進撃の巨人

□恋人同士らしい事
1ページ/1ページ



人を好きになったのも初めてで、右も左も分からなくて…恋人同士というのは具体的にどういう事をするのでしょうか。
手を繋いだり、デートしたり、愛を語り合ったり?そういう事をするのが恋人同士なのでしょう。

兵士になるのを夢みていた子供の頃、街で見かけた恋人同士も手を繋ぎながら幸せそうに歩いていた。
私はその頃小さかったので母に手を引かれていたものだけど、今ならあの頃見た恋人同士のような事も出来るはず。
私も大人になったものだと、嬉しさに思わず笑いが零れた。

そう思ったら急に恋人同士らしい事をしたくなってきて、私は大好きな人に声をかけました。


「リヴァイ兵長、今から兵長のお部屋で二人きりになりませんか?」

「……何?」


昼食の後、リヴァイ兵長とリヴァイ班の皆さんとで食堂でコーヒーを飲んで談笑していた。
私が隣りに座っているリヴァイ兵長に声をかけると、何故かリヴァイ兵長は微かに驚いた様子で、他の皆さんはコーヒーを吹き出しそうになっていて私は首を傾げた。

一体皆さんどうしたのでしょう?


「てめぇ…昼間っから何言ってやがる」

「え?」


コーヒーをテーブルに置き、リヴァイ兵長は自分の額を手で押さえた。
頭痛がするのかと思いお薬を兵長の前に差し出すと、無言で薬を返されてしまいました。

どうやら頭痛ではないようです。


「フン、ナマエ…なかなか大胆な事を言うようになったな…ぐへっ!」

「変な喋り方してるから舌噛むのよ」


舌を噛んでるオルオさんをペトラさんが呆れたように見る、何が大胆なのかは分かりませんが。
まだ額を押さえているリヴァイ兵長の顔を覗き込んで、私は微笑んだ。


「私、リヴァイ兵長と恋人同士らしい事をしたいのです!」

「………………」


今日は非番ですし、室内デートと呼ぶのでしょうか…リヴァイ兵長と恋人同士らしくお部屋で手を繋いだりしてお話したり、のんびり過ごしたい。
すると目を閉じて眉間に皺を寄せていたリヴァイ兵長が、私の声にその瞼をゆっくり上げました。


「兵長、俺達の事はお気になさらず」

「ゆっくりしてきて下さい」


くすくす笑うエルドさんとグンタさんをちらりと見たリヴァイ兵長は、前髪を掻き上げながら小さく溜息をついた。
セクシーなその仕草に私は思わず見惚れてしまいました。


「…わかった、行くぞナマエ」

「はい!」

「「「「ごゆっくり〜」」」」


にこにこしながら手を振ってくださるリヴァイ班の皆さんに私も笑顔で手を振り返し、先に歩きだしたリヴァイ兵長の後ろを着いていく。
見送ってくださったリヴァイ班の皆さんから随分離れると、後ろから皆さんの楽しそうな声が聞こえてきました。


「しかしナマエから兵長を誘うとはな…なんだか娘を嫁に出す父親の気分だ」

「確かに、そうだな」

「今からリヴァイ兵長とナマエが…実感が湧かねぇ!!」

「ふふ、ナマエは父親が沢山いて幸せね」


エルドさん、グンタさん、オルオさん、ペトラさんが何を話していらっしゃるのかは全く分かりませんが、楽しそうな皆さんの声が気になりつつも私はリヴァイ兵長の背中に着いていくのを再開した。

















「入れ」

「はい、わぁ…やっぱりリヴァイ兵長のお部屋は綺麗ですね!」


私も綺麗好きですがリヴァイ兵長のお部屋はまさにチリひとつない綺麗さ。
思わずキョロキョロお部屋を見回してしまって、本来の目的を忘れる所でした。

私の後ろで腕を組み私の様子を眺めていたリヴァイ兵長に近付くと、リヴァイ兵長は組んでいた手を解いてじっと私を見つめてくれました。
私は恥ずかしさにもじもじしながら彼を見上げた。

リヴァイ兵長とお付き合いを初めてまだ日が浅いですし、恋人同士らしい事はまだした事がありません。
兵長が私の人生での初めての恋人なのだから、恋人同士らしい事自体経験がない。
ですから初めての事だらけで、緊張してしまうのはしょうがない事ですよね。


