進撃の巨人
□お礼の手紙
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第57回壁外調査が失敗して、俺達は壁の中へと帰ってきた。
調査兵団の帰りを出迎えた民衆はほとんどが調査兵団の失敗を罵倒する声を上げていた。
俺は荷馬車に寝そべり悔し涙を流した、流さずにはいられなかったんだ。
俺達をかっこいいと言ってくれる子供達の顔が見れなかった。
「エレン」
ミカサの声に急いで涙を乱暴に拭き、顔を隠していた腕をどかした。
「なんだよ、ミカサ…」
「呼ばれてる」
「は…?」
荷馬車の外をチラリと見て言うミカサに正直訳が分からなかったが、耳を澄ましてみると確かにミカサの言う通り…誰かの声がした。
「おにいちゃん!おにいちゃん!」
荷馬車の外から聞こえてくるその声は小さな女の子の声だった。
俺は身体を起こし荷馬車から顔を出すと、小さな女の子が小走りしながら必死に荷馬車の横をついて来ていた。
まだ走り方も上手く出来ないような小さな女の子。
顔を出した俺を見ると女の子は嬉しそうに笑って、俺を見上げてきた。
「バ、バカ…!荷馬車のそばにいたら危ないぞ!」
慌ててそう女の子に言うのに、女の子は俺の言う事を聞いてるのか聞いてないのか嬉しそうに笑うだけだった。
女の子は手に持っていた何かを、俺に差し出す。
「これ、もらって!」
「?あ、ああ……」
荷馬車から上半身を乗り出して、俺は女の子が差し出してきた物を受け取った。
手で持つとカサリと音がするそれは、手紙だった。
すると女の子の母親らしい女の人が急いで駆け寄ってきて、女の子を抱き上げた。
……なんだかその女の人が、母さんに似ているような気がして、胸がズキリと痛んだ。
「こらナマエ!勝手に駄目でしょう!あの…娘が突然すみませんでした」
「あ…いいえ、そんな事…」
女の人はナマエという名前らしい女の子を抱き上げたまま俺に頭を下げた。
そのまま親子は荷馬車から離れていった。
「バイバ〜イおにいちゃん!」
女の人の胸に抱かれた女の子が俺に元気よく手を振るから、俺も手を振り返した。
俺は…きちんと笑えていただろうか。
「エレン、それ…手紙?」
「ああ…手紙だ」
ミカサの横に座り直し、女の子がくれた手紙をそっと開くとミカサも横から覗き込んでくる。
手紙の中身を見た途端、俺は目を丸くした。
そんな俺の様子を見たミカサが、少し笑うような気配がした。
「…頑張らないとね、エレン」
「……ああ、そうだな」
手紙に書かれたまだたどたどしい文字が、涙で滲んだ。
これ以上文字が滲まないよう目をごしごし腕で拭き、俺は拳を握り締める。
泣いてばかりいられないんだ、俺にはやるべき事が山程ある。
「………ありがとう」
たどたどしい文字をもう一度見つめて、俺は呟いた。
『ちょーさへいだんのおにいちゃんへ
いつもきょじんからまもってくれてありがとう!これからもがんばってね!
ナマエより』
2016.2.27