清掃員シリーズ

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『……ごめんね、ずっと隠してて』

けれども、それは私の身勝手な我儘だ。

あの人の権力を厭いその呪縛に怯える一方で、こうして職の面倒を見てもらったりして、あの人の権力と庇護を都合良く利用している。

私はなんて卑しい人間なのだろう。

「ほんとだよ。酷いよね、僕だけ仲間外れにするなんて」

『えっ……、あ、いや、そういうつもりじゃなかったんだけど……』

「澪織さん、他に隠してる事とか無いよね?」

『他…?』

「うん。この際だし全部洗いざらい白状してもらおうかな」

『えぇ……全部って言われても……』

確かに、ユーリ君に隠していることも言っていないことも沢山ある。

実のところ、そういう伝えていないことのほうが多いくらいで。

それらは単に機会が無かったから伝えていないだけのこともあれば、何となく言い出しづらかったことも、意図的に隠していたこともある。

尤も、最大の隠し事の一端が露呈した今となっては、隠さなければならないことなんてほとんど失くなったも同然ではあるのだけれど。

だったらもう、彼の要求通り何もかも洗いざらい白状してしまうのもアリかもしれない。

『うーん、そうだなぁ…………まず、私はスタンダード次元から来たってこととか、かな、言ってないのって。向こうでは元々お父様とお母様と弟で暮らしていたんだけど、家出してこっちの融合次元に来たの。まさかお父様もこんなところでプロフェッサーになってるとは思わなかったけどね』

「澪織さんがこの次元の人じゃなさそうなのは薄々知ってたけど、スタンダード次元か……まだ行ったことないなぁ。そういえばプロフェッサーもスタンダード次元から来たって言ってたっけ」

『……さっきも思ったんだけど、意外とプロフェッサーから色々聞いてるんだね。あの人はあまり自分の話をしない人だと思ってた……』

「普段は澪織さんの言う通りだよ。スタンダード次元のことだって、ここ以外の次元に行く任務の説明をされた時に一瞬だけその話になったくらいだし。それより澪織さんこそ、家出とかするような人だと思わなかった」

『そうかな…?まあ、したいとは思っても実行しなかった期間のほうが長かったし、きっかけが無ければ家出なんてしてなかったかも』

「きっかけ?」

『次元転移装置を見つけたの。普通に家出しただけだったらすぐ連れ戻されるのは目に見えてるけど、次元を越えちゃえば!って思って。でもあまり衝動的なことはしないほうが良いね…………こっちに来た後のことを軽く考えてたから危うく野垂れ死ぬところだった……』

遠い目をしながら思い返したくない恥ずべき過去に思いを馳せる。

我ながらあれは一生の不覚だ。

「それで行き倒れてたんだ…。アカデミアで行き倒れてる人なんて見たことなかったしスパイか何かかと疑ってたよ」

『私そんな疑いかけられてたの!?』

突如告げられた衝撃の事実に、私は勢い良くそう叫んだ。

うん、とユーリ君が冷静に頷く。

『ま、まあ、そうだよね……今なら分かるけど、アカデミアに制服も着てない見覚えの無い人間が居たらめちゃくちゃ怪しいよね……今の私だったら絶対警備員さんに通報するもの……。最初に会ったのがユーリ君で本当に良かった……』

もしもこの融合次元に来て早々逮捕なんてされていたら、私の人生はどん底まっしぐらだっただろう。

他の次元から来た人間はこちら側には知人も居なければ戸籍も住む所も無いのだから、不審者以外の何者でもない。

そんな絶望的な状況に片足を突っ込んでいた私を、彼は救ってくれていた。

行き倒れていたところに食料を恵んでくれた命の恩人ということ以上に、更に重要な恩人だったのだ。

「そうそう。澪織さんはもっと僕に感謝するべきだよ」

『うん、あの時は本当にありがとうね。今こうして生きてるのも普通に暮らしていられるのも全部ユーリ君のおかげだよ…。感謝してもしきれないくらい』

私がそうお礼を述べると、ユーリ君は満足げに顔を綻ばせた。

その様子に私もつい表情が緩む。

しかし、言葉だけではこの感謝の念を表すには全く足りていない。

ユーリ君には今度また食堂で何か奢ってあげたり差し入れしたり色々便宜を図ってあげよう、と心の内で決意した。


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