短編

□月灯りに消える
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『鬼に怯えて生きる暮らしが終わったのは良いけれど、今度は日の光と鬼殺隊に怯えながら生きないといけないなんて……人生っていうのは皮肉なものですね』

足元の石ころを蹴飛ばしながら呟いた。

五体満足で不調など何一つ無い。

健康そのもの、元気そのものの身体を興味深く動かして回る。

「人間などに殺されないよう強くなれば良い。人を喰らって、強く」

傍らに立っている男、鬼舞辻無惨が私の言葉に応える。

何か興味深いことでもあるのか、彼は先程からこちらにじっとりと視線を向けていた。

まあ、良くも悪くも奇異の目には慣れている。

あの子は災いを呼ぶ忌子だと、幼い頃によく言われていた。

『今までだって鬼に殺されないよう強くなろうとしていたのだから、笑えるくらい変わり映えがしませんね』

そう返して、言葉通りに自嘲する。

「……お前のように人間だった頃のことを饒舌に話す鬼は珍しい。もしかすると、いずれは強い鬼になるかもしれないな」

『そうなのですか』

鬼の将来性とか、何が普通で何が珍しいかなど私にはよく分からない。

それなりの数の鬼を殺してきたけれど、対峙した相手の能力や戦闘力以外のことを知るような機会は無かったし、興味も関心も無かった。

私はただ、私が生き残ることだけで精一杯だった。

「お前が私の役に立つ限りは、配下として使ってやろう」

その言葉でようやく、纏わりつく視線は私を値踏みしているのだと気付く。

鬼舞辻の血を与えられた時から既に、──否、ある意味では彼と出会うよりずっと前から、私の命は彼の掌の上だったのだ。

「ただし、間違っても私に逆らおうなどとは考えるな。私に刃を向けることは許さない」

凍てつく視線に、心の奥深くまで突き刺される。

重く絡み付く言葉はまるで呪いのよう。

『言われずともそんなことはしませんよ。私だって、死にたくはありませんから』

「……それで良い」

そう言ったのを最後に、鬼舞辻は踵を返して歩き出した。

その場に放置された私は、一瞬の逡巡の後、彼を追って駆け出した。

今の私には帰る場所も行く宛もなく、あまつさえ人ですらなくなってしまったのだ。

ならば、彼に付き従うより他に無い。

どんな形であれ私は今も生きているのだから、やるべきことは本質的には変わらない。

いつか誰かに殺されるその時まで、ただひたすらにこの生にしがみつくだけだ。

だって私は、ただそれだけで生きてきたのだから。




月灯りのせいだろうか。

暗く静かな闇夜の世界は、いつもより色鮮やかに見えた。

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