進撃の巨人

□ティータイム
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「エレン、大好き!」

「お、おい!こんな所でそういう事言うな!先輩方がいるんだぞ!///」

「だって今言いたかったから…言葉にするのは大事だって本に書いてあったよ?」

「どんな本だよ…いいからほら、先輩方に紅茶入れようぜ。もう皆さん少ないだろ?周りを見てこういうのにも気を配らねぇと、俺も手伝ってやるから」

「分かった!」


ナマエより先にリヴァイ班にいたエレンが何気にいい先輩をしていてなんとなく微笑ましい。
本部にてリヴァイ班とハンジの面々が集まり一休みしている所なのだが、エレンとナマエの子供カップルがちょくちょく微笑ましくそして面白いやり取りをしていて、そこにいる面々は紅茶を飲むタイミングを図らないといけなかった。
何故なら紅茶を飲むタイミングを間違えると、紅茶を豪快に吹き出しそうになるからだ。


「リヴァイ兵長!沢山飲んでくださいね!」

「馬鹿!いくら何でも入れ過ぎだナマエ!溢れたらどうすんだよ!;」

「え???」


リヴァイの前に置いてあるカップには並々と紅茶が注がれ、エレンが止めなければ確実に溢れていただろう。
それでも何故止められたのか分かっていないナマエは、彼女なりにリヴァイに気を使い沢山飲んで貰おうとまだ紅茶を注ごうとしている。
しかし、させまいとエレンもその腕をがしりと押さえる。


「だから溢れるって言ってんだろ!;」

「もう少しなら大丈夫だよ!もう少しだけ!」


ギャーギャー自分の横で言い争う子供カップルに、リヴァイは呆れた顔で頬杖をついている。
エレンが紅茶を入れれば済む話しなのだが、リヴァイ班の先輩としてナマエに経験を積んでほしいのかエレンもあくまで手伝う範囲に留まるつもりらしい。

男は自尊心が満たされるため、少々手がかかったり甘えたりしてくれる女が好きだったりするものだが…今のエレンもそれに近いものがあるのかもしれない。
まだ発展途上の少年とはいえ、しっかり“男”なのである。

そんな所も微笑ましく、リヴァイ以外の面々は必死に笑いを堪えた。


「たく、しょうがねぇなぁ…もう少しだけだぞ?あと一滴なら許してやる」

「うん!」


結局惚れた女には弱いのも男というもので、呆れながらもエレンはナマエの頭を撫で頬を赤くした。
許すのかよ〜というツッコミをその場にいる全員が内心する中、既に並々と紅茶が入っているリヴァイのカップにナマエがぽつんと一滴紅茶を注いだ。
変な所で器用だ。


「お待たせしましたリヴァイ兵長!沢山飲んでくださいね♪」

「くくく…!リヴァイ、それどうやって飲むつもりなのさ♪」

「うるせぇクソメガネ……」


ハンジが腹を抱えて笑いを堪える。
いつものリヴァイの飲み方では確実に手を火傷する、何故なら並々にし過ぎて紅茶がカップの端から盛り上がっている状態だからだ。


「よし、他の皆さんには俺が注いだからな。次はお茶請けを用意するぞ」

「あ、エレン、私昨日クッキー焼いたの!お茶請けにどうかな?」

「お、いいじゃねぇか。お前料理は得意だからな」

「うん!持ってくるから待ってて!」


リヴァイが両手をプルプルさせながら慎重にカップを持ち紅茶を飲んでいる間に、ナマエは上機嫌で部屋を出て行った。
あのナマエが料理は得意という以外な新事実。


「リヴァイ兵長、ナマエが作ったクッキー美味いんですよ。それをお茶請けにしようと思うんですがいいでしょうか?」

「悪くない…クッキーなんて久しぶりだな」

「無事に飲めたみたいだねリヴァイ(笑)」

「さっきからうるせぇぞクソメガネ」


ようやく普段通りの飲み方が出来るような量まで紅茶を減らす事に成功したリヴァイに、ハンジがまた笑う。
暫くその場にいる面々で談笑しているとナマエが少し息を切らして戻ってきた。
手には小さめの籠を持っておりその中にクッキーが入っているのだろう、埃が付くのを防ぐ為に籠に被せられたピンク色の布が女の子らしく可愛らしい。
その場にいる全員が癒される中、ナマエはエレンに籠を差し出し微笑む。


「エレン、持ってきたよ!」

「ああ。皆さんもう少し待っててください、ナマエと向こうで分けてきます」


エレンとナマエが部屋の奥にある小さな台所に入る様子はさながら若い夫婦のようで、二人の将来を少し早く垣間見たような気がした。
二人を見送った面々がほぼ同時にカップに口をつけたのは、皆考えている事が同じという現れなのかもしれない。


「兵長、あの二人は将来やはり結婚すると思いますか?」

「さぁな……まぁ、してもおかしくねぇ感じだが」

「兵長のお墨付きなら、間違いなさそうですね」


微笑ましそうに笑うエルドに紅茶を飲みながら目をやるリヴァイ。
くすくす笑いながら二人の入っていった台所を見るペトラ。
そんな和み空間だったが、暫くしてもエレンとナマエが戻ってこない。
不思議に思ったハンジがイスから立ち上がる。


