進撃の巨人

□偽善者
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*ミカサ→ヒロインでミカサがレズ設定

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「ナマエはどこに行くつもりなの?」

「えっと…聞き返してごめんだけど…ミカサはどうするの?」

「私は…エレンが行く所に行く。エレンは私がいないと早死にする」

「…じゃあ、調査兵団?」

「うん」


寝るまでの時間、私とミカサは私のベッドに二人で座って色々話していた。
ミカサとは訓練兵になってから一番仲が良くなった、ミカサと仲が良くなるという事は自然とエレンやアルミンとも仲が良くなるという事。

元々幼馴染だったらしい三人に私が混ざっていいものか少し戸惑ったけど、ミカサは勿論エレンやアルミンも快く歓迎してくれた。
ミカサはクールで感情をあまり外に出さないけど凄くいい子で優しい、そのミカサの幼馴染というだけあってエレンやアルミンも素敵な人達で友達になれてとても嬉しかった。

でも三人と仲が良くなるのと…私がエレンに強く惹かれたのはほぼ同時だった。

第一印象から好感を持ってから一気に落ちるのは早くて自分でも驚いた。
エレンの優しい所とか、頑張り屋な所とか、仲間思いな所とか、芯が強い所とか、男らしい所とか、熱い性格とか…上げたらキリがないけどとにかくエレンの全てに惹かれてしまったの。


『これからよろしくな、ナマエ!』


あの日笑いながら手を差し出してきたエレンの手を緊張しながら握った、自分より少し大きい男の子の手に心臓が跳ねるのを感じた。
でもエレンの手は直ぐに私の手から離れていった、ミカサが私からエレンを強引に引き離したからだ。


『な、何すんだよミカサ!』


ミカサにむっとするエレンとは違い私は怖くなってしまった、だって…ミカサが怒ったような顔をしてエレンを睨んでいたから。
きっと私がエレンの手を握っているのが嫌なんだと思う、だってミカサもきっと…私と同じようにエレンの事が好きだから。
でも好きな期間は私なんかとは比べ物にならない、ミカサは子供の頃からずっとエレンと一緒にいるんだもん。

やっぱり私なんかがエレンを好きになったらいけない、馬鹿な私…少し考えれば分かる事なのに。
友達と同じ人を好きになるなんて。


『ご、ごめんねミカサ!エレンの手握っちゃって…』


急いで手を引っ込めて謝ると、ミカサは首を小さく横に振って「違う」と呟いた。


『私は…エレンがナマエの手を握っているのが気に食わないだけ、だからナマエが謝る必要はない』

『え?』

『は?』


ミカサの淡々とした言葉に、アルミンとエレンが目を丸くした。
勿論私も驚いた、だって…エレンが私の手を握っているのが気に食わないってどういう意味?
ミカサは今、私じゃなくエレンに怒りを感じているって事?
逆なら分かるけど…本当にどういう意味?


『な、何だよそれ!何で俺が睨まれなきゃなんねぇんだよ!ただ手握っただけだろ!』

『ダメ、ナマエに触れていいのは私だけ』


頭が混乱してミカサが何を言ってるのか正直分からなかった。
怒るエレンから私を背中に隠すように立つミカサを、その時の私はただ動揺しながら見上げていたものだ。

あれから月日が経ち、私達訓練兵は卒業の日がもうすぐという所まで来た。
月日が経てば当然だけど私達も成長し、ミカサは益々綺麗になってエレンは益々格好良くなった。
二人とも背も高くなって、いつまでもチビな私はいつも二人を見上げている状態だ。

私は…どこか成長出来ているのかな。


「ナマエは?どうするの」


私のすぐ横に座っているミカサが凛とした眼差しで見つめてくる。
それが同性でもどきっとするぐらい綺麗で私は動揺した。

動揺といえば、あれからミカサはエレンだけじゃなく他の男子からも私を守るようになった。
これがエレンだけだったら、失礼だけど私を守る振りをしてエレンに近付けないようにしているのかもと考える事も出来るけど、どうやらそうじゃないみたい。

他の男子が私に話かけようものなら容赦無く睨んで追い返すし、訓練でペアを組むのなんて許してくれない。
どうしても男女でペアを組めと教官に言われた時は「じゃあ、ナマエはマルコと組んで」と名指しする。
何でマルコなのか理由を聞いたら、一番無害そうだからという理由には思わず苦笑いしてしまったものだ。


