清掃員シリーズ

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どんよりとした雲の立ちこめる鈍色の空の下、人通りの少ない道で私は掃き掃除をしていた。

ここは絶海の孤島に建てられた学校、アカデミア。

才能ある少年少女を募ってデュエルで戦うデュエル戦士を養成している施設であり、私はそこの清掃員として住み込みで働かせてもらっているのだった。

現在は授業中なので、校舎の外を歩く者はほとんど見当たらない。

その静かな空間で黙々と竹箒を動かしていると、カツカツと地面を蹴る靴音が聞こえてきた。

手を止めて視線を上げれば、少し離れた所に見慣れた紫を纏った人影があった。

「こんにちは、澪織さん」

私が気付いたのを確認し、そう言って微笑んだ彼の名はユーリ。

気品のある紫に身を包んだ、小柄でありながら堂々とした佇まいの少年だ。

特徴的な形をした髪と彼の纏う丈の長い衣服が風の吹く度にふわりと揺れる。

彼は以前色々あって路頭に迷っていた私を助けてくれた命の恩人に近い人物でもあった。

『こんにちはユーリ君!久しぶりだね、今日は暇なの?』

「まあね。一応この後プロフェッサーのところに行かないといけないんだけど、それまでは時間があるから澪織さんの生存確認に」

この時間はアカデミアの生徒は授業に出席しなければならないはずだが、ユーリ君はその範疇には入らないらしい。

何でも彼は、アカデミアでも特別な地位にいるのだとか。

そういうわけで、暇を持て余した時には私の許を訪れてくれるのだそうだ。

「澪織さん、最近は変わったこととかあったりした?」

『変わったこと…?うーん、特に無いかなぁ』

「そう」

『毎日似たようなことしかやってないからね…。あ、そういえば購買で新しいパンが出てたんだけど、それは結構美味しかったよ!』

「へえ、それは気になるね」

こうして話す時のために普段から話題の種を探してはいるけれど、共通の話題というのも案外少なくて苦労したりもする。

せっかく来てくれたのだから退屈させたりはしたくないのだが、こういう経験に乏しい私にはなかなか難しいことだった。

『ユーリ君はどう?』

「僕もこれといって特別なことは無いなあ。いつも通り任務に行ったり、デュエルしたり」

『なんだか大変そうだね』

「そうかな?僕は楽しいことだけやってるつもりだけど」

『楽しんでるんだ。それなら良かった』


会った時にはそうして他愛もない会話をして、どちらかに用事があったり、話すことが無くなったりしたら別れる。

彼との関わりはそんな曖昧なものではあったけれど、こうして過ごすひと時が私にとっては楽しい時間だった。

 
 

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