清掃員シリーズ
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『うーんとね…………私はデュエルが嫌い、ってこととか』
「それは知ってる」
『知ってるならしょっちゅうデュエルに誘ってくるのやめてくれないかな』
「それはやだ」
『…………ユーリ君のそういう所嫌い』
「えぇー、酷いなぁ澪織さん。そんな事言われると傷付くんだけど」
白々しい口振りでユーリ君が言う。
『なら、もうデュエルをせがんだりしないでね』
「それは無理」
『えぇ……』
相変わらずといえば相変わらずな言動に私は苦笑するより他ない。
彼は自分のペースを押し通す人だ。
「他には?」
『他にはねー…………あ、そうだ。もう少ししたらアカデミアを出て行こうと思ってるの』
「え」
『アカデミアで働かせてもらったおかげでそれなりに貯金もできてきたし。いつまでもあの人のお世話になってるのも癪だからね。もうすぐで目標にしてた分まで貯まるから、そしたら次の仕事でも探そうかなって──』
「そんなのダメだよ。僕が認めない。ずっとアカデミアに居て」
私が言い終わる前に、ユーリ君がすごい剣幕で迫ってきた。
『ど、どうして?』
思わぬ反応に、私は目を丸くした。
少しくらい名残惜しく思ってもらえたら、とは考えたこともあるけれど、こんなに引き留められるとは思わなかった。
私にとってのユーリ君は命の恩人であり、大切な友人のような人であり、とても大きな存在だけど、彼からしたら私なんて取るに足らない暇潰しの道具くらいのものだと思っていたのに。
「暇潰しの相手が居なくなっちゃう」
──やっぱり暇潰し相手だった。
『それ、別に私じゃなくても良いでしょう?アカデミアならユーリ君とデュエルしてくれる子だっていっぱいいるはずだし』
「そうでもないよ。皆僕を避けてる。…………澪織さんくらいだよ、こうやって僕の相手をしてくれる人は」
『そう、なの…?』
今度もまた私が驚く番だった。
私の言葉に頷くと、ユーリ君は肩を竦めた。
「強すぎるっていうのも考えものだよね。だーれもデュエルしてくれないし、それどころか目も合わせてくれなかったりするし、すっかり嫌われ者だもん」
思い返してみれば、ユーリ君と一緒に居るところを見たことがあるのはデニス君くらいだ。
単に私と会う時にわざわざ他の人を連れて来ないだけだと思い然程気に留めてはいなかったが、どうもそれだけではなかったらしい。
心当たりも無いわけではない。
普段は通り掛かると挨拶をしてくれるような生徒達が、ユーリ君と話している時には避けていったり遠巻きにひそひそと何か囁き話をしていたことは幾度かあった。
それは実力も遠く及ばない相手と不釣り合いに親しげにしているように見える私に向けられているものだろうと思っていたけれど、そうではなかったのかもしれない。
それに…………避ける気持ちも分からなくはないのだ。
私だって、どう考えても勝ち目が無いような強すぎる相手とわざわざ戦いたいとは思わないし、苦手意識だって抱くだろう。
出会い方が違っていたら、私だってそちら側だったかもしれない。
そう考えると、酷く罪悪感を覚えた。
『な、なんか、ごめんね……私、何も知らなくて……。デュエルしようって言われても、私ユーリ君の気持ちなんて全然分かってなくて、いつも断っちゃってて……』
「澪織さんはあいつらとは違うから別にいいよ。澪織さんがデュエルしたがらないのは僕に限った話じゃないでしょ。僕はデュエルが好きなくせに僕とだけデュエルしたがらないヤツが嫌なだけ」
そうは言ってくれていても、やはり申し訳無さは拭えない。
知らず知らずのうちに、私は彼を傷付けることをしていたのかもしれない。
もしかしたらこれ以外にも何かしでかしていたかもしれない。
先程彼は私について知らないことばかりだと言っていたけれど。
私も、ユーリ君については知らないことばかりだ。
否、意図的に知ろうとしていなかったのかもしれない。
相手の事情に深く踏み込めば、こちらも踏み込まれることを覚悟しなければならない。
だからどこかで距離を保ちながら、触れたくない話題を避けながら、当たり障りのない──と自分で思い込んでいる──関わり方を続けてきた。
でも、それでは駄目だったのかもしれない。
──ああ、私も、ユーリ君のことをもっと知りたい、知らなきゃいけない。
そんな想いが少しずつ自分の中に生まれていくのを感じた。
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