進撃の巨人

□ピンク色の信号弾
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「きゃっ!?」


私を捕らえていた巨人の指が切り落とされ、私の体は重力に逆らう事なく落下して反射的に目を閉じる。
すると落下するのとほぼ同時に今度は体が横へ移動して…目まぐるしく変わる状況に混乱しながらも誰かにお姫様抱っこされている事だけは分かった。

何かが倒れる大きな音と、私をお姫様抱っこしてくれている人物が地面に着地するのはほぼ同時だった。


「おい、大丈夫か」


聞き覚えのある声にそっと目を開けて上を見ると、鋭い瞳がじっと私を見下ろしていて予想もしていなかった人物に驚いてしまった。


「リ、リヴァイ兵長!」

「なんだ、いちいちでけぇ声を出すんじゃねぇ」

「す、すみません…!あ、あの…危ない所を…ありがとうございました…!」

「ああ…このくらい当然だ、部下を死なせる訳にはいかねぇからな」

「は、はい……」


“部下”か…あれ、どうして私は少し傷付いているの?
リヴァイ兵長が部下想いというのは十分分かってる筈なのに、寧ろ兵長に助けて頂けただけで十分じゃない。
私は何か特別な言葉でも期待してたの?
自分が恥ずかしくて私は顔を赤くした。


「あの、兵長…巨人は…?」

「とっくに倒した、早くここから離脱するぞ」

「!」


あの一瞬でもう巨人を倒してしまったなんて。
兵長の後ろにはまさしくあの奇行種が地面に倒れていてそのうなじは綺麗に削がれていた。
巨人の指を切り落とし、私が落下する前にうなじを削ぎ私を救ってくださった。
私を抱いたまま兵長が地面に着地するのと巨人が倒れるのはほぼ同時だったし…やっぱりリヴァイ兵長は物凄く強い。

リヴァイ兵長の馬が近寄ってきて、兵長は私をひょいと馬に乗せると自身も私の後ろへひらりと乗馬した。


(…あれ?リヴァイ兵長、今さらっとやったけど…結構凄い事したんじゃ…だ、だって…凄い腕力…)


「しっかり掴まってろ」


リヴァイ兵長の腕の間に挟まれる形で手綱を持った兵長が馬を走らせる。
風を切って走り出す馬の後ろを見ると、うなじを削がれた奇行種がみるみる小さくなっていく。

少し上を見上げるとリヴァイ兵長が真っ直ぐ前を見つめる端正なお顔があって、あまりの近さに慌てて前を向き直した。
背中に感じる兵長の体温が熱く感じるぐらい。
馬が駆ける速度が上がってきて痛めた足がズキズキする…痛い。


「おいナマエ、まだ質問に答えてねぇぞ」

「え?」

「大丈夫かって聞いてんだ、何処か痛むんじゃねぇのか?」

「あ、えっと…足が少し痛みますけど…多分大丈夫です」

「“多分”だと?重要な所曖昧にしてんじゃねぇ。痛ぇなら痛ぇで、正直に言え。治療する時そんなんじゃ半端な治療になる、そうなれば治りも遅くなる、分かるな?」


じろりと鋭く見下ろされ、思わずハッとした。
確かにそうだ…曖昧にしていい事と悪い事、曖昧にしていい時といけない時がある。
それが兵士なら尚更だ。
リヴァイ兵長の的を射る言葉にまた未熟な自分が恥ずかしくなってしまった。
リヴァイ兵長は本当に凄い、尊敬の中の尊敬に値する。


「は、はい!すみません!えと…少し動かすと痛みが走るくらい…痛いです」

「…そうだ、それでいい。俺の班と合流したら馬の速度を緩める、それまで痛ぇだろうが…少し我慢しろ」

「は、はい」


リヴァイ兵長が私を見下ろして、ほんの少し眉を下げる。
このお顔で、リヴァイ兵長が私の事を心配してくださっているのだという事が分かり…不謹慎にも嬉しかった。

すると腰辺りに兵長の片腕が回されて突然の事に心臓が跳ねた。


「背中こっちに凭れさせろ、足の踏ん張りが効かねぇと疲れるだろう」

「は、はい…ありがとうございます」


耳元でリヴァイ兵長の声がする、あまり近いとまずい…だってきっと私の耳は真っ赤になってるだろうから。
リヴァイ兵長が私の耳や顔をあまり見ていない事を祈りながら兵長の胸にそっと背中を凭れさせる。

硬い胸板…男の人の感触がする。


「お、重くないですか?」

「……ああ。オルオみてぇに舌噛みたくなけりゃ、黙ってろ」

「は、はいっ」


真っ直ぐ前を見つめたままのリヴァイ兵長を見上げていた顔を急いで前へ戻す。




それからリヴァイ班の皆さんと合流するまで、私とリヴァイ兵長はずっと黙ったままだったけれど…不思議と居心地の悪さは感じなかった。
ただ私はその間ずっとリヴァイ兵長の体温を背中で感じていて、そしてリヴァイ兵長はずっと私の腰に片腕を回して支えてくれていた。


「…………?」


あれ?でも今更だけど疑問に思う所がある。
私が信煙弾を打ち上げた時リヴァイ兵長が私から近い位置にいらっしゃったとは考え辛い。
リヴァイ兵長が私を助けてくださっている間も陣形は移動を続けていたのは確かだろうけど、それを踏まえてもここまでそれなりの距離を走ってきている。

リヴァイ兵長より私に近い位置にいた兵士は他にもいた筈なんだけど…。



(も、もしかしてリヴァイ兵長は…近かったから助けに来てくださった訳じゃなく…私の信煙弾を見て、遠かったのにわざわざ来てくださった…?)



「大丈夫ナマエ?顔が真っ赤よ?」

「だ、大丈夫ですペトラさん…」


拠点でペトラさんから足の手当てを受けている間も、馬を撫でたりお茶を飲んだりしながら何かしら私のそばにいてくださるリヴァイ兵長と何度も目が合ってしまい…私は胸の鼓動が収まらないままだった。







2016.4.8
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