清掃員シリーズ

□カードにしない
1ページ/1ページ


「僕、夢が出来たんだ」

唐突にユーリ君がそう口にした。

『そうなんだ、それは良かったね…!どんな夢なの?』

夢。とても素敵な響きだ。

その言葉は希望に満ちた感じがする。

キラキラしていて、眩しいとさえ思うほどだ。

何処か楽しげな様子でそんな話題を始める彼を見て、こちらも微笑ましい気持ちになる。

「全ての次元の人を一人残らずカードにするんだ。僕以外全員ね」

夢も希望も無い夢だった。

無邪気な笑顔から一体何をどうしたらそんな言葉が出て来るのか、と心の内で頭を抱える。

ユーリ君がそういう人であることは知ってはいるけれど、そう簡単には理解が追い付かない。

先程まで思い描いていたイメージとの落差に愕然とするばかりだ。

『あ、あはは……そうなんだ……』

ただの冗談なのかもしれないが、どう反応すればいいのか分からない私は苦笑いするしかない。

「うん。世界中の人達を皆倒してカードにしたら僕が世界で一番強いってことだからね」

そう言う彼はやはり楽しそうに弾んだ声音だ。

これは小さい子が世界征服を企むようなノリなのかな…、と無理矢理納得しようと試みるが、彼自身の力を鑑みるとあながち夢物語でもないような気がしてしまう。

『そしたら、私もカードにされちゃうね』

彼の夢とやらに思いを馳せてみるが、底辺の中の底辺である私などは真っ先にカードになるのだろうなぁという悲しい想像しか出来なかった。

きっと彼のことだからそうだねと何の躊躇も無く肯定してくるのだろうと踏んでいたのだが。

「あれっ、……そっか、そうなっちゃうね」

予想に反してユーリ君は目を丸くしていた。

「うーん……………………じゃあ澪織さんは例外にしよう!僕と澪織さん以外全員ってことで」

彼は逡巡の後、名案を閃いたとばかりに人差し指を立てる。

『いいの?さっきはユーリ君以外は全員倒すって言ってたけれど…』

「うん。澪織さんは明らかに僕より弱いから残ってても僕が世界で最強ってことに変わりは無いし。それに、応援してくれる人が居たほうが盛り上がるじゃない?」

『そういうものなの?』

「そういうものだよ」

喜んでいいものか困ってしまう理由ではあったが、後半の言葉を聞いて微かに胸が弾んだ。

私で役に立つならばいくらでも応援しよう。

彼の発言に深い意味は無いのだろうけれど、そんなふうに思ってしまう私は呆れるほど単純だ。

緩んでしまいそうになる表情をどうにか表に出ないように抑え込んで向き直る。

『えっと、ユーリ君は一番強くなりたい、っていうことでいいんだよね?』

「うん」

『それなら世界大会に優勝するとかじゃ駄目なの…?』

「それじゃあ面白くないでしょ」

『面白くないの…?大会にすごく燃えてる人とかいっぱい居ると思うけれど』

「勝手に決められた相手とトーナメントで闘って、何人かとだけデュエルしてはい優勝だなんてそんなのつまらないよ。誰が相手だろうと僕自身が倒すから楽しいんだ」

私にはよく分からない考え方だけれど、ユーリ君に当然のように言い切られると何だか納得してしまいそうになる。

負けることが全く考慮されていないように感じられる物言いだが、彼にはそれ相応の実力があって。

その不遜なまでの自信が私には眩しくて、羨ましい。

『だけど、世界中の人が皆居なくなっちゃったら寂しくなっちゃうね』

「僕が居るんだから寂しくなんてないでしょ」

『んー……確かにそうかも』

沢山の生徒や教師が行き交うアカデミア、人々で賑わう街、様々な場所での喧騒や緩やかな交流。

そんないつもの日常は全てがカードになったら無くなってしまうだろう。

けれど。

彼が居れば寂しくない、というのはその通りかもしれなかった。

それほどまでに私の過ごす日々に占める彼の割合は少なくないものになっている。

『二人だけなら、つらいことや嫌なことも無くなるかな』

「もちろんだよ。僕と澪織さんしかいないんだから」

つらいことも嫌なことも無くなって、ユーリ君と二人なら。

『そっか。それなら悪くないかもね』

そんな世界も、確かに夢として思い描くに値するような気がした。

「世界に二人きりなら、澪織さんとずっと一緒にデュエルできるし」

『あはは、結局デュエルなんだ……ブレないなぁユーリ君は』

「僕にはデュエルしか無いからね」

こうやって笑い合える時間があるならば、それが私にとっては理想とも言えるものなのだから。

.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