「うん…まだ…正直迷ってる…」

「………そう」

「……………」


私が迷ってると言った時のミカサの顔が少し悲しそうに沈んだのが分かった。
以前の私ならミカサがこんな表情をしてくれたら、きっと私と離れるのが寂しいんだと思い嬉しくなっただろう。

でも…今は…正直戸惑いの気持ちの方が大きい、これには勿論理由がある。

仲良くなればなる程、ミカサの私に対する接し方に疑問を感じるようになった。
ある日は、訓練の後汗を流す為シャワーを一緒に浴びた時チラチラ私の方を見てミカサは顔を赤くしていて…逆上せたのかと思い心配して声をかけると慌てたように「何でもない」と視線を逸らしていた。
またある日は、二人で並んで歩いていた時人気がない所に行くと突然私の頭を片手で引き寄せて額に軽くキスをされた事もあった。
またまたある日は、「一緒に寝よう」と私のベッドに潜り込んで一晩中ミカサに抱き締められたまま朝を迎えた夜もあった。

でも極め付けは…やっぱりこの事かもしれない。
ある日授業が終わり、何気無くエレンと教室の外で話していた時だった。
コニーが私の背に誤ってぶつかってしまい、私はふらついて目の前のエレンに抱き止められた。


『悪いナマエ!大丈夫か!?』

『大丈夫だよ、気にしないで!あ…ごめんねエレン』

『いいってこんくらい、大丈夫か?』

『うん、ありがとう』


エレンと別れて一人歩いていた時だった、急に空き部屋に誰かに引き込まれて背中が壁に打ち付けられた。
痛みに閉じていた目を開けると、目の前には無表情で私を見下ろすミカサがいてその威圧感に背筋が凍ったのをよく覚えている。


『…さっき、エレンと抱き合っていた…あれは何?』


淡々とした声に体を震わせながらミカサを見上げると、両肩を掴まれて強い力に身動きがまるでとれなかった。


『だ、抱き合ってなんかないよ…コニーが私の背中にぶつかって私がよろけて…エレンが助けてくれただけ…』

『でも、ナマエは顔を赤くしていた、エレンも満更でもないように見えた』

『だ、だって…男の子とくっつけば恥ずかしいから…誰でも赤くなるよ…』

『そう…でもナマエが顔を赤くすると可愛いから、悪い虫が寄ってくる…そんなの許さない』

『ミ、ミカサ…?』

『ナマエは私のもの…誰にも渡さない』

『……っん!』


ミカサの唇が優しく私の額に触れ、唇に触れ、首へも触れる。
同じ女の子なのに私の両肩を掴む手はビクともしなくて怖くなってしまった。


『ミカ、サ…ミカサ…怖いよ…っ』


涙ぐみながらミカサの肩を弱々しく押すと、ハッとしたようにミカサが目を丸くして私から唇を離した。
体を震わせる私の頭を優しく撫で、ミカサは眉を下げながら私を抱き締めた。


『……ごめん』


ミカサの小さなその声が、昨日の事のように耳に残っている。

これら全て…どう考えても友達に対する接し方じゃないと思うのは私だけ?
そんな筈ない、普通友達にこんな接し方はしない。
私はたいして頭も良くないけど、必死に考えてある日ハッと気付いたの。

もしかして…もしかしてだけど…ミカサは…私の事が好きなんじゃないかって。
友達としての“好き”じゃない、恋愛対象としての“好き”だ。

でもミカサは女の子だし、勿論私も女の子…同性なのにと思うけど…ミカサの私に対する接し方はもうそうとしか思えない所まできていた。


「でも、そろそろ卒業が近い…早めに決めといた方がいい」

「うん、そうだね」


私が微笑むと、ミカサも微かに口角をあげて頭を優しく撫でてくれた。
その微笑みに、良心がズキンと痛んだ。
だって、本当はもうどこに行くか決めている…でもそれは凄く個人的な感情で決めたもので、とても人に言って感心されるような理由じゃない。

