進撃の巨人

□ピンク色の信号弾
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「ナマエ、次の壁外調査にはこれも持っていってよ!」

「え?これ…信号弾ですか?」

「そ!でも普通の信号弾じゃないよ?ナマエ専用のピンク色の信号弾だ!」

「………はい?」


ご機嫌なハンジさんが言っている事がよく分からなくて、私は目をぱちくりと瞬かせた。


「えっと…何で私専用の信号弾が必要なんでしょうか?」

「ん〜いい質問だね!ナマエ専用の信号弾があれば、ナマエだって一目で分かるだろ?普通のじゃ伝わる事に限界がある、普通の煙弾じゃ位置は分かっても煙弾を打ち上げたのが誰かまでは分からないからね。だからナマエのイメージ色を取り入れた新しい信号弾を作ったわけ!これで誰が見てもナマエの位置とナマエが助けを求めているという事が一発で分かるようになるのさ!」


興奮したように話してくれるハンジさんに少し苦笑いが漏れつつ、私のイメージ色ってピンクなのかとか余計な事を考えてしまった。


「そ、そこまでして私だと分からないといけない必要があるんですか…?」

「そりゃあるさ〜ナマエは調査兵団にとって士気を左右する大切な女の子なんだよ?」

「わ、私そんな凄い人物になった覚えがありません…;」

「ナマエが自覚してないだけ!…私は、ナマエに何かあってほしくないんだ、だからこの信号弾を持っててほしい。そして危ない時はこれを遠慮無く打ち上げてくれ、近くにいる誰かが必ず助けに向かう」

「ハンジさん……」


信号弾を持っている手を、真剣な顔をしたハンジさんの両手に包まれる。
ハンジさんの瞳に私の戸惑ったような顔が映っているけど、思えばこんな私専用の信号弾を作ってもらえるなんてとても有難い事だ。
正直まだ少し戸惑いはあるけど…素直に喜べばいいんだ、その方がハンジさんも喜んでくれる。

戸惑いの気持ちを打ち消しすと、無意識に押さえつけられていた喜びの感情がふつふつと込み上げて私の口角は自然と上がっていた。
そんな私を見て、ハンジさんは目玉が飛び出そうな程目を丸くする。


「ありがとうございますハンジさん、嬉しいです。危ない時は使わせてもらいますね」

「…っっうわぁおーー!超絶可愛ーーーー!!!」

「!!?(ビクッ!!)」


まるで巨人の捕獲に成功した時のようなMAXハイテンションで床に膝を付き天井に向かって両手でガッツポーズをするハンジさんに一瞬驚いてしまった。
けどハンジさんらしくて、私はくすくす笑った。











「ナマエ、気をつけてね」

「うん、ミカサもね」

「…本当に気をつけてね、あなた専用の信号弾はちゃんと持ってる?」

「も、持ってるよ?大丈夫」


あれから数日が経ち、調査兵団は壁外調査へ出発した。
平原に入り、馬を走らせながら調査兵団の陣形は徐々に広がっていく。
調査兵団に入って何度か壁外調査は経験してきてるけど、何度見てもこの光景はかっこいいなと思ってしまう。

乗馬した兵達がそれぞれ陣形を把握した上で馬を操り一斉に広範囲へと広がっていく、馬が大地を駆ける蹄の音と風を切って突き進む時の風の音。
自分もその中の一人の筈なのに、いつも胸が熱くなる。


「また後でねナマエ、気をつけて」

「う、うん」


最後までミカサが心配してくれて、嬉しいんだけどそんなに私って頼りないのだろうかと少し苦笑いしてしまった。
ミカサと離れて暫く馬を走らせると前方に黒の信煙弾が上がった。


「…っ奇行種!」


黒の煙弾が上がってそう経たずに、奇行種と思われる巨人がこちらに走ってくる。
急いで私も黒の信煙弾を打ち上げ剣を抜く、奇行種なら討伐しないといけない。

でも誰も巨人を追いかけて来ない…信煙弾を打ち上げた人はどうしたの?
もしかして巨人にやられてしまったの?
でも考えるのは後にしないと、今は奇行種を討伐するのが先。


(…っこの奇行種足が早い!)


あっという間に距離を詰められてしまい一旦離れる為馬を反転させる。
でもそれも少し遅かった。


「きゃあ!!?」


奇行種の平手によって私は馬と一緒に弾き吹き飛ばされる。
受け身が取れず地面に転がって、少ししてからようやく止まった。


「……っうぅ…!」


痛みに地面に這いつくばる…足が痛くて立てない。
一緒に飛ばされた馬を探すと少し遠くでピクリとも動く事なく倒れていた、巨人の平手をもろにくらい即死してしまったのかもしれない。
どうしよう…馬もなく足も自由がきかない…絶体絶命だ。


「!」


でもそこで私はハッと気付いた、今こそ…ハンジさんから貰ったあの信号弾を使う時なんじゃないかと。
他の人の手を煩わせる事になるから、出来ればあまり使いたくなかったけど…あの時のハンジさんの言葉を思い出してしまった。



『…私は、ナマエに何かあってほしくないんだ、だからこの信号弾を持っててほしい。そして危ない時はこれを遠慮無く打ち上げてくれ、近くにいる誰かが必ず助けに向かう』




「……っ!」


奇行種が近付いてくる足音がする中、震える手で私専用の信号弾を打ち上げた。
ピンク色の煙弾が空へ伸びて、もしかしたらこれが私が調査兵団として打ち上げる最後の煙弾になるのかもしれないと思うと悲しくて、でもとても綺麗に見えた。


「…っ離して!嫌!!」


巨人の大きな手に体を鷲掴みにされ、地面から体が浮き上がる。
必死にもがいて巨人の手を叩いても効果は皆無。
大きな口が近付いてきて、それが開くのがやけにゆっくり見えて…もう駄目だと無意識に目を閉じた。
人間は不思議だ、本人がそうしようとしなくても、無意識に自己防衛が働いて恐怖から目を逸らす。


何でそうするんだろう?
理性を保つ為?
冷静さを保つ為?

恐怖の後も人生が続くというなら分かるけど、今みたいな状況でそんな事する必要があるのだろうか?
もう死ぬというのにそんな事をする必要があるのだろうか?

ああ、でもこんな極限状況だからこそ、これまでの人生を思い出す為に…理性や冷静さを保とうとするのかもしれない。

そう思うと、自己防衛には感謝しなくてはいけないかも。




(私の人生か…うん…とても楽しかった……)





「ナマエ!!」

「!」


今までの思い出が脳裏を駆け巡っていると、突如聞こえた自分の名前を叫ぶ声に私は反射的に目を開けた。








<分岐点>
あなたを助けに来た兵士は?


その兵士は一気に巨人のうなじを削いだ(クリックでページに飛びます)


その兵士は音響弾で巨人を撹乱した(クリックでページに飛びます)


その兵士は巨人の指を切り落とした(クリックでページに飛びます)
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