「それにしても遅くない?ちょっと様子見てくるよ」


ハンジがこっそり台所の中を覗くと、何故かニヤニヤしながら戻ってきた。
その様子にリヴァイは眉を寄せる。


「何ニヤついてやがる、気持ち悪い」

「いや〜お取り込み中だったからさぁ、若いっていいね〜♪」

「何…?」


ハンジの意味深な言葉にリヴァイは微かに目を丸くし、他の面々は弾かれたようにイスから立ち上がった。
お取り込み中…まさか、自分達に隠れてあの二人は大人の階段を登っているのだろうか。

そもそもあの二人はそういう知識は十分に持ち合わせているのだろうか、もし持ち合わせていないとしたら大変だ。
まだあの二人は未成熟…我々大人が守ってやらなければ。

リヴァイ班の面々は顔を見合わせこくりと小さく頷いた。


「兵長!」

「ああ…いくぞお前ら」

「「「「はい!!」」」」

「あれ?皆その様子だと何か勘違いしてるみたいだね?私が言いたいのは…て、ちょっと〜?」


のほほんとしているハンジの制止も聞かず、リヴァイ班は台所へと直行した。
間に合ってくれと早る気持ちのまま、リヴァイが一番手で台所へ滑り込む。


おいガキ共!!早まる……な……」

「はいエレン、あ〜んして♪」

「たく…それ一枚だけだからな?…あ〜……///」

「ふふ、エレン可愛い♪美味しい?」

「美味いに決まってんだろ///」

「「「「「……………」」」」」


しかしそこにはリヴァイ班の想像していたような光景は無く、ナマエがエレンに恋人同士の王道あ〜んをしているという至って平和なものだった。
伸ばされたリヴァイの腕はゆっくり下ろされ、リヴァイ班の面々は座っていたテーブルへ戻ってきた。

一人イスに座ったまま呑気に紅茶を飲んでいたハンジが、戻ってきたリヴァイ班の面々に片手を上げてケラケラ笑う。


「あ、戻ってきた〜止めたのに皆聞かないんだからさぁ〜」

「てめぇ…紛らわしい言い方しやがって……削ぐ

「ま、まぁまぁ兵長!落ち着いてください!何もなくてよかったじゃありませんか!;」


ハンジにゆらりと近付くリヴァイをグンタが苦笑いしながら止める。
そうこうしていると大人達の苦労も知らない子供カップルがクッキーを人数分用意してやっと戻ってきた。
その途端人類最強のギラリと光る眼光がエレンに向けられ、エレンはびくりと震え上がる。
女であるナマエに向けない辺りは、リヴァイの男気ある優しさだ。


「エレンよ…随分とゆっくり用意してたみてぇじゃねぇか…」

「え!?あ…す、すみませんリヴァイ兵長!用意に手間取ってしまいまして…!;」

「ほう…俺に嘘つくとはいい度胸だな…」

「え…!え!?(バレてる!?);」

「リヴァイ兵長、そんなに私のクッキーを早く食べたかったのですね!嬉しいです!じゃあ私の分のクッキーも少し食べてください」

「…いい、てめぇの分はてめぇが食え。俺はこいつの分を貰う…なぁ?エレン」

「は、はい……;」


お茶請けも無事用意され(約一名極端にクッキーが少ないが)全員席につき、和やかな談笑が再開された。
ナマエが作ったクッキーは大好評で、リヴァイも「悪くない」と黙々とクッキーを平らげていた。


「いい奥さんになるな、ナマエは」

「ああ」

「フ、まぁまぁって所だな」

「オルオったら…リスみたいに頬張っといてよく言うよ。凄く美味しいよナマエ!」

「ほ、本当ですか?嬉しいです…皆さんありがとうございます///」


エルド、グンタ、オルオ、ペトラがクッキーを頬張りながら微笑むと、ナマエは奥さんという言葉に頬を赤くしてチラリとエレンを見る。
ナマエの視線に気付いたエレンも照れたように赤くなり指で頬をかいた。


「こんなに美味しいクッキーは久しぶりだね〜また作ってよナマエ!今度は私だけの為に♪」

「こんなクソメガネの為に作ってやる必要ねぇぞナマエ、時間の無駄だ」

「ひどいな〜リヴァイは!ん〜美味しい♪」


エレンの分のクッキーまで既に完食したリヴァイが満足そうにお茶のカップに口をつける。
ハンジは最後の一枚のクッキーも始終幸せそうに頬張った。


「皆さんに喜んでもらえてよかったねエレン!」

「ああ、そうだな」

「エレン…大好き♪」

「…っだ、だから!こんな所で言うなって言ってんだろ!///」

「もう、エレンも言って!ぷう!」

「頬膨らませたってダメだ!あ、後で何回でも言ってやるから…今は大人しくしてろ…///」

「本当?うん、分かった!絶対ね!指切りしよエレン♪」

「「「「「「………………」」」」」」


ハートを飛ばしながら指切りげんまんしているナマエとエレンを横目に、大人達はやはり皆同時に紅茶のカップを口に付ける。


するとナマエがにこにこしながらエレンに顔を近付けたので、何をするか悟った勘の良い大人達は素早く目を閉じた。





ちゅっ





小さな可愛らしいリップ音と、エレンが驚きと恥ずかしさのあまりイスから豪快に転げ落ちる音を聞きながら、大人達はすっかり空になったカップをテーブルに置くのだった。







(どこにキスしたのかは、本人達だけのヒミツ)
2016.4.1

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