進撃の巨人
□届かない声
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*ヒロイン死ネタ
*グロ表現あり
*暗い
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「お休みの所申し訳ありません!リヴァイ兵長、率直に聞かせて頂きます!兵長は…ペトラさんと…お、お付き合いをなさっているのですか!?」
「………あ?」
壁外調査での拠点で一休みしている所だったが空気の読めねぇ奴のせいで一気に不愉快になった。
申し訳ないと思うならその馬鹿みてぇな大声をやめたらどうだ。
イスに座ってる俺の前に直立不動になってやがるナマエのすぐ斜め後ろにはエレンもいて冷や汗かきながら突っ立っている。
何でてめぇはこの馬鹿を止めなかったという視線をエレンに向けると目ですみませんと訴えていた。
どうせナマエに泣きつかれでもしたんだろう、こいつはナマエに弱ぇ所があるからな。
周りにいた俺の班の奴らもナマエの台詞に驚いているみたいだが、ペトラだけは弾かれたみてぇにイスから立ち上がった。
「な、何言ってるの!?そんな訳ないじゃないナマエ!」
「そ、そんなに慌てるなんて怪しいです!ペトラさんはリヴァイ班でも唯一の女性ですし…そういう関係になっても…お、おかしくないです!」
なんだこの状況。
それを言うなら俺だけじゃなくエルドやグンタやオルオだってそうだろ、何で俺限定なんだ。
つうかこの班で女はペトラだけじゃねぇ、お前もそうだろうナマエ。
「唯一って…あなただって女じゃないナマエ!;」
「わ、私は女として成立してないので…この班で女性はペトラさんあなただけなんです!」
何言ってんだこいつ…女に成立するもしねぇもあるのか?
呆れながらナマエとペトラの様子を傍観していると、エレンの服の袖をナマエが不意に掴んだ。
それに目を丸くして赤くなりやがるエレンに舌打ちしたくなる、てめぇ…何だその反応は。
ナマエは何の為にエレンを連れてんだ、いざって時はこいつの後ろにでも隠れて守ってもらおうって魂胆か?
ああ……イラつく。
俺がテーブルの下で貧乏揺すりしてんのを知ってんのか知らねぇのか、ナマエは空気が読めねぇ頭に拍車をかけるみてぇに目に涙溜め始めた。
「…っも、もしお二人がそういう関係でしたら…普段からお二人に気を使うようにします!二人きりになれるように場を譲りますし、もうリヴァイ兵長に…な…馴れ馴れしく話し掛けたりもしません!」
何でこいつは自分から破滅に向かっていくのかが分からねぇ、自分は女として成立してねぇとか自分を卑屈して何がおもしろい。
こいつの事は嫌いじゃねぇ、寧ろ一人の女として見てる…守ってやりたくて俺の班に加えたが鈍くて頭の悪いこいつにはどうやら伝わってねぇみてぇだ。
俺なりに気に掛けてやってるつもりだったが、伝わってねぇばかりか挙げ句の果てにペトラと付き合ってるかだと?
