進撃の巨人
□恋の腕相撲バトル
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*腹黒いエルヴィンがいます
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「やるかやらねぇか…まぁ…せいぜい…悔いが残らない方を自分で選べ」
俺の前に並んでやがる三人の馬鹿共に言い放つ。
ここで向かってこようが尻尾巻いて逃げようが、どっちにしろ全員俺の相手じゃねぇがな。
「…いいだろう、受けて立つ」
「お、俺もやります!戦え…戦わないと勝てないんだ!」
「はは…エレンはともかく他二人が問題だな…だがやるっきゃねぇ…誰の物とも知れねぇ骨の燃えカスにがっかりされたくねぇからな!」
いい度胸だ…なら手加減はしねぇ。
顎で近くのテーブルを指し「そこに集まれ」と目で言う。
俺達四人の他にもいつの間にか興味本位の野次馬が集まり、俺達はすっかり野次馬に囲まれた状態でひとつのテーブルに集まった。
「それでは只今より、突然始まったリヴァイ兵長、エルヴィン団長、エレン、ジャンによる腕相撲大会を開催します。皆さん頑張ってくださいね!」
俺達が集まったテーブルの横で解説をし出すナマエに、周りの奴らが指笛吹いたり拍手したりと馬鹿みてぇな事をする。
突然じゃねぇよ、お前はさっきから事の発端見てただろうが鈍感が。
小さく舌打ちして、ついさっきの事の発端ってやつを思い出す。
まぁ、簡単に言っちまえばこうだ。
『ナマエ、明日は暇か?時間があるなら私と散歩にでも行かないか』
『すいませんエルヴィン団長!こいつには俺との先約が入ってるんで今回は諦めてもらえますか!』
『おいふざけんなジャン!俺の方が先だったろ!ナマエは明日俺と出掛けんだよ!』
『てめぇらどこに目ぇつけてやがる明らかに俺だろうが!腕相撲で勝負だ糞野郎共!!』
……簡単にし過ぎたか。
一応説明してやると、食堂で一人で本読んでたナマエの前の席になんとなく座り俺も一休みしてたんだが、話しの流れでナマエに明日一緒に外へ出掛けませんかと誘われた。
特に断る理由もねぇし俺も明日は暇だったから承諾したわけだが…後から来たこの馬鹿共がピーピー喚き散らして今のこの状況だ。
因みに何故俺が腕相撲で勝負だなんて言い出したのかは自分でも謎だ。
「ではリヴァイ兵長、やり方はどうしますか?」
「俺は最後に残った奴とやる、まぁ誰が残ろうが…結果は変わらんだろうがな」
イスに座りコーヒーのカップを口に付けながら言うと周りから「おお〜」と声が上がる、いちいち反応すんな面倒臭ぇ。
するとナマエがストンと俺のすぐ隣りに座る。
多分こいつの事だ、何も考えてねぇとは思うが…それをなんとなく嬉しく思う自分がいた。
チッ…俺らしくもねぇ。
「エレンとジャン、まずてめぇらからやれ。勝ったほうが次にエルヴィンとだ」
「「は、はい!」」
「リヴァイ兵長に指名されたエレンとジャンがテーブルを挟み睨み合います。この二人の対決は興味深いものがありますね!」
ナマエのやけにこなれた解説ぶりが気になるが…まぁ、楽しそうにしてやがるから別に構わねぇ。
エレンとジャンがテーブルに肘を付けて手を組み合った。
「ジャン…今思えばてめぇとは訓練兵の時からナマエの事で喧嘩ばっかしてたよなぁ…!」
「そうだったなぁ死に急ぎ野郎…そろそろ決着といこうじゃねぇか…!」
ほう…こいつら訓練兵の時からナマエにちょっかい出してやがったのか、後で躾しとかねぇとな。
だがこのガキ共は俺より長くナマエと一緒にいる、俺の知らないこいつを知ってるってわけか…気に食わねぇ。
「エレン、頑張って」
「この二人の対決かぁエレン頑張れ!」
「ミカサとアルミンがエレンの応援をするなら私はジャンを応援しますよ!コニーあなたも一緒に応援しましょう!」
