進撃の巨人

□ピンク色の信号弾
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巨人の口が目の前に迫っていたのが急に離れていったと思った次には、巨人の首の後ろから血が勢いよく吹き出た。
誰かにうなじを削がれたんだ。


「きゃあ!?」


巨人が倒れた事によって、私の体も巨人に掴まれたまま地面にべちゃりと倒れ込んだ。
でも皮肉にも巨人の手がクッションとなり、それ程痛みはなかった。


「ナマエ!!」

「あ…エレン!」


エレンが剣をしまいながら駆け寄ってきてくれる、私を助けてくれたのはエレンだったのだ。
エレンに手伝ってもらい巨人の手の中から抜け出すと、そのまま手を引かれ私はいつの間にかエレンに抱き締められていた。


「よかった!間に合ったな」

「エ、エレン……」


安心したように笑うエレンの頬についた巨人の返り血が蒸発し、そのせいなのかその笑みが凄く大人っぽく見えてドキドキしてしまう。
体を離され、ぽんと頭に手を置かれる。


「ナマエ、何処か怪我してねぇか?」

「あ…足が…ちょっと…」

「足か…どこ痛めた?」

「ん…!」

「あ、悪ぃ!動かさない方がいいな…ちょっと待ってろよ」


エレンが私の足の具合を診る為少し足首を動かしただけなのにズキリと痛む…変な風に捻ってしまったのだろうか。
慌てて私の足から手を離したエレンが自分の馬を私のそばまで移動させる。
その様子を、私はただ地面にへたり込んだままぼうっと眺めていた。


(…なんでだろう…今日のエレン…凄くかっこよく見える…)


いつもエレンはかっこいいけど、今日は…何だか違う。
足首と同じように、頬もまるで熱を持ったみたいに熱い。


「ほらナマエ、掴まれ」

「う、うん。ありがとう」


先に馬に乗ったエレンが馬の上から手を差し出してくる、その手を掴むとぐいっと引っ張り上げられエレンの後ろに乗せられた。


「行くぞ、しっかり掴まってろよ」


そのまま馬を走らせるエレンの背中にしがみつくと景色がどんどん後ろへ流れていき、馬が駆ける速度が徐々に上がる。
大地を駆ける蹄の音と一緒にエレンの背中も上下に揺れ、その背中にしがみ付いている私も揺れた。


「リヴァイ班の皆さんと先に合流するからな、拠点についたら足の手当てしてもらおうぜ!」

「う、うん!」


前を向いたまま馬を走らせるエレンが、蹄の音や風を切る音で私が聞こえにくいかもと思ったのか少し大きめの声で言う。
なので私も少し大きめの声でエレンが聞こえやすいように返事をした。


「……………」


エレンの背中に顔を押し付けると胸がドキドキした、だって背中…広い…そっか、男の子だもんね。
でも落馬したら危ないからとはいえ…こんなに強くしがみ付いてて痛くないかな?


「エレン、しがみ付いてて痛くない?大丈夫?」

「?全然平気だけど…寧ろ痛いのはお前だろ、足大丈夫か?」

「ちょ、ちょっと痛いかも…」

「そうだよな…悪い、合流するまで少し我慢してくれ。合流したらすぐ馬の速度落とすからよ」

「うん」


そんなの気にしないでいいのに…エレンは優しいな。
すると肩越しに振り返ったエレンが私を見ながら少し眉を下げたから、私は首を傾げた。

急にどうしたんだろう?


「けどよ、あのナマエ専用の信煙弾上がった時…正直生きた心地しなかったぜ」

「え?」

「だってお人好しのお前の事だ、他人の事考えて多分滅多な事じゃ打ち上げようなんて思わねぇだろ?」

「……う、うん…」


確かに他の人の手を煩わせる事になるから、私専用の信号弾はなるべく使わないようにしようと思ってた…エレンは私の事なんか全部お見通しだったんだ。
眉を下げたまま苦笑するようにエレンが笑って、その表情が大人っぽくて一瞬同期だという事を忘れるくらいだった。


「そんなお前が信煙弾打ち上げたんだ、相当やべぇ状況なんだと思ったら…無我夢中で馬走らせてた」


エレンのお腹辺りに回していた手に、私よりも大きな手がそっと重なる。
当たり前だけどそれはエレンの手で、触れられた部分がまるで火傷しそうなくらい熱く感じた。

するとその途端にエレンはパッと前を向いてしまいどうしたんだろうと不思議に思っていると、エレンの首やちらりと見える横顔が真っ赤になっていて驚いてしまった。


「だ、だから…ナマエが無事でいてくれて…凄ぇ…安心した…」


前を向いたままボソボソ呟かれたエレンの声は馬の蹄の音や風の音に紛れてとても聞き取りにくかったけど、ちゃんと伝わった。
私の手に重なったエレンの手にぎゅっと力が入って…一緒に心まで掴まれてしまったように感じる。


「エレン……」


嬉しさに自然と笑みが零れて、私は上半身をうんと伸ばしてエレンの耳元に唇を寄せる。
風で靡くエレンの髪が頬を優しく撫でて気持ちいい。


「私も…エレンが助けに来てくれて安心した…ありがとう、エレン」


そうエレンの耳元で呟くと、耳まで真っ赤になったエレンにくすくす笑う。
すると前方に小さくリヴァイ兵長やリヴァイ班の皆さんの姿を見つけ、私はまたエレンの背中に抱き付いてゆっくり目を閉じた。



皆さんと合流するまで、もう少し…エレンの体温を感じていたいと思ったから。







2016.4.8
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