ふざけてんのか、どこに目ぇつけてやがる。
「だ、だからねナマエ…私とリヴァイ兵長はそんなんじゃ…っ」
「きっとリヴァイ兵長がペトラさんをご自身の班に入れたのも、ペトラさんをそばで守りたいからですよね!?リヴァイ兵長がそばにいれば…っ一番安心ですもん!」
煩ぇ…空気読めねぇのも大概にしろよ、空気読めない上に鈍いとか救えねぇな。
ひとつ溜息をつくと、ヒステリックになっていたナマエが途端にビクリとして押し黙った。
こんくらいでビビるくせに今まで自分勝手にイラつくお喋りしてやがったのか、ある意味いい根性してやがる。
外していた視線をナマエに向けるとナマエの後ろに突っ立ってるエレンも顔を青くする。
俺は今よっぽどな顔してんだろうな。
「おい…言いたい事はそれだけか?俺がペトラをこの班に入れたのはそんな理由じゃねぇ、ただこいつの実力を正当に評価してこいつの力が必要だと感じたからだ。それに比べてお前はどうだ、ろくに討伐数も稼げねぇ…その上空気も読めねぇおめでたい頭ときてる、何で俺がそんな役立たずのお前をこの班に入れたと思う?答えてみろ」
「あ、あの…兵長……」
「てめぇらは黙ってろ」
今まで見ているだけだったエルド達が止めに入ってきやがったから黙らせる。
俺の言葉にガクガク体を震わせながら目を丸くして泣いてるナマエが、無意識なのか今まで掴んでいたエレンの袖から手を離しあろう事かエレンの手を強く握った。
その瞬間、頭の中で何かが静かに切れた音がした。
「わ…分かりません…へ、兵長が…何故私をこの班に入れたのか…も、もしかして…囮として使う為…ですか…?」
「あァ?お前自身がそう思うんなら、そうなんじゃねぇのか」
この状況でまだ自分を卑屈する事にもエレンの手を握ってやがる事にも全てにイラつき、思わず吐き捨てるみてぇにナマエに言った。
ナマエのこんな顔は初めて見る。
まるで死神に死の宣告でもされたような…絶望の顔。
「……っ…うわぁぁんっ!!」
「ナマエ!?」
エレンの手を離して泣きながら走り去るナマエの背中が何処かに消えた。
走るのだけは早ぇな。
「リヴァイ兵長!何であんな事を…!」
「あいつの卑屈には心底うんざりしてんだ、暫くほっとけば勝手に帰ってくるだろうしな。エレン、てめぇも追い掛けたりすんじゃねぇぞ」
「……で、でも…っ!」
「………………」
「………はい…分かり…ました」
エレンを睨み付け黙らせる。
何気無く空を見上げるとさっきまで晴れていたはずがいつの間にか灰色の雲が空一面に広がっていて俺は思わず舌打ちした。
あいつも雨が降ってくる前には戻ってくるだろ。
自分勝手なイラつきと醜い嫉妬で、この時の俺は頭がどうかしていたとしか思えなかった。
時が戻せるなら……俺はこの時の自分を…ズタズタに切り刻んでやりてぇ。
「兵長!拠点近くに巨人が現れました!」
「チッ……行くぞお前ら!」
「はい!!」
急遽馬を走らせ巨人が現れた地点を目指す。
大降りの雨が顔に当たるのが少し痛みを感じるぐらいだが構ってられるか。
「ミケ、匂いは分かるか?」
「ああ、雨で薄れてはいるが…罠をしかけてある地点辺りだと思う、こちらに向かっているな」
「そうか」
先頭を行くエルヴィンが馬のスピードを上げる。
雨が顔を打つのが激しくなる中、ナマエは今何処にいるのかと考えた。
恐らく雨が降ってきた時点で拠点に帰っているとは思うが、今は俺達がいない事に気付き残った兵達に状況を聞いている頃か?
まぁ、そのまま拠点で待機するだろう…今来てもこっちの状況はさほど変わらない。
数体だけだとミケは言ってやがるから人数も俺達だけで十分だしな。
「どんな子がいるのかな〜楽しみだな〜♪」
「煩ぇぞクソメガネ」
もうそろそろ罠が仕掛けてある地点だが…。
するとミケが何か感じとったみてぇに顔を上げた。
「待て、こちらに向かっていた巨人が離れていく…何、止まった?」
「止まった?もしかしたら罠にかかったのかもしれないな、急いで行ってみよう」
「了解だエルヴィン」
そのまま馬を走らせ少し行くと、数体の巨人が罠にかかり足を破損して動けなくなっていた。
すかさず俺の班の奴らがうなじを切り落としとどめを差した。
「中型巨人2体と小型巨人1体か…罠にかかっていたから楽に殺せたな」
「ああ」
エルドとグンタが笑い合う、俺の出る幕もなかったな。
馬の上からそんな光景を眺めていた時だった、俺の横で同じように馬に乗っていたエレンが一点を見つめて目を見開き顔面蒼白になっていやがったから俺は思わず眉を寄せた。