「そうだなサシャ!ジャン頑張れよ!」
周りにいるガキ共の同期達が一気に盛り上がる。
それにしてもどっからこんなに人が集まって来やがった、最初は俺とナマエだけだったのによ。
ナマエが組まれたガキ共の手を両手で握るとガキ共が頬を赤くするのがイラつく、早く始めてその汚ぇ手を離せナマエ。
「いくよ?レディ…ゴー!!」
「うおおおおおお!!!」
「おらあああああ!!!」
ほう…なかなかの勝負じゃねぇか、悪くない。
組み合ったエレンとジャンの拳からギリギリと相当な力が込められている音がする、組み合った手とは逆の机の端を持つ手も血管が浮き出て力の入り具合が分かる。
正直舐めてた部分があったが、こいつらなかなかやりやがる…ナマエへの気持ちも本気みてぇだな。
「ぜってぇ勝つ…!ジャン!てめぇにナマエは譲れねぇ!うおおおお!!」
「な、何!?クソ…!死に急ぎ野郎なんかに押されてたまるかよ!このおおおお!!」
「す、凄い…何故私の名前が出てるのかは分かりませんが両者一歩も引きません!これは体力勝負になってきました!」
いや、分かれよ。どんだけ鈍いんだてめぇは。
気持ち悪いくれぇ目を血走らせながらどっちにも傾かねぇ互いの拳を震わせるエレンとジャン。
長ぇ戦いになりそうだな…。
すると今までずっと黙って見ていたエルヴィンが突然後ろからナマエの両肩に手を置いた。
「ナマエ、君には何が見える?」
「え?えっと…腕相撲してるエレンとジャンが見えます」
「おい…何してやがんだエルヴィン…そいつの肩から手ぇ離しやがれ」
自分の額に青筋が立つのを感じながら空になったカップをテーブルにガン!と叩きつけるみてぇに置く。
それでもエルヴィンは平然とナマエの肩に手を置いたまま俺を見る。
「待てリヴァイ、今から興味深いものを見せてやろう」
「興味深いものだと?」
「そうだ。ナマエ、今から私が言う事を復唱してくれないか」
「は、はい」
そう言うとエルヴィンはナマエの耳に口を近付けて何か呟き始めた。
「え?あ、はい…分かりました。えっと…エ、エレンもジャンもかっこいい!頑張って!」
「!ナマエ…///」
「マ、マジかよ///」
戸惑っていたナマエが急にやけに芝居がかった台詞を言う。
これがエルヴィンがナマエに言わせてやがる事らしい…こんな事ナマエに言わせてどうしようってんだエルヴィンの野郎。
ナマエの声にエレンとジャンが顔赤くしてチラリとナマエを見る。
エルヴィンの言ってる事を復唱しているだけと分かっていても、こいつの口から他の男を煽てるような台詞を聞くのは気分悪ぃな…クソ。
俺のイラつきを他所にエルヴィンはまだナマエの耳元で呟いている。
「えっと…も、もっと二人の男らしくてかっこいい所が見たいな!だから頑張って!」
「そ、そうか…よし、見てろよナマエ!俺がジャンを負かす所をしっかり目に焼き付けとけよ!///」
「そりゃこっちの台詞だ!ナマエ!俺は絶対エレンの手をテーブルに叩きつけてやるぜ!見逃すんじゃねぇぞ!///」
「えっと…う、うん頑張って!きゃあ!エレン腕の筋肉が男らしくて素敵うっとりしちゃう!ジャンも浮き出た血管に痺れちゃうずっと見ていたくなっちゃうぐらい!」
「うおおおおお!!!///」
「おらああああ!!!///」
………何だこれ。
呆れて何も言えねぇ…エルヴィン、てめぇは一体何がしてぇ。
ナマエの偽りの声援に血管ブチ切れそうな程熱くなってやがるエレンとジャン…不憫な奴らだ。
だがよく考えれば、エルヴィンがあの女口調の台詞をナマエの耳元で言ってんだよな。
ナマエのやつよく吹き出さねぇもんだ。
「あ、あの団長…これいつまで続けるんでしょうか?」
「ああ…もうそろそろだろう」
「え?もうそろそろ?」
やっとナマエから離れたエルヴィンが腕を組み、エレンとジャンを眺める。
すると…それは突然起こりやがった。
グキッ!!
