清掃員シリーズ

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「はい僕の勝ち」

小さなテーブルの向かいに座るユーリ君は、余裕の笑みと共にフィールドがガラ空きになった私に向けてダイレクトアタックを宣言した。

デュエルディスクは使わず、テーブルにプレイマットを広げてのデュエル。

大してターン数も経過しないままいとも簡単に決着が着いたそれに、彼は勝利の余韻もそこそこに私に向けて微妙に辛辣な言葉を投げつけた。

「澪織さんって本当にデュエル弱いよね」

『うぅ……確かに弱いけど、ユーリ君が強すぎるのもあるっていうか…』

歯に衣着せぬ物言いに、私は肩を落とす。

アカデミアに来てから新たに組んだ融合特化デッキにも馴れ、ユーリ君にも幾度か指南してもらったこともあってこれでも昔よりは多少実力は上がったつもりなのだが、彼はとにかく強くて足元にも及ばない。

歳下の子相手にこの様とは情けない、とは思う。

けれども、歳上相手だろうと歳下相手だろうと私がデュエルで勝てたことなんて今までの人生で片手で数えられるくらいしかないのだった。

「アカデミアの生徒だったら独房送りどころか今直ぐにでも海に捨てられそうだよね」

『それは否定できない……』

彼は嘲笑混じりに冗談めかして言うが、私にとっては全く冗談にならない。

一応はアカデミアに生徒として所属できる年齢でありながらこうして清掃員として拾ってもらっている理由の一端には、このあまりにも残念なデュエルの力量もあるのだ。

「それだけ手札残ってたならもうちょっとトラップカードとか伏せたらどうなの?…………って、全部モンスターなんだ……」

残っていた私の手札を奪い取ったユーリ君は、その中身を見て拍子抜けしたような表情になる。

彼の言う通りそれは全てモンスターカードで、そこには手札にあって効果を発揮するようなものもこれまでの盤面で優先的に出しておくべきだったと言えるものも無い。

賢い彼のことだから、それを少し見ただけで私がプレイングミスと呼ばれるようなことをしていたわけではないことを悟ったのだろう。

案の定、事故ってたならもう一回やる?というお誘いを頂いたが、丁重にお断りしておいた。

全く、事故とは心外である。

私にとってはこれがいつもの手札なのだが。




世の中にはカードに愛されている人間というものが少なからず存在すると思う。

それは例えばユーリ君や、あるいは……私の弟、のように、デュエルで望んだカードや流れを変えるカードを手にすることが出来る、時に天才と呼ばれるような人達だ。

彼らが引き寄せるのか、カードが想いに応えてやって来るのかは分からないが、兎に角そういう人間が居るのである。




そしてその対極に、カードに愛されない人間というのも確実に存在しているのだ。




再戦を断られたことに未だ納得していないらしい彼は不満げな視線を投げつけてくる。

その様子に少し罪悪感のようなものは感じるけれど、こちらはもうデュエルは充分だ。

引き下がる気配を見せない彼に、私は小さく溜息を吐く。

『もう……そんなにデュエルがしたいなら他の人に頼んだら?アカデミアには強い人が沢山居るでしょう』

「そういう問題じゃないんだけど」

『ならどういう問題なの?』

「僕は澪織さんとデュエルしたいってこと」

『……でも、私なんかとデュエルしたって楽しくないだろうし』

「楽しいか楽しくないかは僕が決めることだよ」

『…………知ってるでしょ?私ものすごくデュエル弱いの。ユーリ君とじゃ相手にならない……』

「それで構わないから」

『………………』

彼が何を期待してデュエルを持ち掛けるのか、私には全く分からない。

白熱した戦いも、奇想天外な戦術も、私には到底演じられないものだというのに。

……勝手に何かを期待されるのは、正直に言うと苦手である。

失望されることを知っているから、というのは少し違うと思う。

それもあるけれど、何よりも期待に応えられない自分自身が惨めで仕方ないからだ。

「……分かったよ。デュエルはまた今度にしよう」

渋々といった様子でそう零した彼に安堵する。

それほど長い付き合いでもないけれど、ユーリ君は何だって自分の思い通りになると思っている節があるようだったのでそう簡単には引き下がってくれない気がしていたが幸いにも予想は外れたようだ。

デュエルはあまり好きではないので、私とは対照的にデュエルが大好きらしい彼がひとまずそこから離れてくれるならば此方としては有り難い。

しかし、また今度という言葉が聞こえたので素直に頷くことはできずに曖昧な笑顔だけを返した。

「じゃあ次は何をして遊ぼうか」

そう言って考え事を始めた彼に、今度は私の苦手ではないゲームが良いなと小さく願うのだった。

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