「どうした、エレン」
「……リ…リヴァイ兵長…あ…あれ…も…もしかして……っ」
声も体も震えているエレンが指差す方を見ると、倒れた巨人達の隙間から微かに“何か”が…俺の目に入った。
それは血で汚れて赤黒くなっているが……見覚えのあるジャケットを身につけて………。
「…………っ!」
血の気が引き、感覚が無くなったように感じる足で俺はゆっくり馬から降りた。
普段何の苦労も無しにやっているたったそれだけの事なのにやたら時間がかかった気がした。
俺がその“何か”に向かってゆっくり歩き出すと、周りの連中も異変に気付いたらしい。
「リヴァイ?どうし………え…?」
「!……まさか…あれは……っ」
クソメガネとエルヴィンの声が遠くに聞こえる、こんなに近くにいるのにな。
ちっとも動きやがらねぇ足でやっと“何か”を見下ろせる位置まできた。
血が地面に広がって雨と混ざりほとんど赤黒い水溜りになっている。
木の根元にもたれるようになっているそれは手足を無理矢理引き千切られ、歪な方向に曲がり骨が飛び出ていた。
木に叩きつけられ折れたのか、首も曲がるはずのない角度に曲がって………。
「…………ナマエ…………」
雨の音が俺の声をかき消した。
俺の直ぐ後ろでペトラの泣き叫ぶ声が聞こえ、エレンとクソメガネがナマエに駆け寄る。
オルオが嘔吐し、エルドとグンタが地面に膝を付き頭を抱え、エルヴィンは馬から降り下を向いた。
何が…起きてやがる……
さっきまでお前は…俺の…そばに……
「巨人が全て…ナマエの方を向いている…まるでナマエが囮になって…罠があるここまで巨人を誘導したみたいだ…」
クソメガネが死んだ巨人とナマエを交互に見る。
“囮”
俺はその言葉に聞き覚えがあった、ついさっき…聞いたばかりの言葉だ。
『わ…分かりません…へ、兵長が…何故私をこの班に入れたのか…も、もしかして…囮として使う為…ですか…?』
『あァ?お前自身がそう思うんなら、そうなんじゃねぇのか』
………俺は……何て事を言っちまったんだ……
「………っ!!」
エレンがクソメガネの言葉を聞き血相を変えて俺に近付いてくる。
そしてそのまま胸倉を掴まれた。
「あんたのせいだ!!あの時あんな事言わなければナマエは拠点から離れなかった!!あんたがあんな事言わければ…っナマエは死なずに済んだんだ!!!」
「落ち着けエレン!」
「落ち着いてなんていられませんよ!!」
エルドがエレンを引き離す、その間も俺は変わり果てた姿のナマエを見つめたままだった。
見開かれたままのナマエの目を、クソメガネが手で静かに閉ざす。
ナマエの両瞼が伏せられ、長い睫毛に雨粒がついては落ちた。
「拠点に近付こうとする巨人達を食い止めようとしてくれたんだろう…。リヴァイ、エレンが言った事についてお前に話しを聞きたい、直ぐ拠点に戻り……リヴァイ?聞いているか」
エルヴィンの声が頭に入ってこねぇ、まだ何か言ってやがるが何を話してんのか分からねぇ。
エレンの怒鳴り声さえも聞こえねぇ。
雨が地面を打つ音だけがやたらでかく聞こえて、木の根元にもたれかかっていたナマエの死体がバランスを崩し俺の足元に転がった。
びちゃりと雨水と血が混ざった水溜りが俺の足にかかり、さっきナマエと交わした最後の会話が頭の中を駆け巡る。
何で、俺はあの時ナマエにもっと優しくしてやれなかった。
何で、もっと思いやりのある言葉をかけてやれなかった。
ナマエがどんな気持ちであんな事を言ってきたのか…理由を聞いてやる事ぐらいいくらでも出来たはずだろ。
自分勝手なイラつきと醜い嫉妬に支配されて、心にも無い言葉で罵倒した。
泣きながら走り去るナマエを追う事もしなかった。
ナマエは一体…どんな気持ちでここまで走ってきた?
どんな気持ちで巨人に遭遇し…どんな気持ちで死んだ?
俺はその時…一体何をしていた?
地面に膝を付き、足元に転がったナマエを抱き上げると手足がないせいもあり驚く程軽かった。
そのまま細い体を抱き締めるとナマエの血の匂いがした。
「…………っ…」
俺のせいでこいつは死んだ。
こんな雨の中寒かっただろう、手足を引き千切られ痛かっただろう。
たった一人で怖かっただろう。
「……っすまねぇナマエ…ナマエ…っ!」
今頃謝ってももう遅い、こいつに俺の声はもう届かない…
そんな事分かっている……
分かっているのに……
俺はナマエの耳元で……謝り続けた
(届かない声)
2016.3.21