「!?…っっいってーーー!!」
「!?…っう、腕が……っ!!」
エレンとジャンの組み合っていた手から変な音がしたと思うと、二人が手を離して自分の腕を押さえ床を転げ回った。
ナマエも周りの奴らもエレンとジャンの様子に驚いていたが、俺はこいつらに何が起こったのかが分かった。
エルヴィンの奴…なかなかえげつない事をしやがる。
「二人共どうしたの!?大丈夫!?」
「う、腕がいきなり痛くなって…何なんだよこれ!」
「力を入れ過ぎて腕を痛めたようだな…これではもう続行は不可能だろう、不本意だろうが」
「な…!ま、まだ出来ますエルヴィン団長!」
「俺もです!続行させてください!」
渋るエレンとジャンの肩に手を置くと、エルヴィンは神妙な面持ちで首を横に振る。
その下衆臭漂う演技をやめやがれ、こいつらをこうさせたのはてめぇだろうが。
「やめておけ、君達は調査兵団にとって決して欠けてはならない人材だ、こんな所で腕を使い物にならなくしてはいけない」
「エルヴィン団長……」
「……わ、分かりました」
「うむ…よく悔しさに耐えてくれたな、二人共」
「「は、はい…!」」
こんな奴の言葉に感動してやがるエレンとジャンが不憫でならねぇ…。
周りから「さすが団長だ」やら「感動した」やら聞こえる中エルヴィンが俺とテーブルを挟み立つ。
エレンとジャンが出来なくなった今、残るは俺とエルヴィンだけだ。
「これを狙ってやがったのかてめぇは」
「ああ、体力は温存したかったからな…しかしあの二人には悪い事をした」
「オイオイオイオイ、本当にそう思ってんのか」
「思ってるさ、それにあの二人の熱戦の様子だと遅かれ早かれ腕を痛めていたと思うが?あの二人には後で詫びておく」
「ああたっぷり茶菓子でも贈ってやるんだな。おいナマエ、そろそろ始めるぞ」
「はい、それでは最後の決戦です!リヴァイ兵長とエルヴィン団長組み合ってください!」
エレンとジャンを含む周りの奴らが盛り上がる中、俺はエルヴィンとテーブルの上で手を組み合う。
エルヴィンと睨み合うと組み合った俺達の手をナマエが両手で握った。
その華奢な白い手を視界に入れると、改めてナマエへの想いに気付かされる。
「…エルヴィン、てめぇは間違いを犯したぜ」
「何…エレンとジャンの事か?後で詫びておくと言っているだろう」
「違ぇ、いくら体力を温存しようが考えを巡らそうが決して勝てねぇ…ここまで俺の中で積もってきた感情にはな」
「積もってきた感情…?」
「では用意はいいですか?レディ…」
ナマエの手に力が入り、俺の手を熱くさせる。
目を閉じると周りの奴らの声援も何も聞こえなくなって、ナマエの声だけを脳が勝手に判別して聞き取ってるみてぇだった。
「ああそうだ、エレンもジャンもてめぇも…無自覚に俺に力を与えちまってたんだよ。俺はなエルヴィン…以外と……」
俺が目を開けるのとナマエの手がゆっくり離れていくのは同時だった。
実際はゆっくりなんかじゃねぇが、研ぎ澄まされた俺の目には全てがゆっくりと感じられる。
ナマエの唇がゆっくり開くのと同時に、俺はエルヴィンの無駄にごつい手を握り潰して目を見開いた。
「ゴー!!」
「以外と…嫉妬深ぇんだ!!」
一瞬でエルヴィンの手をテーブルに叩きつけると、エルヴィンの手からさっきのエレン達と同じような音がする。
叩きつけた時の風圧でナマエの髪がふわりと後ろに靡いてそのでかい目に俺が映っているのが分かった。
まだ研ぎ澄まされてんのか今だに全てがゆっくり見えやがる俺の目にも、微かに頬を赤くしたナマエが映ってんだろうな。
「あ、リヴァイ兵長、リスですよ!」
「ああ、そうだな」
「おいでおいで!あ…逃げちゃいました…あ、今度は小鳥が…わぁ、こんなに人懐っこい小鳥は初めてです!リヴァイ兵長見てください、肩に乗ってくれましたよ!」
「でけぇ声出すと、また逃げられるぞ」
「あ、そうでした。ふふ、可愛いです…リヴァイ兵長も指で撫でてあげてください」
「ああ」
次の日、旧調査兵団本部の近くの森にナマエと入りのんびり過ごす。
木漏れ日が地面に陰陽を作りそよ風が草木の葉を揺らす音がする。
ナマエの肩に乗ってやがる小鳥の羽毛を人差し指で撫でてやると気持ちいいのか小鳥が小さく羽を震わせた。
それを見てナマエが小さく笑う。
壁外調査とはまるで比べ物にならねぇゆっくりとした時間の流れに、気が抜けちまう程だ。
こんな時間は久しぶりだな。
「リヴァイ兵長、夕食までこのまま森にいませんか?私、とても今の時間が楽しいです」
「そうだな…悪くない」
頬を染めて笑いかけてくるナマエの頭を撫でてやると益々頬を赤くする。
そんな悪くねぇ反応に無意識に自分の口の端が微かに上がるのを感じた。
(勝者、リヴァイ)
2016.3.30