「あ、あの…リヴァイ兵長…て、手を握ってもらっても…いいでしょうか?」

「……ああ」


リヴァイ兵長の右手が、私の左手をそっと握る。
細身なのに大きな男の人らしい手に、心臓がどきどき高鳴ってしまいます。
これが男性の手…私は今、子供の頃街で見かけたあの恋人同士と同じ事をしているのですね。
私もあの恋人同士と同じように大人になったのです。

今だじっと見つめてくださるリヴァイ兵長に、私はもじもじしながらはにかんだ。


「リヴァイ兵長の手は大きいですね」

「…てめぇの手は小せぇな」

「そ、そうですか?きっと兵長の手が大きいから、そう思うのですよ」

「いや、小せぇ……ナマエ」

「はい」

「お前…初めてか?」

「は、はい…こういった事は初めてです」

「……そうか」


初めてリヴァイ兵長と恋人同士らしい事ができて嬉しいけれど、初めてはやはり緊張しますね…。
私は恥ずかしさにリヴァイ兵長のお顔が見れず、握られた彼の手ばかり見つめていた。


「ナマエ」


するとリヴァイ兵長の手に少し力が入ったので視線を上げると、熱っぽい目で私を見つめた兵長と目が合った。
リヴァイ兵長のこんな目は初めて見ます。


「……優しくしてやるから、無理はすんじゃねぇ。痛かったら直ぐ言えよ」

「え?あ、あの…それはどういう意味ですか?」

「…は?」


リヴァイ兵長の言っている意味が分からず首を傾げると、何故かご自分の首元を緩め始めたリヴァイ兵長の動きが止まりました。
微かに私の言葉に驚いているようです。


「私、リヴァイ兵長と恋人同士らしく手をつないだり、のんびり室内デートをしたいのですが…デートで痛い事なんてするのですか?そんなデートは嫌です」

「…………………」


あれ…リヴァイ兵長の動きが完全に止まってしまいました、どうしたのでしょう。

不思議で首を傾げていると、驚いたように丸くなっていたリヴァイ兵長の目が、ゆっくりといつもの倍以上細められた。
突然の形相に、何が彼の機嫌を損ねてしまったのか分からない私は思わずびくりとしてしまいました。


「……てめぇ…紛らわしい事言いやがって……」

「きゃあ!リ、リヴァイ兵長怖いです!紛らわしい事って何ですか!?」

「うるせぇ、期待させるだけさせといてお預けだと?こっちの気も知らねぇで…」

「きゃ!?」


ぐいっと強く手を引かれ、私はリヴァイ兵長の腕の中に閉じ込められた。
リヴァイ兵長の胸板に頬が押し付けられて、細身に見えた彼の身体にはしっかりと筋肉がついている事をこの時初めて知りました。
怒っているような声とは裏腹に私の身体を包み込む腕はとても優しくて、頭の上にリヴァイ兵長の顎が乗せられたのが分かった。

するとリヴァイ兵長の小さな舌打ちが、頭上から聞こえました。


「チッ…どうしてくれんだこの熱…」

「熱?だ、大丈夫ですか!?薬なら私、沢山持っていますので酷くなる前に飲んでください!」

「その熱じゃねぇよ…天然が」


上を見ようとしますがリヴァイ兵長の顎が乗っている為上が向けません。
リヴァイ兵長の腕の中で薬を探してあたふたしていると、頭から重みが無くなり額に何か柔らかいものが触れた感触がしました。


「え?」


上を向くと、軽いリップ音と共にリヴァイ兵長の唇が額からゆっくり離れていき…私はあまりの出来事に目をまん丸にして硬直してしまいました。


そんな私の様子に、リヴァイ兵長はほんの少し口の端を上げた。




「てめぇには刺激が強すぎたか?まぁいい、今日はこのくらいにしといてやるが…次は倍にして返してもらう、覚悟しておけ」




リヴァイ兵長の親指が私の唇をそっと撫でて…その瞳に真っ赤になった私の顔がはっきりと映っていた。









(わ、分かりました…!あとでペトラさんに、何を倍にして返さないといけないのか聞いておきます!)
(………天然が)
2016.3.5

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