それに私は偽善者だ、それも…最低最悪の偽善者。


「……ミカサ」

「ん…?」

「あの…ごめん、本当はね…もう行こうと思ってる所…決めてるの」

「…大丈夫、謝る必要なんてない。どこ?」


また優しく私の頭を撫でながら顔を覗き込んでくれるミカサ。
そんなミカサに、私は思わず涙ぐみそうになり下を向く。


(ミカサは優しい…こんなに優しいミカサを…私は……)


下唇を噛み、私は太腿の下に隠した手を震わせながら呟いた。


「あのね……私も…調査兵団に…行きたいの」


私の言葉に驚いたようにミカサは目を丸くした。
私はとても成績10番以内に入れるような実力じゃないから憲兵団は無理だし、調査兵団は危険だし…ミカサは私が駐屯兵団に行くと思っていたのかもしれない。
まだ震える手を太腿で押さえつけていると、頬に優しい手の感触がした。

ハッとして横を見ると、真剣な顔をして私を見つめるミカサがいた。
その真っ直ぐな瞳に吸い込まれそうになる。


「理由は?調査兵団はとても危険…ナマエはどうして調査兵団に行きたいの?」

「……それ、は……」


真っ直ぐなミカサの瞳を見てると自分がさらに醜く感じて思わず目を逸らしてしまう。
太腿の下の手が震えて止まらない。


(私はこれからとても残酷で卑怯な事を言おうとしている…でも…でも…もう後戻りは出来ない)


逸らしていた視線を上げてミカサと目を合わす。
ミカサの黒目に私の顔が映ってるのが分かった。


「……それ…は……ミカサと…ずっと一緒にいたいから…」


ついに言ってしまった。
自分で発した声は微かに震えていて、ミカサはこんな私をどう捉えるのだろう。

落ち着かず視線を泳がす、さっきから私はミカサから目を逸らしたり泳がせたりしてばかりだ、明らかに挙動不審だと思う。
でもそんな私の頬に添えられた手が優しく頬を撫でた。
視線を戻すとそこにはとても柔らかく微笑むミカサがいて、また胸がズキンと痛んだ。


「……そう…ありがとうナマエ……嬉しい」


そう呟いて私を抱き締めるミカサの肩に顔を押し付けて、私はとうとう涙ぐんだ。
嗚咽を零さないよう必死に我慢する。


(ごめんなさい…ミカサ……)


私は嘘をついた、最低最悪の嘘を。

ミカサと一緒にいたい…これは決して嘘じゃない、ずっと一緒に頑張ってきた仲間であり親友だもん…一緒にいて本当に楽しいし、大切だし、大好きだ。

でも…でもごめんなさいミカサ。

私が調査兵団に行きたい本当の…本当の理由は…“エレンと一緒にいたいから”。


「ナマエ…?泣いているの?」


涙が止まらなくてミカサの肩に染みを作る、それに気付いたミカサが微かに目を丸くして私の顔を覗き込む。
涙を拭ってくれるミカサの指が優しくて…優しすぎて益々泣いてしまう。


「怖いの?大丈夫、あなたは私が必ず守る…安心していい」


私の挙動不審な様子もこの涙も、ミカサは巨人への恐怖からのものと思っている…ごめんなさい…ごめんなさい…。


私はミカサに嘘をついた上に、ミカサの私への気持ちも利用しようとしている。


ミカサと一緒なら…きっと様々な脅威から守ってもらえる。


巨人は勿論、時には人からも。


ミカサが一緒なら…私は調査兵団できっとやっていける。


なんて自己中心的な考え方で、浅ましいのだろう。


そればかりか、私はミカサと一緒にいたいからと言う事で…エレンには友達思いだと、ミカサには今以上に好感を持ってもらおうとしている。


エレンにもミカサにもいい顔をしようとしている。


八方美人の表面上だけのいい子ちゃん。



それも全て、エレンには好かれようと…ミカサにはずっと守ってもらおうという…薄汚い反吐が出るような考え。




「うぅ…っ!ひっく…っ…!」

「ナマエ、泣かないで…大丈夫だから」




ごめんなさい…本当にごめんなさい…




私は嘘つきで…自己中心的で…八方美人で…薄汚い考えの偽善者です





これからずっと、私は自分を蔑みながら生きていきます





だから…だから許してください






ごめんなさいミカサ……







ごめんなさい…………









(偽善者)
2016.3.21

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