のでかい口の中から必死に外に手を伸ばし、空気ばかり掴んでいる手が見えたからだ。


「…っやめろ!!!」


巨人の口目掛けて突進し、巨人の口を切り裂く。
開かれた口から今にも飲み込まれそうになっている手をすかさず掴むと、その手は俺の手を強く握り返してきた。
丸呑みにされそうだったのか体を噛み砕かれたりはしてねぇ…不幸中の幸いで大した怪我もなさそうだ。


「大丈夫か!早く……っ


離脱するぞと言いかけて、言葉が出なかった。
突然自分の体が巨人の口元から外へ落ちそうになり咄嗟に踏ん張る。


「チッ…!」


思わず舌打ちした直後、顔に生温かいもんが飛び散ってきて、自分のちょん切れた右腕の断面が視界の端に入る。
生温かいもんは、俺自身の血だ。



「……………あ?」



一瞬、思考が止まった。

何で、俺の右腕が、無ぇんだ。
一体、何が起きた。

この右腕は、さっきまで喰われそうになっていた部下の手を掴んで引っ張っていた腕。
その腕が急に無くなったせいで反動で体が外へ投げ出されそうになった、そこまでは分かった。
だが口を切り裂いた筈の巨人が俺の手を噛み切れる訳がねぇ、なら何故、俺の右腕は無くなった?


「!」


踏ん張っていた筈が突然バランスを崩し俺は巨人の舌の上に倒れ込んだ、巨人の気持ち悪い唾液が顔にも体にもまとわり付く。
汚ぇと思い立ち上がろうとするが立てねぇ…クソ、何でだ。

右膝を立たせ、左膝も立たせようとした所で異変に気付く。
左膝から下が、右腕と同様にちょん切れて無くなっていた。


「…っふざけんじゃねぇ!一体何だってんだ!!」


痛みよりも苛立ちが勝り声を荒げる。
だが今は俺が置かれている状況より部下を救う方が先だ。
巨人の舌の上で這い蹲りながら部下に残った左腕を伸ばした時だった。


「………!」


薄暗い巨人の口内で俺の目に入ったのは、血で赤黒く光る巨人討伐用の剣。
そして剣の直ぐ向こうからこっちを静かに見据えるふたつの眼光。
その眼光の傍らには、今は只の肉の塊と化した俺の右腕と左足が転がっている。

そしてその目は助けを求めるというより寧ろ殺意に塗れていて、俺は目を見開いた。



俺はその目に…見覚えがあった。





『あの、リヴァイ兵長…ずっと…前から……好き……でした…』





間違いねぇ。


数日前告白してきた…あの名前も知らねぇ女だ。





女は俺の左腕を強く掴むと、にたりと薄く笑う。

その笑みはまさに…“狂気”だった。







「お前も……道連れだ」







地獄の底から這い上がってきたような声と共に、俺の体は巨人の口内へ引きずり込まれた。
















「リヴァイ兵長リヴァイ兵長、どうしたんですか?顔上げてくださいよ」


巨人の胃袋に背を凭れさせて座っているリヴァイ兵長に巨人の胃液をばちゃりとかけても、下を向いたまま反応がない。
そんなリヴァイ兵長も素敵だけどその綺麗なお顔が見たくて兵長の髪を掴んで顔を上げさせると、光のない虚ろな瞳をしたリヴァイ兵長が私を視界に入れた。

その表情を見ると喜びに自然と口の端が上がる。


「見てくださいよリヴァイ兵長、この巨人食べた人間吐き出した後なのか私達以外いませんよ。二人きりですね」


胃液の中でダンスをするようにくるりと回ってもリヴァイ兵長は無反応。
そんな兵長の綺麗なお顔に胃液で張り付いた髪をそっと撫でて整えてあげる。

哀れで目が死んでて絶望してるのに、その表情は何処か色っぽくて綺麗で儚い。
リヴァイ兵長は本当に罪な人だ、このお顔と強さと気高い心で数えきれない程女の子を泣かせてきたのでしょう?


「でもこれでリヴァイ兵長は私だけのものですね、文字通り死ぬまで一緒ですよ」


リヴァイ兵長の隣りに座りその左肩に頭を乗せる。
残った兵長の左手を胃液の中から持ち上げ指を絡めて手をつなぐと、やっとリヴァイ兵長がこっちを見てくれた。

光のない真っ暗な瞳に、私の顔が映っている。
その真っ暗なリヴァイ兵長の瞳に今の私の世界を見た。


戻る道も進む道も分からない、真っ暗な世界。


絶望、悲しみ、孤独、憎悪…負の感情が支配する真っ暗な世界。




(ああ…やっとあなたも、私と同じ世界に来てくれたのですね)




「嬉しいです……リヴァイ兵長」


リヴァイ兵長の唇にそっとキスする。
唇を離すと兵長の光のない瞳が一度ゆっくりと瞬きする。
そんなリヴァイ兵長の真っ暗な瞳に同じ瞳を近付けて、私は目を見開いて薄く笑んだ。


「あなたが私を真っ暗な世界に引きずり込んだんですよ、だからあなただって…一緒にこの世界へ落ちるべきです」


もう一度そっと唇を重ねるとリヴァイ兵長の長い睫毛の瞼が完全に閉じられたから私も瞼を閉じる。




そのままリヴァイ兵長の首に両腕を絡めると、私は彼を胃液の中へ一緒に引きずり込んだ。













(オンナノコヲフルトキハコトバニキヲツケマショウ、トリカエシノツカナイコトニナリマス)
2016.4.15

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