清掃員シリーズ
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「それにしても、そうまでして家出したかったの?」
『それは、まあ…………ちょっとね……』
そのユーリ君の問い掛けに、明るくなりかけた気持ちが再び暗く淀む。
『……嫌いだったの。家族のこと』
「家族が、嫌い…?そんなことあるの?」
『家族にも色々あるんだよ』
「ふーん……。家族っていうのは皆仲良しなんだと思ってた」
『……普通の人からしたら、そうだろうね』
「僕には家族なんて居ないからさ、よく分からないんだよね」
…………聞いてはいけないことを聞いてしまった、かもしれない。
『あ…………そう、なんだ……』
知らなかった。
確かにユーリ君から家族の話が出たことは無い。
それは私がその話題を避けていたせいだと思っていたが、考えてみれば彼からも話題を振られたことは無かった。
そして、毒吐いたことを後悔した。
普通の幸せな家に生まれた人には分からないよね、なんて、そんな黒い感情の混じった言葉をぶつけようとした。
…………何も分かっていなかったのは、私のほうだ。
「…………家族なら手っ取り早く使えると思ってたけど、嫌いな人もいるってことは今度からは人質に使えるか下調べしといたほうが良いのか……」
『えっ、な、何か物騒なこと言ってない…!?』
「そう?」
不意に何でもないような顔でとんでもないことを言い出す彼にまた私は動揺させられる。
何だか今日は調子を乱されてばかりで、おちおち塞ぎ込んでもいられない。
……それにしても。
深く詮索したことは無かったのだけれど、時折不穏な単語が見え隠れするユーリ君の任務とやらは一体何なのだろう。
「ねえ、他には?」
『ま、まだ訊くの?こんな話、あんまり面白くないと思うんだけど……』
「確かに面白くはないね。逆にムカつくくらいだよ、知らないことばっかり出てきてさ。澪織さんのことは大体知ってると思ってたのに」
『え……』
「……前はね、別に澪織さんの素性なんて知らなくてもいいと思ってたんだ。ただ話をしたりデュエルしたりしてるだけで楽しいしんだから、それ以外のことになんて大して興味は無かった。でも、不思議とだんだんそれだけじゃなくなってきたんだ。よく一緒に居るようになって、色んな話をして少しずつ色んなことを知っていく度に、余計に色んなことが気になってきて、知りたくなってきて……。プロフェッサーが僕の知らないことを言い出した時、何だか負けたような気持ちがして嫌だったし。だから僕はもっと、澪織さんのことを知りたい」
『…………』
何と言ったらいいのか分からなくて、何だか気恥ずかしくて、視線の遣り場に困ってしまって。
何も言えないまま俯いてしまう。
こんなことを言われたのは、初めてだ。
「だからほら、次行こう次」
そんな私の戸惑いを振り払うかのように続きを急かされる。
こう改まって追及されると、意外と話すことが思い付かなくて。
あれこれ話してきたけれど、そろそろネタ切れが近いかもしれない。
頭を捻ってどうにか次の話を探す。
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